識鏡録 44 二手に分かれる
この作品は東方Project様の二次創作です。
※オリキャラ多数
※独自設定多数
※キャラ崩壊そこそこ
※投稿不定期
以上の点に注意してお楽しみ下さい。
「む……逃がしたと思うておったが……まだ捕捉出来るやもしれん」
「え? どういうこと?」
「話は移動しながらじゃ」
そう言って萃香は走り出す。
「ちょっと!?」
霊夢は慌てて低空飛行で後を追った。
「近くに結界が張られた。それもわしの権能でも容易には侵入出来ぬ程のものじゃ」
「っ……。それって……」
「霧也の小僧か、その仲間の可能性が高かろう」
偶然にしてはタイミングが良すぎる。
霧也が転移門の向こうに消えていってから、ほとんど時間は経っていないのだ。
「でも、仮にそうだったとしてどうするのよ? 戦うの?」
「む……」
実のところ、人里を守りながら霧也に勝てるかと言われると、萃香にも自信が無い。
あくまで余波を防ぐだけで良いのならば人里を守りながらでも戦えないことはないが、霧也が人里を狙った場合は流石に厳しいと言わざるを得ないのだ。
「そこはハッタリでなんとかするわい。それより霊夢、おぬしは命蓮寺の破戒僧を呼んで来い」
「どうして?」
「なに、ハッタリが通じなんだ時の保険じゃよ。わしが暴れていると思われても敵わんしな」
後半は冗談だろう。
とどのつまり、萃香は「人里などどうでもいい」というハッタリをかますつもりなのだ。
さっき引き下がったのは霊夢がいたからだと。
そのためには、霊夢に同行されては困るのである。
「それにその脚。今のままでは手遅れになりかねぬ。最低限にもとどかぬ応急処置しかしておらぬじゃろう。白蓮の奴に結界の所へ来るように言ったら、おぬしは永遠亭へ行ってしっかり治療して来るのじゃ」
しかし、これもまた本心ではある。
霊夢の脚は、放置していては手遅れになる大怪我なのだ。
「……わかったわ」
萃香の意図を察したわけではなかったが、霊夢はそう言って命蓮寺の方へ進路を変えた。
「あの脚で泣き言一つこぼさぬとは。流石に博麗の巫女なだけはあるのう……」
権能によって肉体を再構築出来てしまう萃香にとっては、あの程度では怪我のうちにすら入らないが、それでも痛いものは痛いだろう。
「霊華よ……。そなたの子孫はまだまだ見守る価値がありそうじゃ」
かつての友へとそう語りかけると、萃香はいよいよ結界に接触する。
「ふむ……。やはり少し時間が必要じゃな」
中の様子も分からない。
最悪を想定して戦術を練りつつ解析していると、その結界は唐突に消滅した。
「む? 敵は……おらぬか。逃げたかのう」
そこにはただ一人、腹部に甚大な傷を負った寅丸が倒れ伏すのみだった。
「これはまた……派手にやったのう。誰の仕業じゃろうか」
痕跡は見事に残っていない。まるで霧のように消えてしまったかの如く。
「ひとまず、出来る限りの処置はしてやらねばのう」
そうして萃香は寅丸の治療を始めるのだった。




