識鏡録 27 悪魔と悪魔界について
この作品は東方Project様の二次創作です。
※オリキャラ多数
※独自設定多数
※キャラ崩壊そこそこ
※投稿不定期
以上の点に注意してお楽しみ下さい。
「何か、読みたい本はありますか?」
コアにそう問われ、鏡也は考え込む。
急に「今、何が読みたい?」と聞かれて、答えられる者は少数だろう。
「……そうだな。悪魔について詳しく書かれている本はある?」
「悪魔……ですか……?」
てっきり吸血鬼のことを知りたがると思っていたコアは少し驚いたが、すぐに切り替えて案内を始める。
レミリアを案内することもあるので慣れたものだ。
「こちらです」
案内されるまましばらく歩く。どこまで行っても見渡す限り本ばかりだ。
「このあたりが悪魔関係の本になります。詳しくとなると、この本などどうでしょうか」
そう言ってコアが本棚から抜き出したのは【魔界大録】という本だった。どうやら外の本らしい。
幻想郷において《魔界》とは創造神が創り出した異界のことだが、外では悪魔の住まう空界のことを言う。
「ありがとう」
礼を言って鏡也は本を読み始める。
「どうして悪魔にご興味を?」
「ん? 天使と違って、悪魔には交渉の余地がありそうだからね。ただの備えだよ」
天使は創世神ララが生み出した世界の管理者だ。
具象神が世界を保ち
概念神が世界を成長させ
悪魔族が世界の停滞を防ぎ
天使族が世界を管理し
精霊族が世界を監視する
世界はおおむねそういうふうに廻っているが、その中でも他四種族の脅威となって危機感を煽る役割を持つ悪魔はやや特殊と言えるだろう。
神は人に協力などしない。交渉の余地もない。
神はただ与え、施し、奪い、踏み躙る。
それが概念であり、秩序であるが故に。
個人として交渉に応じることはあっても、神として応じることはないのだ。
天使はそもそも人にほぼ干渉することがない。
精霊は召喚されて人に力を貸すことはあるが、それは召喚という努力に対する褒賞であり、同時に労働でもある。
労働への正当な対価として霊力を貰うことはあっても、報酬のために力を貸すことはないのだ。
悪魔だけが、打算で動くのである。
「ははぁ……そういうものですか」
萃香が聞いていたら「面白い着眼点じゃな……!」とでも言って掘り下げただろうが、コアの知能で理解するのは難しかった。
「ちなみにこれ、どのくらい正確なんだ?」
「パチュリー様が厳選されたものですから、誤った部分は訂正されておりますよ」
「……じゃあこれとか、マジなの……?」
「?」
コアは身体を寄せ、鏡也が開いている本を覗き込む。
そこに書かれていたのは、今代の魔神王ライノート・サタンについての記述だった。
悪魔という種族の概念神を示す《魔神王サタン》は継承される称号のようなもので、歴代の魔神王は皆サタンを名乗る。
「魔神王様……」
「知ってるのか?」
そう尋ねると、コアは慌てて両手を振って否定する。
「まさか! 私はディアヘルンにも入ったこともないような木っ端悪魔ですよ」
魔都ディアヘルン。球形の悪魔界の中心に浮かぶ、悪魔界唯一の法治地帯だ。
悪魔界は中心から外に向かって重力が働いており、球の内側が全て地上になっているが、その全てが魔獣のはびこる無法地帯なのである。
「いや、それむしろ魔都にいるより凄くない……?」
凶悪な魔獣の闊歩する地上で他の悪魔と戦って糧とし、強くなって進化する。
悪魔はそうやって等級を上げていくのだ。
「いえいえ、とんでもない! 魔都に辿り着けなかっただけですよ……!」
遠心力でも働いているのか、悪魔界は中心に近付けば近付く程重力が強くなる。
それに対応するためなのか、強い魔獣が多くなるのだ。
中には伯爵級でも手こずるような魔獣もいるくらいで、準爵級のコアが辿り着けないのも無理はない。
「ふむふむ……なるほどね」
鏡也は【魔界大録】に書かれたその記述を見て頷きつつ、ページをめくる。
そこには下位悪魔は悪魔界で自然発生的に生まれてくるというくだりが書かれていた。
「ええ?? でも、魔神王ライノートには王妃がいて子供もいるんでしょ? なのに自然発生なの……?」
思わず口に出して驚いてしまう。
「悪魔の親子関係というのは、そういう誓約なのです」
「誓約?」
「はい。親は親として、子は子として誓約するのです。親は子を守り、子は親を支えます。それが悪魔にとっての親子です」
「なるほど。寄親に近い感覚なのか」
一般の悪魔に対するイメージはまさに無法地帯というものだが、悪魔は契約を重んじる種族であり、取引きは必ず守る一面もある。
意外としっかりした種族なのである。
「やっぱり、交渉の余地はありそうだな……」
そんなことを考えながら、鏡也は本に集中していった…………。




