識鏡録 41 現れる霧の大天神
この作品は東方Project様の二次創作です。
※オリキャラ多数
※独自設定多数
※キャラ崩壊そこそこ
※投稿不定期
以上の点に注意してお楽しみ下さい。
「……かつて《冥始》アスタルフォルは、轟く死神と呼ばれ、不死なる概念にすら死を与えたる者は、それでも言ったという。死が怖いと」
伊吹萃香とサガトの闘いは、もはや闘いと呼べるものではなかった。
それは指導であるに過ぎなかった。
必死の抵抗も虚しく、サガトの攻撃は一切萃香に通じることはない。
「それが……どうした……」
もはや闘えない状態にも関わらずまるで闘志の衰えないサガトに対して、萃香は諭すように続ける。
「具象化した《死》であるかの者ですら、ろくに感情も持たぬ具象神であるはずの奴ですら、死を恐れると答えよった。死を恐れるのは、それ程当然のことなのじゃ」
一拍を置き、サガトを見据えて萃香は尋ねる。
「おぬしは死を恐れるか?」
サガトは迷うことなく答えた。
「さて。死んだことがないものでな」
「……ふむ。死んだことが無いからわからぬと申すか。ならば、おぬしは未知を恐れぬということじゃな」
サガトは意図がわからず、投げやりに答える。
「……だとしたらなんだ?」
「なに。気にするでない。おぬしには関係の無いことじゃ」
萃香は推測する。この相倉サガトという男は、思想無く人に使われるタマではない。
であれば、彼は恐らく何らかの思想に共鳴して力を貸している。
未知を恐れぬのであれば、保守派ではなく革命派閥。
とりあえずはそこまで分かれば充分だ。
同じ者から情報を引き出し過ぎるのはかえって危険。このあたりで良いだろう。
その意識を刈り取ろうとした、その時。
「む?」
空間に歪みが生じた。それが意味するところは……
「転移門!ようやく来たか!」
囮としてナナティ達を潜入させつつ、本命は転移門による直接回収。
もちろんナナティ達が回収出来ればそれにこしたことはなかったのだが、保険が役にたったかたちだ。
「まさか逃がすとでも……ん?」
転移門の向こうから、無表情な三人の少女が現れた。
「(機械族……?)」
「何よあれ……。魂が……ない……?」
霊夢は《源の聖眼》でそう見抜いた。
萃香にも魂を見分けることは出来ないのだから、やはりこの眼は大したものだ。
「…………」
無言のまま霊力を高める少女を、萃香はよく観察する。
滑らかな肌はとても金属とは思えない。
この肌は機械霊鋼という軟性半流体金属で、製法および加工法と操作法はたとえ知っても真似出来ない。
機械霊鋼の正体は劣化神意霊鋼とでも言うべきものだ。
神意霊鋼は神が自らの神力を練り固めて産み出すもので、機械霊鋼は機械神が機械族にのみ製造・加工・操作が可能なように産み出した。
神ならぬ者でも製造出来るようにした代わりに、神意霊鋼より性能は落ちる。
機械霊鋼の肌を持つ以上、機械族であることは間違いない。
「魂が無いじゃと? ありえぬ。あれはどう見ても機械族じゃ……!」
人類種であることの最低条件。人の魂を持ち、人類共通言語を操ること。それを達成していないということになる。
「機械族の遺体を改造して傀儡か自律人形にでもしたか……。下衆どもめ……」
機械族は二千年前の大戦において、壊滅的な打撃を受け、事実上滅んだ。
それは、勇敢に戦った結果に他ならない。
種族は違うし、種族間大戦期には殺し合いを演じた相手であったとしても、萃香にとって彼女らは戦友だった。
例えそうでなくても、勇壮に戦って死んでいった者の遺体を改造して利用するなど、萃香には到底許せることではなかった。
「まあそうカッカしないでよ。萃香」
「!?」
転移門から、新たに少年が姿を現した。
艶のある白と水色の混じった髪。
漏れ出る神力によって黄色に見える瞳は、神々の最高峰たる大天神の証。
「どうしてここでおぬしが出てくる……!? 霧也……ッッ!!」
霧也と呼ばれた少年は、苦笑しつつ肩を竦めた。
「怖いなぁ。まあ、こっちにも事情があるんだよ。で……ものは相談なんだけど、ここは引いてくれないかな?」
「ッ! ……しばらく見ないうちに冗談が上手くなったのう……小僧」
大天神とはいえ、霧也は神の中では若輩者。
萃香よりも遥かに若いのだ。
「やるの? ここで? 僕は気が乗らないなぁ……。無関係の人間達を沢山巻き込むことになる」
ニコニコと、整った顔に人好きのする笑顔を浮かべたまま、霧也はいっそさわやかに脅しをかける。
ここで霧也と萃香が闘えば、その余波だけで人里が消し飛ぶだろう。
萃香の立場からすれば、そんなことは許容出来なかった。
「……見損なったわい。あんな下衆どもに力を貸す程落ちぶれてはおらぬと思っておったわ」
霧也はふたたび肩を竦める。
「……さあ、お前たち。さっさとそこの人間を連れて行ってくれるかな? 僕もキミ達を守りながら萃香を相手するのはしんどいんでね」
「そこの人間ってなぁ……。名前くらい憶えてくれよ」
神に対する尊崇が感じられない声に、霧也はわずかに眉をひそめた。
「うるさいなぁ。僕は人の名前を憶えるのが苦手なんだよ」
シッシと早く行くように手振りで示すと、霧也はわずかに微笑む。
「さて……。やるかい? 萃香」
霧也の足元から、渦巻く霧が巻き上がる。
やがてそれは彼の両手首に集中し、リングのようなものを形作っていく。
「やはり持っておるか……」
「なに……あれ……?」
不定形で高密度な霧のリング。あれもまた神器の一つだ。
「これかい? これは《霧双輪武》。僕のとっておきだよ」
《霧双輪武》。霧也の持つ中で最大最強の神器だ。その格は鏡理神剣アクルパルファムに並ぶ。
「……萃香、わかってるわよね? ここでアンタが闘ったら……」
「わかっておるわ!」
霧也はやり取りを聞いて嬉しそうに微笑んだ。
「ものわかりが良くて助かるよ」
そう言って霧也は転移門へ向かう。
「じゃがな。一発分なら、おぬしの結界で防げるじゃろう?」
「え……?」
「まあ……。防げなくもないけど……」
霧也は表情を曇らせた。
「ちょっとちょっと?」
「じゃからのう、霧也」
ギロリと、鋭い眼光を向けて萃香は宣言する。
「一発、殴らせてもらうぞ」
サガトと霧也の登場人物紹介はまたの機会に。




