第6話:憑依
「はぁっ……はぁっ……ッ!」
少年……。いや、まだ赤ん坊とも言えるほどに幼い見た目の男の子は賢明に生きていた。
薄暗い森の中で、木の実を取り、それを貪って生きている。
ニエルは、その様子を見て、涙を流していた……。
(すまない……。私が負けたせいで、私が……愚かにも支配されてしまったせいで……。)
彼は自分自身にお前は何をやっているのだ、と叱りつけたい気分になっていた。
あまりにも、男の子の境遇は苦しい物だった。まだ、母親の胸の中で眠っていてもおかしくない様な歳だと言うのに、こんな忙しなく動き回っている。
ニエルとしては、そんな光景を眺める事しか出来ないのは、辛い物だ。非常に辛い物だった。
だからこそ、彼は一旦非情になった。
今の自分は何が出来るのか、色々試してみようと思ったのだ。
憑依している状態での実験。それはつまり、自分の子供に対しての実験と言っても過言ではない。
(地母神の事を信じたいが……。)
彼はそう考えても尚、少し不安な気持ちがあった。この状態で色々試せば、この子に悪影響があるのではないか? という事は確実に考えてしまう。
しかし、その気持ちは抑え込んだ。一刻も早く子供を援助出来る状態にする為に、彼は非情に努めたのだ。
(さてと……早速何をすればいいのか……。)
今の状況はニエルが子供の後ろでプカプカ浮いている様な状態である。
そこで、一先ず彼は、子供に触れてみようと考えた。どう転んでも、何かしらの効果はあるはずだと。
(すまない……。)
ニエルは心の中で謝罪しながら、スッと子供の体に触れた。次の瞬間、彼の体は一気に吸引され、何と子供の中にスッポリ入ってしまった。
(な……なにぃぃぃぃッッッ!?)
これは流石に彼もビックリした。もしやこれは、出れないのではないか? 頑張って出ようとしても、出方が分からない。
「ん……? 何……?」
眠っていた子供が、目を擦りながら起き上がった。それを見た瞬間、ニエルの魂はビクッと跳ねた。
(憑依された事に……気付いたのか……。)
「ひょうい……?」
その言葉にもニエルは驚愕した。どうやら、彼の思考は読まれてしまっているらしい。
これは非常にまずいと彼は考えた。すぐにここから抜け出さなければならない。
頑張って抜け出そうとしたその時、子供の足が動いた。
「えぇッ!?」
(む……むぅ……?)
これに関してはニエルと子供はまるで分からなかった。
子供に関しては自分の足が勝手に動いた事に驚いた。そして、彼に関しては、自分の足を動かした時に、子供も同時に動いた事に驚いた。
(なるほど……!)
逸早く事実に気付いたのはニエルだった。
どうやら、憑依する事で子供の体を動かせる。そういう認識で間違いない。と、彼は結論付けた。
「ど、どういう事?」
そして、その思考が完全に子供に漏れている。しかし、それが分かっても、彼にはまだ理解出来るだけの脳が足りていなかった。まだ、赤ん坊なのだ。
(ここは……嘘を伝えた方が良いだろうか、っと! この思考も読まれてしまうな……。)
子供はコクリと頷いた。ブルブルと脅えた様に、体を震わせている。
(……安心してくれ……。私は君の味方だ。君を助ける為に来た。)
「本当……?」
(うむ……。)
子供はそれを聞き、少しホッとしながら、賢明に震える腕を抑えていた。




