識鏡録 32 第二ラウンド
この作品は東方Project様の二次創作です。
※オリキャラ多数
※独自設定多数
※キャラ崩壊そこそこ
※投稿不定期
以上の点に注意してお楽しみ下さい。
「シッ……!」
「ハァッ!」
神剣と神槍が鋒を交え、激しい火花が散る。
槍の方がリーチが長いが、鏡也の方がかなり体格が良いので、実際は大した差ではない。
むしろ問題なのは、膂力の差だった。
「ぐっ……!」
斬り結べたのは一瞬であり、鏡也はすぐに弾き飛ばされる。
体格差など、種族差に比べれば誤差に過ぎない。
レミリアの小さな身体でも、人間如きに力負けすることなどないのだ。
「(まだ身体能力が足りないか……とはいえこれ以上の強化は……)」
身体の許容限界を超える。
吸血鬼の中でも最高位に位置するレミリアを相手に、人間の身体では荷が重すぎるのだ。
しかし、その対策を立てない鏡也ではない。
いずれぶつかると分かっていた問題なのだ。
アイデアはあった。問題は、実現の難しさにある。しかしアクルパルファムのある今ならば。
「これで終わりじゃないわよね!?」
そう言われてしまえば、やるしかない。
元に戻れるかも判然としないのだとしても。
「もちろんだ。……鏡理を示せ! アクルパルファム!」
神剣の輝きが増し、神気が鏡也の周囲を覆っていく。
「鏡符:フィジカルアクセプト!」
鏡也の身を包む神気が体内へ浸透し、そして……。
「なっ……? 私……??」
レミリアと瓜二つの姿になった。
身体まで縮んでいる姿を見て、流石のレミリアも平静ではいられない。
「姿だけじゃないぞ!」
「っ!?」
先程までより桁違いに速い。
レミリアは即座に身体強化を発動し、移動する自分に瓜二つな姿を視界に捉える。
吸血鬼族という身体能力に優れた種族の王族であるレミリアでさえ、身体強化で視覚と動体視力を強化しなければ捉えられない速度。
明らかに人間の身体能力ではない。
「私の身体を……模倣したか……!」
斬り結ぶ前にそれに気付くあたり、やはり頭のキレる女である。
レミリアは迫り来る神剣を真正面から受け止める愚を避け、グングニルで軌道を逸らして受け流す。
「くっ! なら!」
鏡也はやや無理のある体勢から切り返す。
威力は落ちるが、槍の取り回しでは完璧に迎え撃つことは出来ないからこその攻撃だ。
意表を突いて接近したとはいえ、体格が同じになった以上、一度でも離されると武器のリーチ差で不利になってしまう。
主導権こそ握れたが、その有利は薄氷の上に成り立っている状況なのだ。
レミリアはレミリアで選択を迫られていた。
間合いを外れている神槍から手を離して爪で抉りにいくか、間合いを取り戻すまで斬り結ぶか。
相手の手の内を知らない以上、神槍を手放すのはリスキーなのだが、レミリアの本能はそれを望んでいた。その方がきっと楽しいから。
一方で、彼女の理性は間合いを取り戻すまで斬り結べと言っていた。仮に神剣で斬られようとすぐに再生するのだから、無理にリスクをとる必要など無いと。
スカーレット家の当主が万が一にも人間に負けることなどあってはならないのだ。
理性と本能。レミリアは、選びかねた。
「シッ……!」
神槍と神剣とが火花を散らす。
レミリアの選択は、神槍を手放して爪で抉りにいく機会を伺いつつ、間合いを取り戻すまで斬り結ぶというものだった。
彼女らしからぬやや消極的な選択。
しかしそれは、慎重になっているとも言える。
レミリアは、鏡也に負ける可能性があると感じていたのである。
「はああああッッ!!」
気合と共に鏡也は連撃を叩き込む。
秒間十回を数える早業だが、レミリアは丁寧に受け潰し続ける。しかし……
「くっ……!?」
だんだんと、レミリアは苦しくなっていった。
鏡也の動きが、どんどん良くなっているのだ。
遅まきながら、レミリアは自分にあったアドバンテージに気付いた。
鏡也とレミリアの間には、本来40cm近い身長差と、それに伴う体格差があった。
その鏡也が、レミリアと同じ体格になっているのだ。その違和感は尋常ではないだろう。
「この身体にも慣れてきた。どんどん行くぞ!」
その言葉通り、鏡也の攻撃は鋭くなっていた。
レミリアは驚きを禁じ得ない。自分の身体と同じとは思えない技の冴えなのだ。
「……やられたわね」
同じ身体。しかし、鏡也にあってレミリアにないものがあった。《識眼》である。
そもそもレミリアの身体をコピーしているのは鏡理神剣と《識眼》の力なので、この二つだけはそのまま残っているのだ。
鏡也が体格差のある身体の扱いに慣れれば、《識眼》がある分優位に立てるという寸法だ。
もっとも、実は身体の扱いに慣れるのはそこまで難しくはなかった。
どうしても慣れないのは、むしろ致命的に大事なものが足りてない下半身だったりするのだが、これを笑い話にするためにも勝たねばならないというものだろう。今でもこれだけは違和感しかなかった。
「鏡理よ。顕現せよ!」
レミリアが体勢を崩したその瞬間、鏡也は叫ぶ。
レミリアの背後にもう一人の鏡也が現れ、神剣を心臓目掛けて突きこむ。
「なっ!?」
しかしレミリアは、己が隙を晒したと察した瞬間、鏡也がこの隙を逃すはずがないと気付いたのだ。
強引を身を捻り、右の心臓を貫くはずだった鏡理神剣は、レミリアの身体の中心を突き抜いた。
血は……出ない。
吸血鬼は霊動生物であり、身体を巡っているのは血液ではなく霊力なのである。
霊力である以上、修練を積めば操作出来てしまう。
吸血鬼は人間に比べて痛覚が鈍いので、心臓でなければレミリアの動きを止めるには至らない。
翼に力を込め、背後の鏡也を打ち払う。
『鏡理顕現』で一時的に現れただけの鏡身体は、鏡理神剣の顕現体を握ったまま吹き飛ばされて鏡のように割れて散る。
神剣が抜けたレミリアの身体は1秒程で再生し、服すらも『低次物質顕現』の力で元通りだ。
「ッ……!」
その行動を見た鏡也は、レミリアがまだ戦う気だと判断し、即座に追撃にかかる。
「フフ……」
レミリアは外見に似合わぬ大人びた表情で微笑むと、霧のように姿を消した。
「なっ……」
驚いている鏡也を尻目に、レミリアは少し離れた場所に姿を現した。
「霧化か……」
レミリアが、とうとう浮遊以外の権能を使った。
それが意味するところは……。
「フフ……フフフ…………アーッハッハッハッハ!!」
瞳を紅く煌かせ、レミリアは大きく口元を歪ませて哄笑している。
「楽しい! 楽しいわね!」
「……そりゃ何よりだ。楽しませることは出来たみたいだし、この辺で終わりにしようか」
鏡也は無理だろうと思いつつも、一応そう言ってみる。
「フフ。貴方は冗談も上手いのね。こんなに楽しいこと、途中でやめてしまうなんて……もったいないわ!」
レミリアは手を掲げ挙げると、高らかにそのスペルを唱えた。
「紅符:不夜城レッド!!」
そのスペルによる変化は激烈だった。
紅魔館の周囲に巨大な術陣が展開され、地鳴りが聞こえ始める。
「なんだ……!?」
鳴動。紅魔館は周囲の地面と共に、空へと浮かび上がる。
「おいおい……冗談だろ……?」
今や館と言うより要塞と化している紅魔館が、空へと昇っていくのだ。
壮観と言う他ない。
「紅魔館は、元は不夜城と呼ばれた、神祖様の居城だったそうよ。神祖様亡き後、遺された皇族が不夜城を五つに分けた……これはその一つ。分かたれたことでその力の大半を失っているけれど、それでも吸血鬼族のための神器としての力は残しているわ」
レミリアがそう語る間にも、紅魔館はぐんぐん高度をあげていく。
あんなバカでかい屋敷が戦闘に直接関与してくるとは考えずらい。恐らく、ある種の神域を発生させる類のものだろう。
どのみち、鏡也に有利なものではないことだけは確かだ。
「(どうしたもんかなぁ……)」
壊すには明らかに大き過ぎる。
神器だというのが本当なら、そもそも鏡也程度では壊せないだろう。
結局、紅魔館そのものではなく、その影響に対処するしかなさそうだった。
「おいおい……どこまで昇るんだよ……」
紅魔館は鏡也達の頭上を越え、星々の光を遮って、周囲をほとんど完全な暗闇へと落としていく。
「仕上げよ。冥符:紅色の冥界……!」
紅魔館が紅色のに煌き始め、暗闇だった周囲はぼんやりとした紅色へと変わる。
もしこの場に霊夢がいれば、まるで紅い霧の時のよう……とでも呟いたかもしれない。
「さあ……。第三ラウンドといきましょう?」
 




