エピローグ:復讐の魂
エルホープは服の袖で血止めをしたあと、床を殴った。床は崩れ、更に地下へと落ちていく。
そこには、王宮の様々なシステムをコントロールする機械があった。
それに凭れ掛かるように、あの男は死んでいた。こめかみを一発である。
『こういう男だ。逆転の目が無いことが分かっている以上、苦しめられるよりも楽な死を選んだのだろう』
ニエルは「フッ」と思わず笑みを浮かべた。
彼自身には見えているからだ。あの男の魂が。
『指揮官。久しぶりだな』
『お前は、あの獣人? ここは死後の世界か!』
『少し違うな。世界は変わっていない。お前も俺も、魂となって相対しているだけだ』
ニエルはスーッ、と男に近づき頭を掴んだ。
『貴様何を!?』
『お前だけは、私の手で復讐を果たす。地獄や天国にも行かせない。存在ごと抹消する』
ニエルは指揮官を睨みつける。
頭を掴む手が、徐々に黒くなっていく。
『馬鹿な! そんなことをして何になる!? ヤメロォッ!』
『これは大事なことだ。地獄と天国、どちらにもお前に会わせたくない相手が居るからな』
『ナ、ナンダ、ト……!?』
『テファルなどの獣人達に会わせるつもりはない。エミリーとてお前に会えば辛い思いをするだろう。あの者達が前に進むためなら、俺は貴様を、貴様等を潰すことなど造作もない』
指揮官を握る手に力を込め、魂を消滅させる。
『それが、俺の復讐に掛ける心掛け。【復讐の魂】だ』
ニエルは「ふぅ」と息を吐き、エルホープに視線を向けた。
「父さん、終わったの?」
『あぁ、全て終わった。この戦いもな』
その部屋から出て、また黒に囲まれた広間に出る。ニエルは上を向きながら、「フッ」と笑った。
『だが、まだするべきことはある。この体も、まだ動くようだ』
ニエルは自分の死骸に憑依して、立ち上がった。
グッグッと手を握りしめ、ニヤリと笑う。
「お、お父さん何をするつもりなの?」
『自爆だ。王宮内の火薬を出来るだけ集め、爆発を起こす』
「な、何のために?」
『獣人は死んだと思わせるためだ。爆発の中心地に獣人が転がっていれば、誰もが戦いは終わったと思うだろう。そうなれば、お前を探す者も居なくなる。平和に暮らせるんだ』
「そう、だね。でも、お父さんは大丈夫なの?」
『あぁ、元々死んでいる体を使っているだけだ。それに、火葬にはちょうど良い』
「わ、分かった! じゃぁ、近くの森の方で隠れてるから、帰ってきてね! お父さん!」
ニエルは「すまない」と呟き、エルホープから目を反らした。
『死んでいる私は、これ以上現世に留まるわけにはいかない。あるべき場所、死後の世界へと行かなければならないんだ』
「え? そ、そんな……」
エルホープの背中に、ニエルが腕を回した。
『こんなに大きかったんだな。ずっと隣りで成長を感じていたが、こうしてみると、尚更実感する』
「父さん……」
エルホープもギュッとニエルを抱きしめ返し、涙を流した。
『すまないなエルホープ。人生これからという時に、1人にさせてしまって』
「ううん、大丈夫だよ! お父さんはようやく戦いから解放されて、還れるようになったんだ。僕も甘えてばかりいないで、独り立ちしないと!」
『ふふっ、そうだな』
腕は、エルホープから外し、2人は距離を取った。
「またね。お父さん。次に会うときは、もっと立派になってからかな」
ニエルは、1度深くうなずいた。
エルホープは何度も手を振り、何度もニエルの方を向き直しながら、その場を離れていった。
『もっと立派になってから、か。まいったものだ。これ以上強くなったら、私の立つ瀬がなくなるな』
死骸となったはずの体から、大粒の涙を流し、ニエルは「ハハハ」と笑った。
その後、彼はガソリンの入った樽や、戦車に使う火薬、手榴弾などを、集めれるだけ集め、全て地下の床に放り込んだ。
『ふぅ、最後にこんな晴れやかな気分になるとはな』
ピンを抜いた手榴弾を火薬の中に投げ込んだ。
『テファル。私達の子供は、あんなに立派になった。今まで会いに行けなかった分は、それで許してくれ』
彼の体は、爆発に巻き込まれ完全に焼け焦げた。
その日、王宮の地下から発生した無数の白い光が、天に昇っていった。
それを遠目から眺めていた人々は、平和が訪れたことを理解した。
【復讐の魂:完】




