識鏡録 48 博麗の巫女と阿闍梨の対談
この作品は東方Project様の二次創作です。
※オリキャラ多数
※独自設定多数
※キャラ崩壊そこそこ
※投稿不定期
以上の点に注意してお楽しみ下さい。
「お待たせ致しましたね」
遅い! と思わず口に出しそうになった霊夢だが、流石にそこまで子供では無い。なんとか飲み込み、代わりに睨みつけておく。
「そう睨まないでください」
そう言って聖は霊夢の対面に置かれていた座布団へ座る。
「改めて。命蓮寺僧兵団総司令、聖白蓮です。博麗の巫女よ、この度は何用で?」
そう言いながら霊夢の脚の様子を見て、聖は思わず目を細める。
「自己紹介の必要は無さそうね。単刀直入に言わせてもらうわ。人里の一部に結界が張られたことには気付いているわよね?そこに行って欲しいのよ」
表情を崩さずにそう言う霊夢の姿を見て感心しつつ、あえて脚の怪我には触れずに応える。
「無論結界の存在については認識しています。私に行って欲しい、というのは……何故です?」
霊夢の態度は、礼儀を欠いている。
しかし、脚の怪我が皮肉にも霊夢に好印象をもたらしていた。
礼儀を欠いているのも、脚の怪我が原因と考えれば腹も立たない。
幾度も死線をくぐり抜けてきた聖から見ても痛そうなのだ。
まだ若い霊夢が余裕を無くしたとしても仕方がないというものだろう。
「あんたを連れてこいって頼まれてるのよ」
「それは、誰から?」
「萃香よ。伊吹萃香。知ってる?」
その名は、忘れたくとも忘れられないものだった。
かつて、命蓮寺がその活動を開始したばかりの頃、萃香は「自分に挨拶しに来ない」という理由で襲撃をかけたことがある。
まだ命蓮寺が今よりずっと小さく聖もまだまだ未熟だった頃の話で、萃香に稽古感覚でボコボコにされ、士気を取り戻すのが大変だった。苦い思い出だ。
「ええ。もちろん」
しかし、今となっては懐かしい話でもある。
格上に殺さない程度にボコられた経験は、なかなか得られるものではない。
味方とのものであればそれはあくまで訓練に過ぎないが、萃香のそれは一歩間違えばあっさり死に至る特訓だったのだ。
貴重な経験と言うべきだろう。
「ですが、それは難しいですね」
「っ……! それは、どうして?」
霊夢の額に、僅かな脂汗が浮かぶ。
しかし表情自体は変えていない。
大した胆力だ。
「現在、副司令との連絡が途切れているのですよ。総司令と副司令が同時にここを離れる訳には参りません」
霊夢が口を開く前に、聖は鋭く続ける。
「ですが。条件によってはその難事を通してみせましょう」
「……! その、条件って……?」
魔道に堕ち、生に縋り付くようになってなお、聖白蓮が毘沙門天に信頼されているのは、それなりの理由がある。
「ここで治療を受けた後、永遠亭へ行って完全に治してもらいなさい。その脚、放っておいたら将来に関わります。それが条件です」
どれだけ挫折しても、どれだけ絶望しても、彼女の芯は変わらなかったのだ。
生への執着も、全てはただ求める道のため。
弟と共に達成するはずだった理想を、その手に掴むため。
「は……? それのどこがアンタの得になるのよ……」
将来有望な、まだ無鉄砲な若者に拭えぬ傷を負わせるくらいならば。
「得しかありません。私は貴女の将来が楽しみになりましたので」
霊夢はキョトンとしていたが、やがて分からないものを振り払うように頭を振る。
「わかったわよ。その条件、飲むわ」
聖は小さく頷くと、鋭く指示を出し始める。
「一輪ッ!」
「はいっ!」
「彼女の治療を。終え次第総司令代理に任命します。村紗に彼女を永遠亭まで送らせます。寅丸の捜索はナズーリンに」
「了解しました! 誰か、誰かいませんか!」
一輪が命令を伝えるために人を呼んでいる間に、霊夢は口を挟む。
「ちょっと。付き添いなんていらないんだけど?」
「付き添いではありません。監視役です」
怪訝な表情になる霊夢を見て、聖は言葉を足した。
「貴女はどう見ても血気盛んな人種ですし、噂に聞く話からしても大人しく永遠亭に行ってくれるか不安なのです」
さっきまで笑顔だった聖が急に真顔になってそう言うものだから、霊夢はついつい気圧されてコクコクと頷く。
「分かっていただけて何よりです」
笑顔が怖い。
こればかりは年の功とでも言うべきか、霊夢のような若輩者が敵う領域ではないだろう。
「さて。久々の運動です。少しは準備でもしましょうか」
本気なのか冗談なのか、聖はそんなことを言って身体をほぐし始めるのだった……。
章設定をした事でお気づきかもしれませんが、第一章の終わりが見えてきました。
投稿頻度についてはなるべく最低2週間に1回は出来たらなと思っています。
段々と忙しくなってきていますが、これからも投稿は続けていくつもりなので、ゆっくりと見守っていただけると嬉しいです。




