識鏡録 36 呪術師
この作品は東方Project様の二次創作です。
※オリキャラ多数
※独自設定多数
※キャラ崩壊そこそこ
※投稿不定期
以上の点に注意してお楽しみ下さい。
「スペルカード発動! 霊符:夢想封印・集!」
霊夢は赤子泥棒に奇襲を仕掛ける。犯罪者相手にわざわざ正面から闘う理由はない。
「っ!」
しかし、意外にも赤子泥棒は見事な身のこなしで密度の高い弾幕を避け、さらには霊夢に接近して攻撃を放ってきた。
「なっ!?」
霊夢はバックステップで避けると、次の攻撃の準備に入る。
しかし霊夢が攻撃するよりも早く、追撃がきた。
「これは……! 呪符!」
触れたらまずい。陰陽術の術符を合わせて防ぐと、呪符から電撃が弾けた。
「電撃の呪符。呪術師じゃな」
呪術は12霊術の一つで、かつては儀式が必要で燃費が悪い代わりに威力が高いという特徴から、戦闘向きではないとされていた。
しかし呪術の《術聖》大鬼族のコウエイの手によって呪符が開発されて以来、少数ではあるが戦闘を得意とする呪術師が存在するのである。
「……遅い」
呪術師は静かに呟くと、距離を詰めて掌底を放つ。
「くっ!」
霊夢は不利な体勢のまま出来る限りの威力を込めた脚撃を放つ。
博麗流護身術:霊麗脚。
護身術らしく、相手の攻撃をいなすための技だ。
萃香の使う鬼神流格闘術は、強い肉体を押し付けるという思想の元磨かれてきたもので、人間には適さない。
故に萃香を師に仰ぎながらも、霊夢は鬼神流ではなく博麗流護身術を使う。
「ハァッ!」
掌底と脚撃が激突しようとするその時、傍で見ていた萃香は呪術師の手にある呪符に気付く。
「いかん! 霊夢!」
忠告は、遅かった。
「くっ……! ァァ……。脚がっ……!」
受け流せもせず一方的に吹き飛ばされた霊夢は、脚を押さえて呻く。
掌底が直撃した部分は黒く焦げ落ち、その周囲もグロいアザになっている。
悲鳴をあげないだけ流石だが、この怪我では治療しなければ脚は使い物にならないだろう。
「振動呪術。見事な威力じゃな。どれだけの時間をかけて準備したのやら……」
すみやかにトドメを刺しにかかる呪術師の動線を遮りつつ、萃香はそう賛辞を送る。
「……切り札だ」
短く答え、少し下がって隙を窺う呪術師。
「ふむ。まあ可愛い弟子を揉んでもらった礼じゃ。今度はわしが揉んでやろう」
萃香は偉そうにそう言う。
「待ちなさいよ……。そいつは私の獲物……よ……」
霊夢は立てなくなったので低空浮遊し、なお戦意を滾らせて萃香の横に並ぶ。
「若いのう。血気盛んというやつじゃ。じゃが、自分の状態を冷静に判断出来ないようではまだまだじゃ。悔しいのはわかるがの、おとなしくしておれ」
「でも!」
霊夢がなおも引き下がると、萃香はやれやれと首を振る。
「まったく。若いのはどうしてこう将来を捨てたがるのじゃ。落ち着きが足りんわい。そんなのだから格下に遅れをとるんじゃ」
「なんですって!?」
格下。そう、この呪術師は霊夢にとって、そう表現すべき相手なのだ。
無条件戦闘であったなら、霊夢はまず勝っていただろう。
そうならなかったのは、ここが人里であり周囲に気を使う必要があったことと、相手の逃走を警戒する必要があったことが要因だ。
霊夢のスペルカードはどちらかと言えば一対多に向いている範囲攻撃のものが多いため、人里では使えないものも多いのである。
「わかったら黙って見ておれ。これは遊びじゃないのじゃろう?」
そう言われて、霊夢は言葉に詰まる。
そう。これは私事ではなく、博麗の巫女としての公務なのだ。
霊夢は心を落ち着けると、後ろに下がる。
「さて。そろそろ準備は済んだかの? そういうわけじゃから、わしが相手をしてやろう」
「…………。そう言う貴様は何者だ……?」
そう問われ、萃香は一瞬キョトンとするが、すぐに気付いて苦笑する。
「そう言えば認識阻害を解いておらなんだわ」
姿が見えなくなるわけではないため、存在は認識出来る。しかし何者かはわからないのだ。
背が低い少女、というくらいしかわからなかったその者の姿が、霧が晴れたかのようにあらわになっていく。
「…………鬼……か…………」
「いかにも。人呼んで《鬼王三童》酒呑童子。
霧散神出の伊吹萃香じゃ。お相手しんぜよう!」
 




