識鏡録 04 人外の美
この作品は東方Project様の二次創作です。
※オリキャラ多数
※独自設定多数
※キャラ崩壊そこそこ
※投稿不定期
以上の点に注意してお楽しみ下さい。
それはあらかじめ決められていた姉妹の約束事だった。
霊夢が神社にいる時は、不審な人物を見つけたら大声で霊夢を呼ぶ。そうすれば……
反応は極めて迅速だった。
霊奈の叫びを聞いた瞬間、霊夢は《源の聖眼》を発現させて霊力を練り上げつつ、即座に霊奈の元へ飛びつけたのだ。
「無事ッ!?」
黒い瞳に聖眼の紋様を浮かべ、油断なく周囲を確認する霊夢。
様になったその姿は、彼女が若いながらに修羅場をくぐってきたことを示している。
「お姉ちゃん、あれ……」
「? 誰よ、こいつ……」
霊奈に示された方を見た霊夢は、怪訝な表情を浮かべた。
気配が全くしなかったのだ。いや、今ですら全く気配を感じない。しっかりと眼に映っているにもかかわらず、幻覚なのではないかと疑念が湧いてくる程だ。
「ん……。なんだよ、騒がしいなぁ……」
銀髪の少年は、そう言いながら起き上がった。
そうすると、急に気配を感知出来るようになる。どうやら幻覚ではないようだった。
「…………」
霊夢は警戒を解かずに少年を見上げる。
少年は背が高く、細身でありながら貧弱さを感じさせない身体をしていた。
そしてとてつもなく美しい。
姉妹は何度か神族を見たことがあるが、少年はそれと同種の容姿であるように思えた。
真霊種、特に神族に多い、神域の美しさ。
生きとし生けるものにはありえない、現実感のない感じが、とてもよく似ていた。
故に、霊夢は尋ねる。
「……貴方は…………概念神なの…………?」
問われた少年は、しばしの間を置き、答えた。
「……わからない…………」
姉妹は思わず顔を見合わせる。
わからないなどということがあるだろうか?
自分の種族など、知らずにいる方が難しい。
種族にはそれぞれ特徴があり、それがあればこそ種族として区別されているのだから。
「じゃあ、どこから来たの? 名前は?」
気を取り直してふたたび尋ねる。
「だめだ。何も思い出せない。どうやら俺は記憶喪失ってやつみたいだな……」
「……これまで何人か記憶を失ったばかりの人に遭遇したことはあるけど、自分で自分のことを記憶喪失って言う人は初めてだわ……」
幻想郷と外を隔てている博麗大結界は、意識がハッキリしていない人には殆ど素通り出来てしまう。
酔っ払っていたりだとか、気絶していたりだとか、記憶を失っていたりだとか。そういう人が迷い込んで来ることはよくあり、それを保護するのも博麗の巫女の務めの一つなのだ。
「(どうしたものかしらね……)」
あまりに美し過ぎる容姿からして、神族に縁のある存在ではあるはずだ。それが概念神なのか具象神なのかは不明だが、ただの人間とは思えない。
だが一方で、美しさを除けば、見た目は人間のそれの域を出ない。
人間は博麗の巫女の保護対象。判断に困るのだ。
「ケチケチするでないわ。保護してやるがよい」
霊夢が悩んでいると、いつものように突然現れた萃香がそんな事を言ってくる。
「……どういう風の吹き回し? あんたが博麗の巫女の仕事に口を出してくるなんて」
鬼人族は広義における妖怪だ。妖怪退治を生業とする博麗の巫女とは、本来敵対するべき存在なのである。
とは言え霊夢としても悪さをしないのであれば無理に退治する必要はないし、そもそも退治出来る相手でもないしで、友好な関係を構築している。
仕事は仕事としておおむね仲良くしているのだ。
だからこそか、これまで仕事に口を出してくることなんて無かった。
「なに、いい男じゃから惜しくてのぅ」
「…………」
まさか本気ではあるまいとは思うものの、まるきりの冗談とも見えなかった。
「そこの小僧」
「?」
「名前を憶えておらぬのじゃろう? なら、わしが名付けてやろう。どうじゃ?」
「うーん……ちなみにどんなの?」
少年は慎重派なのか、即答はせずに萃香の命名センスを測る。
「そうじゃのう……。識神鏡也なんてどうじゃ?。知識の識に神様の神、鏡ナリと書くのじゃ」
萃香は自信たっぷりに告げた。
「識神鏡也……。なんだかたいそうな名前だな」
「ふふふ。そなたの神族のような美しさと鏡のような髪に合うかと思うてのう」
「そういうものか」
「ま、いいんじゃない?萃香にしてはまともな命名だと思うわ」
「一言余計じゃぞ……」
少年は少し考えていたが、やがて頷いた。
「わかった。それでいこう」
「うむ。話はまとまったのぅ」
勝手に纏まったことにしようとする萃香を霊夢は慌てて遮る。
「ちょっと待ちなさいよ! 全然纏まってないわよ! ウチには霊奈もいるのよ? ここに住まわせるわけにはいかないわ」
人間でありながら強力な妖怪とも渡り合える戦闘力を持つ霊夢はともかく、霊奈は一般人と比べられる程度でしかないのだ。
鏡也の実力が不明な以上、襲われでもしたら取り返しがつかない。霊夢が心配するのも当然だった。
それに、霊夢の心配はあながち姉バカというわけでもない。霊奈は客観的に見ても超の付く美少女であり、しかも背が低くか弱そうな容姿をしているので、霊夢でなくとも襲われかねないとは思うだろう。
「じゃがの、こやつならわざわざそんなことせずとも女の方から寄ってくると思わぬか?」
「うーん……どうかしらね。よっぽどの自信がないとこんなのの隣に立ちたいとは思えなさそうだけど?」
鏡也はあまりに美し過ぎる。隣に立つ者が惨めに思ってしまう程に。故に一周回って遠巻きにされるとも思えるのだ。
「わかったわかった。ならばわしが監視しておいてやろう。それならば文句はあるまい?」
投稿遅れて申し訳ありません。
もう少ししたら投稿ペースはマシになる……と思いたいです。