第15話:決意
エルホープ達は研究所を抜けたあと、元々住んでいた洞窟に向かい、そこに操られていた3匹の獣人を連れて来た。
「アァ……」
ポタッポタッ
呆然と口を開け、唾液を地面に垂らす3匹の獣人。その様子はまるで理性を感じない。
『薬物だ。首輪以外にもあのクズに実験されていたらしい』
ニエルは「チッ」と舌打ちを挟む。
「ねぇ、お父さん。正気に戻してあげる方法は、無いのかな?」
暫しの沈黙とともに、ニエルからピシッと歯が軋む音が響いた。
『……分からん』
エルホープの頭はうつむき、眉は下がった。
『ここで数日暮らしてみよう。ご飯を食べたり、話しかけたりする内に、正気が戻る可能性はある』
「うん、そうだね」
僅かな希望を見出し、エルホープは大きくうなずいた。
彼はまず、川から魚などの食料を獲った。その後、薪から焚き火を立て、魚を焼く。
「さ、食べていいよ」
頃合いになって、魚を取り出し、獣人の前に差し出す。
暫く呆けていた彼らだが、焦げた匂いが鼻を突いた瞬間、狂ったように貪り始めた。
口からは唾液と魚の破片が垂れ落ち、クチャクチャと音が鳴る。
地面に落ちた物も拾って食べ、最後には魚の骨も残らなかった。
「……」
エルホープは、その様子に胸が締め付けられるような思いがした。
次の日、2人は大きく後悔することになった。
異音で目が覚め、3匹の様子を見た時である。
獣人の内一匹が他の2匹を殺し、咀嚼音を立てながら食べていたのだ。
既に2匹の息が絶えていることは明白だった。
「やめて! 何をやってるの!?」
エルホープは急いで死骸から獣人を突き放した。
その時、鋭く細まっていた目が、丸くなった。
自分の行動を理解したように、獣人の目から、涙がこぼれ落ちる
『いかん!』
ニエルはエルホープに憑依し、体を動かした。
予感が奔り、獣人を止めに行く。
しかしそれよりも早く、獣人は自分の首に自分の爪を突き刺した。
ニエルは首から爪を引き抜き、傷口を確認する。あの刹那の間に骨が切断されており、救助出来ないことを悟った。
ガクン
膝を落とし、涙を流すのはニエルかエルホープか。
"彼"は地面に手を付きながら、密かに呟いた。
「ごめん、なさい」
暗い目をしながら、エルホープは穴を掘り、獣人を埋めていく。
「ねぇ、お父さん」
救いを求めるように呟いた。
『なんだ?』
声には、いつもの優しさが無かった。
「僕は、やってはいけないことをしたんだと思う。彼等にとっては、あの研究所で死んだほうが、良かった」
『……そうだな』
また、暫しの沈黙が流れた。そして……。
「お父さん」
『なんだ?』
「決着を付けに行こう。人間の、指揮官のところまで」
ニエルは、僅かに目を見開いた。
「あの獣人のような被害者を失くすのが、僕に出来る償いだと思う」
『分かった』
ニエルは、一度うなずいた。
『案内しよう。奴等の拠点まで』
エルホープの体を動かし、懐から地図を取り出す。
指揮官の場所へと、2人で歩き出した。




