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ラブコメにならない  作者: 金子文誉
2/14

パン食べながら角でごっつんこ、にならない

「パンクラッシュがああなるものではない」

 法流院は言う。食パン咥えて走ってて曲がり角でごっつんこ。それがボーイミーツガールだと。

「そう! 水戸藩のご老人が印籠を見せつけるように! リングに上がろうとするディックマードックの黒パンツを藤波辰巳が引っ張って半ケツになるように! お約束なんです! それが君たちは!」

 入学早々の晴れ渡る日の登校、中屋敷が

「zigoku、zigoku」

 口に含みながら「遅刻、遅刻」というものだからそんな風に聞こえるのも無理はないが、曲がり角でぶつかって、北五十里の両目に平面状の食物がついたかと思ったら、彼は瞬く間に阿鼻叫喚な雄たけびを上げた。無理はない。すしネタのわさびが目に付いたのだから。中屋敷が言っていたようにまさに「zigoku」である。それを愉快そうに見つめたのは、二人の上級生・羽吉瑞希と駒坂冴子である。

 羽吉は、金色っぽいショートカットの髪。さらに長身で「悪い奴は大抵知り合い」みたいな雰囲気で、絶対に洋楽好きに見える外身だが、実際はものすごく普通の男子。

駒坂は、明るい茶髪のストレート。襟のリボンを緩めにして、袖をまくっていて、本人は、軽く横目で見たり、流し目のつもりなのだが、完全に「しめてやろう」の眼力。ちょっと悪そうに見えるが、身持ちは堅い女子。

この三年生たちが、北五十里と中屋敷それぞれの想い人である。

「ホント、あれは衝撃的」

「ごめんて何度も言ったじゃん。他に朝ご飯なかったんだから」

「だからって桶ごと持って走るか?」

 前日の晩御飯にすしを取ったと言う。その残りを朝食にしたらしい。口に頬張りながら、ラスト二貫を一口で食おうと持った瞬間だった。曲がり角に突入したのは。その勢いで飛散。北五十里の両目をものの見事にマグロが覆ったのである。

 法流院でなくとも「これはネタになる」と思うだろう。すしだけに。

「あなた方の出会いはもうすでに立派なラブコメになっています」

決して本人同士のラブではないのだが。

「Wikiとかで探しているが、そういうジャンル分けはなんだか違う気がするのだ」

 法流院はラブコメについて悩んでいると言う。

「じゃあどういうのが?」

 下級生に尋ねられた法流院の答えは、

「それはもう『うる☆やつら』一択でしょ。コメだから、ボケとツッコミがなければならないと言うわけではないしょ。ラブコメとは痒さである。例えば、『月刊少女野崎くん』の鹿島と堀ちゃん先輩みたいな」

 北五十里は質問に答えてもらったもののいまいちにこの先輩の答えが意味不明で、中屋敷はどことなく理解しているようである。

「まあ、いずれにせよ、悪いようにはしない。君たちに言ったのも陰から隠れて物を描くというのもなんだから盗撮しているようで気が引けたのでな」

 法に抵触することを気にするなら、他にもある気がするが、どうにもやはり腑に落ちない北五十里と中屋敷ににやりとして言った。

「それに君たちは、その想いを止めるつもりはないのだろう」

 もう二人には反論する気がなくなった。

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