第20話:ニエル②
『父以外の、誰もか……』
『はい。約束していただけますか?』
ニエルは1度頷いた。
『構わない。元より、私達の目的はあの指揮官だけだ』
『そうでしたか』
エルホープの体で1度うなずき、彼女は抜け殻を睨んだ。
『あれを動かす機械は2つ。1つは支配の輪。これは緊急時に父が操作する為のもので、もう1つの機械に指令を送って行動を変更させます。そして、2つ目は人工知能。これは鳩尾に設置されています』
『知っていたのか』
『えぇ。お勉強として聞きました』
ニエルはその言葉に少し沈黙する。
『ありがとう、助かった』
『えぇ』
エミリーは1度うなずき、それ以降口を閉ざした。
彼女は、先程から抜け殻の攻撃を見事にいなしている。
袈裟斬りや横薙ぎなどの攻撃は後ろに下がって躱し、突きは刀身を合わせ、その上を滑らせるように流していた。
『そこっ!』
突きの受け流しで抜け殻の態勢を崩し、横薙ぎで鳩尾を狙う。
相手は後ろに跳躍し、それを躱す。
エミリーは素早く態勢を整え、着地の隙を狙い、突きに行った。
「エミリィィッ!」
抜け殻から叫び声が響く。
エミリーはビクッと体が震え、突きの動きが止まった。
『あの男か! 気付いたのか!?』
抜け殻に接近され、首に横薙ぎを放たれた。
「たぁぁッ!」
当たるかと思われた瞬間。エルホープの意識が覚醒し、横薙ぎをしゃがんで躱した。
突きで首輪を打ち、粉砕する。
『エルホープ!』
「お待たせお父さん。それと、お姉さんもありがとう」
『……構いません。我が儘の礼です』
エルホープは「ふふっ」と笑い、抜け殻を睨んだ。
『奴の弱点は鳩尾にある。そして、あれはもはや人工知能の動きしか出来ない』
ニエルは1度目を閉じ、「フッ」と笑みを浮かべた。
『任せてすまないな。終わらせてくれ、エルホープ』
「うん、分かった」
抜け殻がエルホープに向かって袈裟斬りを仕掛ける。
彼は後ろに下がってそれを躱し、抜け殻の鳩尾を、剣で貫いた。
バチバチと抜け殻の体に電流が走り、目の光が消える。
「お父さん。お疲れさま」
エルホープは抜け殻の剣を手に取り、首を介錯した。
『ありがとうエルホープ。私の業を、終わらせることが出来た』
ニエルは自分の死骸を見て、嬉しそうに笑った。
『エミリー。君もありがとう。おかげで……』
声を掛けようとしたニエルは、その様子に思わず絶句した。彼女の足を、無数の手が掴んでいたからだ。
それも、それは獣人ではなく、人間の魂だった。
『敵の味方は、敵です。貴方方に味方した私を、死んだ人達が許すはずもありません』
『……すまない』
ニエルは頭を下げた。
『ニエルさん、ありがとうございました』
ニエルがバッと頭を上げる。
エミリーは、優しい笑顔を浮かべていた。
『貴方のおかげで私は合理性を忘れられた。最後の最後で、本当に人を助けることが出来た』
エミリーの魂は、人間の手によって徐々に地獄へと堕ちていく。
『天国から、降りてきた甲斐がありました。地獄でどうなろうと、なんの悔いもありません』
彼女は、最後まで満足そうに笑顔を浮かべていた。
「お父さん」
エルホープは心配そうに声を出した。
ニエルの目尻には、ほんの少し涙が溜まっている。
『今も昔も、人間達の中で私を人として扱ってくれたのは、彼女だけだった』
ニエルは涙を拭い、笑みを浮かべた。
『私にとって、君は敵の味方ではあったが、敵ではなかった。……ありがとう、エミリー』
彼女が消えていった先を見つめながら、目を閉じ、黙祷した。




