第8話:特訓
(そこだ、エルホープ。振れッ!)
「はいッ!」
あれから数日後。毎日稽古をして来た彼は、遂に熊すら楽に倒せるようになった。
今こそニエルの指示に従って戦っているが、もし、一人で戦うとしても、彼は勇敢に熊と渡り合う事が出来るだろう。
(……やはり、強い。いや、強くなる。この子は、私よりも……。)
「……それは、少し過大評価が過ぎると思うけど……。」
エルホープはポリポリと頬を掻いた。更に、恥ずかしそうに少し顔を赤くしている。
(いや、そんな事は無い。現に、君は幼い頃の私よりもずっと成長速度が速い。それに、君が私よりも強くなるのは、自然の摂理なのだ。)
「自然の……摂理?」
エルホープは何を言っているのか分からない……とでも言わんばかりに、首を傾げている。
(要するに、勝手にそうなる物だと言う事だ。強い獣人の子供はその強さを受け継いでくる。稽古を続ければ、やがて親を越えれる程に。世の中はそういう風に出来ていて、だからこそ獣人は世代を追うごとに強くなっていく。)
発明によって、突発的に強くなるのが人間。そして、鍛錬を繰り返し、徐々に強くなるのが獣人である。
この2種族は、この法則によって、時に敗れ、時に勝利して、均衡を保ってきた。
「そう……なんだ……。」
(うむ……。)
ニエルはコクリと頷いた。その動作はエルホープからは見えないが、彼も、何となくは察したらしい。
「それなら……頑張るよッ! 強くなって、一刻も早くお母さん達の無念を晴らさなきゃ!」
(……正直……戦いに出て欲しくは無いのだ……。)
ニエルはエルホープには自己防衛の技術だけを身に着けて、生き延びて欲しかった。
人間との戦いという危険に、身を投じて欲しくはなかった。
「でも……良いの……?」
エルホープの問いがどういう物なのか、ニエルには分かっていた。分かっていて、答えるのに少し間が空いてしまった。
(……構わない。)
エルホープはニエルの考えている事が分かる。その為、ニエルがどう抑えようとしても抑え切れぬ、人間への憎悪がエルホープには聴こえてしまう。
自分が妻を殺して、喰らったのだという絶望。愚かにも人間に操られ、自分の家族を殺してしまった無念。
そして、その要因となるあの博士と指揮官に対する憎悪に、エルホープは気付いている。
だからこそ、せめてもの救いとして、獣人達の仇を討ちたいと、エルホープは考えたのだ。
しかし、それはニエルに一蹴されてしまった。とても、容認できる物ではないと。
(君が気にする必要はない。私の復讐は、私が行う。)
彼自身、どう行うかは思いついていない。しかし、それでも我が子に行わせるという考えはまるで無かった。
「……うん、分かった。」
エルホープが素直に頷いてくれた事に、ニエルは内心ホッ、とした。
(よし、それでは行くぞ。まず、素振り200回!)
「はいッ!」
話も程々に、2人は早速、稽古を再開した。




