第12話:息子
施設の中を侵入している最中、ニエルはあることに気づいていた。
エルホープが先ほどから、すこし足取りがかるくなっている。コピーロボットと対峙するようになってからのことだ。
『やはり……』
ニエルはなんとなく気づいていた。エルホープは人を殺す、というよりも、生物の命を奪うこと自体に罪悪感をおぼえている。
露払いのためであり、しかたないと割り切ることは出来ていても、心のどこかでは、「殺したくない」と考えてしまっているのだ。
「……ごめんなさい……お父さん……」
エルホープは父の思考に気づいたようで、顔をうつむかせていた。
『……大丈夫だぞ。エルホープ……』
ニエルは、彼の性質を悪いものとは思っていない。その天性のやさしさを否定できるはずもない。しかしだからこそ、この行為をさせることに、わずかながら罪悪感をおぼえているのだ。
『……早く終わらせてしまおう。こんな因縁は』
ニエルは決心した。軍の者共を倒し、露払いがすめば、人間への復讐も終わりだ。これ以上、生物を殺し、エルホープの心を傷めさせる必要はない。
彼はその決意をむねに、この施設にある、最深部の扉をひらいた。
中は先ほどまで戦っていたあのロボットが20体。そしてそれを指揮する男、あの指揮官の面影がすこし見える青年がいた。
「く……くるな! 獣人ども!」
あの指揮官はここにはいない。目の前にいるのは、奴の息子と思われる青年だけだった。
『エルホープ。代わってくれ……』
「……うん」
ニエルはエルホープに憑依して、彼の体をうごかした。そして、瞬時に20体のロボットを駆逐していく。
「ヒ……っ!」
青年はビクッと肩をはねさせ、その場から逃げようとした。
しかしそれも遅かった。すでにニエルはすべての機械を倒している。その状態で、ニエルが彼を見逃すヘマをするわけもなかった。
「今から、いくつか質問をする。正直に答えてもらおう」
青年の首に、己の刀を添えて、ニエルは問いかけた。
「い……いいのか!? ぼくを殺せば、パパがおまえを……!」
「かまわない。元より、そのパパとやらを倒すために来ている」
ニエルは依然とした態度をしている。
青年は「ヒ……」と怯えた声を出し、コクコクとうなずいた。質問に応じる気になったようだ。
「では……軍事施設について答えてもらおう。軍隊にとって重要な施設は、どこにある?」
「ちょ……ちょっと、まってください……」
青年はぷるぷると震えた手で、近くにあった引き出しを開け、地図を取りだす。そして……それをニエルへと渡した。
「……ふむ」
ニエルは地図をかくにんし、その実態をたしかめた。これには、軍事施設の場所やそこの情報について書かれている。
これさえ見れば、位置とその重要性ぐらいは、把握できるだろう。内部の構造などはわからないようだが、そこさえ分かれば彼にとっては充分だった。
「……大人しくこいつを渡してくれたことには、感謝する。しかし、お前を生かしておくわけにはいかない」
青年が声をあげる前に、奴の首を刎ね飛ばした。ニエルはその修羅のような顔のまま、剣を鞘に納め、憑依をやめた。
「……父さん……」
呆然とつぶやいたエルホープに対し、ニエルはすこし申し訳ない気持ちを抱いていた。
彼とて、自分の激情を抑えることは出来なかった。あの息子をゆるし、解放することが出来なかったのだ。
『エルホープ。……すまないが、このことに関しては、割り切ってもらうしかない』
「うん……大丈夫。……僕も、覚悟してきてるんだ」
エルホープはコクリとうなずき、前を向いた。
そして地図を確認し、軍の施設へむかう意志をいだいた。
ニエルはその時、ふと後ろを向いた。
『た……助けてくれぇ……ッ!』
先ほどの青年の魂が、無数の霊に捕らえられていた。それは、獣人族の霊だった。
彼らの怨念がいま、死者となった青年をいためつけているのだ。
彼の魂はニエルに縋りついてきていた。「こいつらを止めてくれ」と、寄りついてきていた。
『……地獄に墜ちろ』
ニエルは青年を払いのけ、エルホープに付いていく。無数の手によって、魂を削られる彼に見向きもせず、そこを去っていった。
彼の復讐は始まった。エルホープが居る手前、肉体を懲らしめることは出来ない。しかし、魂を痛めさせることは出来る。
獣人たちの憎しみ。それを奴らへとぶつけることは出来る。
そうすることで、わずかにでも成仏する獣人たちが居るのであれば、それでいいのだとニエルは考えた。
「……父さん。何か言った?」
ニエルの思考に、エルホープは気づいていないようだった。そのことにニエルは僅かな安堵を感じていた。
『エルホープ。……気にしなくていい』
「そっか……」
エルホープはうなずき、施設の外へと出た。
そして、次の場所へとむかっていく。




