識鏡録 09 創造の月を見上げて
この作品は東方Project様の二次創作です。
※オリキャラ多数
※独自設定多数
※キャラ崩壊そこそこ
※投稿不定期
以上の点に注意してお楽しみ下さい。
魔界の端の荒れ果てた荒野の中央に、鏡也は寝転んでいた。
途中まではそこそこ頑張ったのだが、手数は多くとも活かせなければ意味がないということを身をもって叩き込まれる結果になってしまった。
「行った……かのう……」
萃香は眼を細めて遠くを見ていた。
「……どこ見てるんだ?」
「なに、旧知の気配を感じたのでのう……」
そう言いながらも、萃香は思考を巡らせる。
魔界四大勢力の一つ、ブラドニア連合王国の盟王アンネローゼ・アマリティア。
昔から自由な所はあったにせよ、仮にも王たる身が中立地域であるはずのここまで出て来ているのは普通ではない。
それに、とても視察と言える人数ではなかった。
「ふーん……。そう言えばさ、魔界には四つの大勢力があるって言ってたよな。ここの近くが吸血鬼の国だってのは聞いたけど、他の三つは何なんだ?」
「魔人族の国、デモニア王国。
夢魔族の国、ナイトメア王国。
妖怪族の国、ネクロニア連邦。じゃな」
「へえ、全部国なんだな。なのに何で『四大勢力』って言うの? 四大国とかでいいんじゃ?」
「……ネクロニアは元は国ではなかったのじゃ。その頃の名残りじゃな」
そう答えながらも、萃香は違和感の正体を探っていた。
アマリティアはお世辞にも勤勉な方とは言えない。そんな彼女がわざわざ辺境まで出張って来たのだから、かなりの理由があったはずなのだ。
「(む? 魔界はいつの間にこんなに人が増えたのじゃ……?)」
魔界とてどこもかしこもがロクに作物も栽培出来ない状態なわけではない。
特に妖都ネクロポリス、魔都デモニアス、神都リクセンヴァレン、夜都ブラッドへイズらの周辺はかろうじて少ないで済むくらいの収穫量にはなっている。
とは言え逆に言えば、それと創造神殿の敷地内を除けば魔界は万年不作かそれにすらとどかない程なのだ。
もっとも魔界には太陽が無いのだから、作物が育つことですら奇跡的なのだが。
萃香が能力で調べた限り、既に魔界の人口は20万を超えている。
荒野ばかりとは言えそもそも魔界は広いので入りきらないということは無いが、これは想定される食料生産力の限界に程近い数字だ。
そこまで考えたところで、萃香は空に煌めく《創造の月》を見上げる。
魔界にかろうじて作物が育つのは、この《創造の月》があるからだ。
魔界に太陽はない。かつては夜の空を《破滅の太陽》が灼いていたが、かつての大戦期に軍事利用のために堕とされた。
そして魔界にとっての太陽とでも言うべき《創造の月》だけが残った。
魔界の大地に根付いた破滅の力を徐々に押しのけ、《創造の月》は魔界の大地を僅かずつ浄化している。
それに伴い、生産力も極僅かずつ増えていると聞いている。
「(だとしても、20万は多過ぎじゃ……)」
何かある。萃香はそれを感じながらも、アマリティアをはじめとして各陣営のトップを見知っているが故に、侵攻作戦の存在にまでは辿り付けずにいた。
「……なあ、あれって創造の月だよな?」
萃香の視線を見て、鏡也はずっと気になっていたことを聞いてみる。
「なんで本土の方にあるはずの創造の月が魔界にあるんだ?」
昼間に煌めく月である《創造の月》は幻想郷本土においては太陽があるので存在感が薄いが、それでもハッキリと見ることが出来る。
「……かつて超越の神々は、挑戦者たる背理神の権能を割って《破滅の太陽》《創造の月》《奇跡の極星》を創った……と神話には語られておる」
「超越の神々に背理神か……」
「うむ。あれは秩序の力と概念の力、さらには因果の力をも有しておると言われているのじゃ。あそこにあるのではなく、わしらの意識上に存在する。故に、あれはどの空界からでも見えるのじゃ」
それを聞いて、鏡也は空を見上げた。
「……いつか行ってみたいな…………」
「ふふふ……。普通の方法では行けないのじゃが……月の民に聞けば何かわかるかもしれんのう」
萃香はとても楽しそうに微笑んだ。