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ラブコメにならない  作者: 金子文誉
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教室にて、ヒロイン

 ゴールデンウィーク明け早々。

 机に伏せっている中屋敷に、間もなく始まる定期テストが憂鬱なのか、はたまた連休ボケなのかと、いずれにせよ北五十里は関わりたくはないと、素通りしようとしたのだが、袖口をがっしりと掴まれてしまった。横向きの顔のまま、重々しく口を開いた。そう彼女は重いのだ。ただし体重とか恋愛表現がではない。

「生理なのよ」

 二日目だそうだ。

「そうかい。てか、そういうことをストレートに言うなよ。女子校じゃないんだから。寝不足とか体調不良とか糖衣に包めよ」

「あんたに気を使う必要ないでしょ。ねえ、あんた、童貞だよね」

「なんで、朝っぱらからドシモかつプライバシーを公然に晒さないとならん」

「そうよね。わいせつ罪になるもんね。こないだのあんたみたいに」

 アンラッキースケベ事案のことらしいが、こっ恥ずかしい北五十里はさっさと七十五日後に消し去ってしまいたい。のに、彼の友人・鷺野(♂)が通りしなに「こいつ童貞だよ。俺もだけど」などと言うものだから、

「そう。なら、二人で筆おろしすればいいじゃん」

もうどっから冗談でどっから気晴らしなのかしれないことを言う中屋敷に、これまた鷺野が「試してみるか」と肩を組みながら調子づくのを、

「しねえよ。お前、体調悪いと下ネタ放流する症状か?」

 肩を振り払って激怒するわけでも、切れのいいツッコミをするわけでもなしに丁重な流しそうめんのように確認する。

 下ネタを知っていることとそれをコミュニケーションに使うのとは雲泥の差がある。あるのに、この女子は現在躊躇がない。

「冴子先輩を見習え」

「ふ~ん、名前で呼ぶことにしたんだ」

「先輩がいいって言うから。冴子先輩はきっと生理になってもお前みたいに乱れたりしない」

「へえ、じゃあ聞いてみなよ、生理重いですかって」

「聞けるわけねえだろ」

「じゃあ、想像してたんだ、キモ」

「想像なんてしてねえよ。お前と比較してだな」

 とか言いあっていると、

「北五十里、ちょっといいか」

 羽吉が一年の教室のドアから手招いていた。

「先輩!」

 今までの倦怠感が嘘のように、羽吉まで一っ飛びすると、

「役に立つかしれませんよ、こいつ」

 ゆっくりと近づく北五十里を邪険にする。

「ヘルプになっているよ。それにしても元気だな、中屋敷は」

「はい! 重力が五〇倍の宇宙船の中でトレーニングしてますから」

 猫をかぶり、やたらとハイテンションの駒坂にげんなりする北五十里。

「じゃあ、北五十里。放課後、生徒会室へ来てくれ。こないだ話したことの詳細が決まったから」

 跳ね回る中屋敷を無視して、北五十里と羽吉は段取りを決めた。そう、あと一か月で体育祭。その実行委員の羽吉のお手伝いをしているのだった。

「失敗しても、へこたれません! て言いなさいよ」

「それも漫画なのか?」

「はい! こいつ天文部じゃないですけど、絞り出すほど使ってやってください」

「そうか。まあ、北五十里、よろしく」

 颯爽と去って行く羽吉。深く息を吐く北五十里。

「北五十里、先輩襲うなよ」

 猫からすっかり爪を立てる猫娘に逆戻りしてネタは終わり、授業が始まるのだった。


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