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「月よりの死者」  作者: 住友貞男
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第6章 覆面太郎の最終試合(下)

「プレイボール!」

試合開始が告げられました。


「いよいよ、半神対拒人戦、最終試合が始まります。

果たしてセリーグの優勝は半神か拒人か? はたまた、覆面太郎選手が50勝と100号に到達できるか、超満員のファンも、期待に胸を膨らませております」


 先攻は拒人軍、1番バッター、柴山が左打席に入りました。覆面投手が大きく振りかぶりました、ド真ん中に快速球、バッターの柴山が、ド真ん中の球を、大きく、のけ反って、よけました、解説者の田代さん、珍しいシーンですね」

「いやー、のけ反るのも分かります、ド真ん中とは言え、いままで見たこともないようなスピードですからね、覆面投手には、まだまだ伸びしろがあります、日々進化してます、これから、どこまで成長するか、本当に楽しみです」

「この選手には、末おそろしい、という言葉が、ぴったりですね」

「いやー、本当です、1年後、2年後、3年後、どんな選手になるんでしょうか、想像するのも怖いくらいです」

 試合は0対0のまま、とうとう9回裏まできてしまった、半神の先頭打者は覆面選手、今日は、3打席共、敬遠の四球で、バットを振らして貰えなかった。四打席目の覆面に対して、大山投手の1球目、またキヤッチャーが立ち上がりました。

(この時代は、まだ、申告敬遠制度は有りませんでした)

「あっ、いま、お客様が数人、グラウンドに侵入しました、審判員が止めに入ってます。田代さん、何が、おきたのでしょうか?」

「おそらく、打者の覆面と、堂々と勝負しろ、という抗議の行動だと思われますが」

「今日の覆面は3打席とも敬遠されましたが、その都度(勝負しろ、勝負しろ)と、お客様が大声で叫んでましたが、とうとう、半神ファンの、堪忍袋の緒が切れたのでしょうか」

「お客様の気持ちも分かりますが、何とか、収まってもらいたいですね」

「あっ、今度は、大勢のお客様が雪崩の如く、グラウンドに乱入してきました、これは、暴動に近い様相になってきました、ちょっと収拾が、つかないかもしれません」

「残念ですねー、今年度のセリーグ優勝を決める大事な試合、しかも覆面の50勝と100号が、かかっている試合なんですが」

「あっ、警察がきました、凄い数の警察官です、今日の試合展開を見越して、どこかで、待機していたのでしょうか? どうやら、主審が、没収試合を告げた模様です。田代さん、こうなると、セリーグの優勝の行方は、どうなりますか? また、覆面の50勝と100号は、可能性がなくなってしまうのでしょうか?」

「暴動等で没収試合になった場合は、暴動の原因を作ったチームが、9対0で敗戦という規則です。暴動の引きがねは、覆面選手に対する、3打席連続敬遠四球ですが、敬遠そのものは、ルール違反ではないので、暴動の原因は、どちらのチームにもないと思われます。おそらく、コミッショナーの預かりと、なり、後日、コミッショナー裁定発表という形になるのではないでしょうかね?」

 覆面選手は、最初、ファン数人がグラウンドに侵入してきた時、何が起きたか理解できず、打席で、ぼーっと立っていました。

一方、森記者は、監督から、(おそらく、覆面は全打席敬遠されるだろうから、グラウンドで何か異変が起きたら、覆面を連れて逃げて、お前のホテルにかくまってくれ)と、頼まれていた。

 森が、グラウンドに飛び込んできて、吉兵衛の腕を掴んで、ダックアウト裏の安全な場所に連れて行った。そこで、森は半神スポーツ新聞本社と連絡をとっていたが、

 次の大暴動がおきた瞬間、森は、車に吉兵衛を乗せ、自分のホテルに、連れて逃げた。


「吉兵衛さん、ここは私のホテルの部屋です、安心して下さい。なによりも、御無事で良かったです」

「まことに、かたじけない、助かり申した」

「何か食事でも取りましょうか?」

「いやいや、それより試合でたっぷり汗をかいているので、ひと風呂、所望したいのでござるが」

「あっ、これは気がきかず、まことに申し訳ありません、すぐに、お風呂の準備を致しますので、お湯が沸くまで、少々お待ち下さい」

「宜しく頼みます」

「いま、お茶をいれます」

「ありがとう」

 お茶を入れながら、森は本社と連絡をとっていた。

「吉兵衛さん、明日の新聞の一面は、今日の暴動事件に、なりました」

「ああ、そうでしょうな、拙者は初めてのことなので、びっくりしました」

「吉兵衛さん、お風呂が沸くまでの時間、少しお聞きしても、よろしいでしょうか?」

「どうぞ」

「われわれが死ぬと月に行くとお聞きしましたが、地獄も月にあるのでしょうか」

「その通り」

「そうなんですか」

「地獄の行は想像を絶するみたいですぞ、地球から見えるところの(月の兎の餅つき)も、その型しめしだ、46億年間に渡って1秒の休みもなく、兎が餅をつき続けている、まさに地獄の行だ、それが地球の人間から見えるようにしているのは、人類に対しての戒めのためだという教えを頂戴している」

「月の兎の餅つきは地獄の行なのですか」

「餅を一臼つくと、すぐに、次の餅米が臼に入れられる、それをつくと、又、入れられる、何百年、何千年、何万年、何億年と、永久に餅をつき続ける。(自分は何で、こんな辛い行をさせられているのか?)、それを暁知(悟り)するまでは何億年でも同じ行を休みなく続けさせられる、それはそれは辛い行だと聞いておりまする。

あの世は、暁知だけの世界で、暁知が総て、暁知以外の道は無い、と教えられてる」

「怖いお話ですねー、それを聞くと、絶対に悪いことは出来ませんね」

「まさに、そういう事で、ござるぞ!」

 森が、湯加減を見にいった。

「吉兵衛さん、お待たせしました、お風呂が沸きました。いま、監督さんに電話を入れましたら、吉兵衛さんが今日、自分のホテルに帰るのは危険なので、そちらに泊めて下さいとのことでしたので、今日は、ここにお泊り下さい」

「すまん、お主にとっては迷惑千万な話だろうが、今夜は、何卒、よろしくお願いつかまつる」

「お安い御用です、今夜は、お酒でも飲んでゆっくりしましょう」

「ありがとう」

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