識鏡録 49 思った以上に深い傷
この作品は東方Project様の二次創作です。
※オリキャラ多数
※独自設定多数
※キャラ崩壊そこそこ
※投稿不定期
以上の点に注意してお楽しみ下さい。
霊夢との対談の後、聖は一つ指示を追加してから既に結界の解けた目的地へと向かった。
身体強化を施し、とても人間とは思えない速度であったため、さほど時間を必要とせずに到着する。
「む?来たか。久々じゃな。しぶとく生き残っておるようで何よりじゃ」
空から降って来たにも関わらず無音で着地したことには触れず、萃香はそう挨拶する。
「お久しぶりです。伊吹様。ご壮健そうで何より……。これは……!」
そこには、酷い傷を負って倒れている寅丸の姿があった。
萃香はその治療をしている様子だが、そもそも滅多に怪我することの無い彼女は治癒系の術には不得手。かろうじて延命しているという程度だろう。
「うむ。わしも疲れてきた。そろそろ代わってもらおうかのぅ?」
萃香はわざとらしくそんなことを言う。
もちろん、聖に否やはない。
「もちろんです」
聖は後ろへ引いた萃香に代わり、治癒を引き受ける。
酷い傷だ。肉がゴッソリと抉られている。
「(魔人経巻……!)」
長い付き合いになるアーティファクトは、念じるだけで応えてくれる。
アーティファクトとは古代人が遺した武器以外の道具を指す言葉だ。
『魔人経巻』は、かつて古代人が魔神の力を再現するべく研究していたという代物で、理論上あらゆる魔法を発動出来るというとんでもないアーティファクトだ。
「ふむ。やはりそれは便利じゃのう。わしにも使えたら良いのじゃが」
魔人経巻はその力故に、悪用されればとんでもないことになる。
そのため、魔人経巻には倫理機構と呼ばれる術式が組み込まれており、私心薄き者にしか使えないと言われているのだ。
「入信して修行なさればきっと使えるようになりますよ」
魔人経巻は試作品であり、世界に一つしか存在しないので、使えるようになっても意味はない。
「ふん……。ところで、治せそうかの?」
かなり深い傷な上に、散弾でグチャグチャにされているときている。
修復は容易なことではないだろう。
「……正直、難しいです」
魔人経巻は使用者の精神力を消費して魔法を発動させる。
理論上あらゆる魔法を発動出来るとはいえ、それはあくまで魔人経巻の性能に限った話であり、使用者の方には限界があるのだ。
「ふむ。ならばあやつに頼るかの?」
「……ルーティル卿ですか?」
「うむ。奴の加護を分けて貰えば治るじゃろうて」
ルーシー・レイヴ=フォン・ルーティルは、プレシラのように《長寿》を持っており、人里の成長を長く主導してきた有力者の一人だ。
「あまり気乗りはしませんが……」
ルーシーはやんごとなき神の寵愛を受け、降りかかる害の全てを無力化する加護を授かった……らしい。
「ほう? お主もあやつの加護を気に食わんクチか?」
「お主も」と言うように、萃香も彼女のインチキじみた加護を快く思っていない。
「そういう訳でもありませんが……。彼女の加護には不明瞭な点が多すぎます」
戦闘能力はほとんど無いに等しいルーシーだが、彼女は『無敵の女』と半ば皮肉られている。
加護の力であらゆる攻撃や妨害が効かないのにも関わらず、戦闘に関してはからきしなせいだ。
「そもそも、彼女の加護は強力過ぎます。なんら代償も無く大天神級の放つ霊壊術式すら防ぐ程の加護を与えられる神など……」
そんな者がいるとすれば、それは超越神くらいのものだろう。
超越神の寵愛を受けているなんて言われても、胡散臭いにも程がある。
あれは人の思考の及びつくものではないのだ。
「同感じゃ。考えたくもないわい。じゃが……」
今はそんな彼女の加護に頼らなければならないだろう。
「加護を分け与えられるなんていうのも……」
非常識にも程がある。
「……ルーティル卿の屋敷まで運びます。お力をお貸し願えますか?」
だが、背に腹はかえられない。寅丸の命が最優先だ。
「よかろう」
萃香はそう言って寅丸に能力をかける。
体重を散らすことで軽くしたのだ。本当に便利な能力である。
「行きましょう」
聖はそっと寅丸を抱き上げ、治癒を続けながら歩き出した。




