第2話:実験
「いやはや獣人に首輪を着けてから驚きの連続ですなぁ、指揮官殿ぉッ! グヘヘヘへ」
博士が気持ちの悪い笑い声を出しながら、指揮官に擦り寄っていく。彼はそれを鬱陶しそうに払った。
「うるさいな君は、何でもいいから早く改善案を出すのだ。」
「へいへ、分かりましたぁ。ウヒヒヒヒ。」
博士は心底楽しそうな表情をしながら、ニエルが居る部屋向かっていった。
それを見送った後、指揮官はハァ、と溜め息を付いた。
「あの首輪を着けてもまだ意識が残っているなど、イレギュラーにも程がある……。」
ーーー
「ウヒヒヒヒヒ……。今日は、今日はどんな実験をしようかなぁ。ウヒッウヒヒヒヒヒ」
博士が気持ち悪い笑みを浮かべながら、ニエルに近付いていく。
彼にとっては出来るだけ遠ざけたい存在であるのだが、前からこの身体が自分の意志では動かなくなって来ている。
逃げ出そうにも、遠ざかろうにも、ニエルは今、自分の力では動けなくなっているのだ。
「ウヒへへへへ……意志が残っているんだよなぁ。どうしてだろう? なんでかなぁ?」
この首輪、どうやら人間に着ければ意志を思いのままに出来、作戦を伝えるだけでその通りにしてくれる、という優れ物らしい。
しかしニエルだけは、この首輪を着けても意志は残るのだ。彼の鍛え上げた肉体の為か、それとも単に、獣人と人間で違いがあるのか。
「まぁいっか、それでも動かせるのならば、指揮官殿は満足するはず。あぁ……! そうだ! イヒヒ、あの方の息子殿にも、気に入られておくとしようかなぁ。」
博士らしき男は突如黒い板のような物を取り出した。
角がなく、所々が丸くなっていて、何やら複数の色のボタンが、黒い板に取り付けられている。
「アヒャヒャヒャヒャ! これでどうかなどうかな!? イヒ、イヒヒヒヒヒ!」
博士がその色が着いたボタンを押す度に、ニエルの体は勝手に動いていく。
時に剣を振らされたり、時に走らされたりなど、そんな行動が彼の意志とは関係なく、行われていく。
その時、ニエルは分かった。あの黒い板は、奴等が、自分を操縦する為の物だと。
「イ〜ヒヒヒヒヒ、完璧だ! 天才だ! そう、私は天才だ! こんなものを作れてしまうとは、自分の才が恐ろしい! ウヒヒヒヒヒ!」
博士はガチガチガチガチ、とボタンを連打しながら、よだれを垂らしている。
ボタンを押す度に、ニエルが動いていく、それを見て、博士が愉悦に浸る。そんな行為が、もう何時間も行われた。
「イヒヒヒヒヒ……さぁて、息子殿に渡してあげるとしよう。あの方は、ゲームがお好きだからなぁ。」
その言葉を聞いた瞬間、ニエルの背筋にゾクリ、と寒気が走った。何となく、自分がどう使われるか分かってしまったからだ。
(……冗談ではないぞ……。)
ニエルは自分の体を必至に動かそうとした。
自害をしようとした。このままでは、自分という兵器は、獣人を殺す為に使われてしまう。それが分かっていた為だ。
しかし、どうしても、動く事は敵わなかった。




