第17話:エミリー②
「ッ……ゥゥッ」
エルホープは瓦礫に埋まっていた。筋肉に力を入れることで潰されずに保っているが、その重さは優に数百トンはある。
そんな中に埋まっている以上、彼とて身動きが取れなかった。
壁に刺さっていた剣は瓦礫によって地面に落ち、手とともに床に埋まっている。
柄の下敷きになっている指が潰れそうな感覚が奔る。プシュと、どこかで血が噴き出すような嫌な音が鳴った。
『私が指を動かす。お前は潰れぬよう力を入れ続けてくれ』
「ぅ……!」
埋まっている状態ながらも、了承するような声を出す。
『よし』
エルホープ達の体は砦の床を貫いており、地面に当たっている。
硬い床とは違って、地面ならば多少指を動かせれば掘ることが出来る。
ニエルは柄の下敷きになっている指を使い、器用に地面を掘っていく。
するとその手は浮いている状態になる。
瓦礫に潰されるのを我慢しながら、剣の柄を握りしめる。
剣を回転させ、刃を上の方へ向ける。
手を上方向へと傾ける。すると、刃が瓦礫を切り、柄頭が掘った穴にすっぽりハマる。
『ふん!』
剣を僅かに上げ、柄頭を思いっきり地面に叩きつける。今度は大きな穴が空く。
蟻地獄のように地面を滑り、エルホープの体が穴の底へと落ちる。
「ここまでくれば!」
柔らかい地面の中に落ちたことで周りに瓦礫が無くなり、エルホープは掘って進めるようになった。
手でモグラのように穴を空けながら、地上へと抜け出す。
パッパッと砂を手で払いながら、2人は瓦礫の山を見る。
『少し待っていてくれ』
ニエルには、瓦礫の上にエミリーの魂が見えていた。
彼女は彼に気付いたようで、少し目を逸らしていた。
『やはり、貴方でしたか』
『あぁ、息子の体を借りて、戦わせてもらった』
『……そうですか』
暫し沈黙した後、エミリーはニエルに目を合わせた。
『放っておいてください。私はここで、報いを受けます』
獣人の魂が瓦礫の隙間から姿を現し、エミリーを囲んだ。
ニエルはそれから守るように、エミリーの近くに立つ。
『な、なんのつもりですか!?』
『報いを受けると言うならば、これも受けるといい。私はあの一切れのパンに、たしかに救われた』
『獣人、さん』
ニエルの後ろで、ポタッポタッと雫が落ちるような音が響く。
『すみません……1つだけ、1つだけ我がままをしてもいいですか?』
『あぁ、構わない』
エミリーはニエルの肩を掴み、背中に顔を乗せた。
彼女は涙を流しながら、少しだけ笑みを浮かべた。
『……お父さん』
エミリーの魂は薄れていき、天に登った。
『……』
ニエルは無言で空を見上げた後、視線をエルホープの方に戻した。
『よし、行こう』
「うん!」
エルホープは強く頷き、王都に向かうべく地を走っていった。
ーーー
「住民の避難も出来た。戦争の準備も出来た。やはり、やはり君は素晴らしいよエミリィッ! 流石は私の最高傑作! 生体反応に合わせた爆弾を砦に着けたのは大正解だったようだ」
高笑いをしながら、男は眼下の軍隊を眺めている。首輪とスーツを着けた、万にも及ぶ特攻部隊だ。
「万全を期して、この男の準備をしておいて良かった。この軍勢を突破されても、私には最終兵器が要る。フフフ、ハハハハハッ!」
男の後ろにあるでかい試験管のような物体。その中には、液体に浸かるニエルの抜け殻があった。




