第18話:特攻部隊
ニエル達は王宮に向かうため、住宅街を走っていた。
しかし、異変を感じたのか、突如足を止める。
『王宮の方から人間の群れが来ているようだ。用心しろ!』
ダダダダダ
人間の足音が聞こえる。同時に、人間達の姿がエルホープの目に見えた。
「あの女の人と、同じ装備を?」
皆が一様にスーツと首輪を着けている。
手にはもちろん、青い獣人の剣を持っている。
『向こうは戦車の砲撃や戦闘機の爆撃では、こちらを倒せないと分かっているのだ。大群の相手はその2つの方が有利だが、手強い1人が相手なら、あの装備で斬った方がまだ効果的だ。お前の表皮はそれほどに硬い』
「なるほど」
エルホープは身を低くして、大群を睨みつけた。
「なら、剣に当たらなければいいんだね」
『あぁ。人間達にはお前の速度に付いて行ける目はない。一気に突っ切れ!』
ピストルの合図を聞いたランナーのように、エルホープは地面を蹴って前方に走った。
「構えろッ!」
隊長らしき男が号令を掛ける。人間達は剣を腰に据え、突きの準備をした。
『甘い』
エルホープは人間の目の前まで行き、跳躍した。
その1つの動作だけで、人間達は彼を見失った。
「あそこだ!」
屋根の上を跳ねながら、王宮へと一直線に向かう。王宮の屋根を壊しながら、中へと押し入る。
着いた場所は、やたら赤いベットや、綺羅びやかな宝石などが置かれている寝室のような部屋だった。
出口の扉を蹴り飛ばし、廊下に出ると、スーツを着た人間達が、剣で突きに来た。
「無駄だよッ!」
剣をしゃがんで躱し、足払いでスーツと足の骨を砕く。
倒れた隙に人間達から離れ、別の場所へと走るが、その先にもスーツを着る人間が居た。
「一々戦ってちゃキリが無いね。指揮官を探さないと!」
その時、今まで黙っていたニエルが「うむ」と呟いた。
『エルホープ。おそらく、あの指揮官の居る場所は地下だ』
「え?」
『最初に向かってきた人間は、やけに数が少なかった。こちらが屋根を跳んで切り抜けるのを読んでいたのだろう。すると当然、王宮の侵入は天井近くになる。それが分かっているなら指揮官は地下で待ち構えるのが1番確実だ。向こうはこちらに姿を見せたくないと考えているからな』
「な、なるほど。さっそく、行ってみるよ!」
エルホープは床を殴って崩落させる。それを数回繰り返す内に鉄で覆われた灰色の広間に辿り着いた。
「ここが地下!?」
『そうとも言えるが、そうでないとも言える。見ろ!』
部屋の端に待ち構えていた人間の大群が、一斉にエルホープを刺しに来る。
『私達がいずれ地下に来ることも向こうは分かっていたようだ。奴が居る場所は、この部屋の更に下かも知れん!』
「なるほどッ!」
ジャンプをして人間達の突きを躱す。
それが分かっていたように、空から剣を持った人間が降ってきた。
「このッ!」
相手の持つ剣を2本指で掴み、下に振り下ろす。
引っ張られるように足元に来た人間の体を蹴り、更に跳躍する。僅か0.1秒後に相手の体は無数の剣で針山のようになった。
エルホープは壁に着地し、跳躍する。
それを何度も繰り返し、人間の視界から消え去った。
完全に捉えられなくなったタイミングで、地面に降り立ち、人間を蹴り飛ばす。
一人を蹴り飛ばせば、巻き込む形で10〜20人が倒れていく。
向こうが彼に気付いた時には、大群の半分は息絶えていた。
「それでも、来るんだね!」
恐れる様子はまるで無く、変わらず剣を持って斬り掛かってくる。
8方から囲むようにしての上段切り、跳んで躱すことは出来ない。
しゃがんで、前方にタックル。彼は人間を飛ばしながら、その場から逃れた。
『指揮官があの首輪で恐怖の感情を奪っているんだ。油断するなよ。最後の一人になっても間違いなく掛かってくる』
「分かった!」
広間を埋め尽くすほど居た人間達はもう居ない。エルホープは床を走り回り、相手を攻撃する。
常に目で捉えられぬ状態での攻撃。人間にどうこうできるはずもなく、あっという間に大群は息絶えた。
あと残るは3人。
トントン、と軽やかに跳びながら一人を倒し、もう1人も倒す。
最後の一人。正面から顔面に向かって拳を振った。
次の瞬間。人間の顔の皮が破れ中から剣が飛び出した。
「えっ!?」
『いかん!』
躱すことも出来ず、剣はエルホープの拳を真ん中から斬りつけた。
「うぐッ!?」
エルホープが痛みに怯む隙に、腹に蹴りを打ち込まれた。
彼は大きく吹っ飛び、壁に背中が衝突する。
バキョォッ
巨大な音を立て、壁全体にヒビが入る。
『まずい! 人間が出せる力の限界を明らかに超えている! 奴は何者だ!?』
ベリベリベリ
人間の皮が破れていき、中から獣人が出てきた。それは、ニエルの抜け殻だった。
機械のように赤く発光した目で、エルホープを睨む。首には、変わらずあの首輪が着いている。
「あれが、お父さん……ッ!」
エルホープの口からは血が噴き出し、右手は既に使い物にならなくなっていた。
抜け殻の口は、悪魔のようにニヤリと歪む。




