第10話:魂
エルホープはあの後も地面に潜り続け、何とか人間を撒く事に成功した。
しかし、ニエルの怒りは収まらなかった。自分の種族を全滅させ、子供の命すら危うくなっている。そんな事態を引き起こした軍隊を、許せるはずがなかった。
木の実を与え、葉っぱの暖かみをくれていた森も、既にない。完全な焼け野原になってしまっている。
「お父さん……」
エルホープは皮が爛れ、露出した筋肉に直接触れてくる、その寒風に身を震わせていた。
ニエルには、それを抱き止めれる腕すら無かった。
『エルホープ……場所を移動しよう。いつまでもここに居ては、いずれ餓死してしまう……』
「うん……」
エルホープは小さく頷き、幾分かましな右足で、左足を引き摺らせ、移動していった。
『エルホープ……逃げる選択肢はない……戦わない判断も出来ない。どうやら我々は、人間と戦わなければ平和には暮らせないらしい』
このまま隠れ住んでいても、何れは人間に見つかる。その時に相応な力を持っていなければ、今度こそ死んでしまうだろう。
こちらに残された選択肢は、力を付け、戦いに挑むことだけだった。
「お父さん……僕は、そんなに強くなれるのかな……」
『勿論だ。……エルホープ、お前はいずれ、あの爆発など物ともしなくなるほどに強くなれる』
その言葉を聞き、エルホープは暫しの間、虚空を見つめていた。やがて、コクリと頷いた。
「分かった……お父さん、これまで以上の稽古をして! 僕、絶対に強くなるよ!」
『あぁ……任せてくれ』
ニエルは心の中で頷き、ふと、後ろに視線を向けた。そこには、彼にだけ見える数々の魂があった。
森に暮らしている動物の姿をした魂や、緑色の、植物の魂。それがあの世へと成仏していく。
ニエルはそれを見送りながら、必ず彼らの仇も取ることを、決意した。
「……お父さん、あそこ……」
エルホープはニエルの思考が読み取れる。故に、父には森の者達の魂が見えている事も理解していた。
『今、気にする事はない……ただ、祈りを挙げるだけでいい。お前を育ててくれた森の者達に』
エルホープは感謝の気持ちを込め、手を合わせた。その行為にどれだけの意味があるかは分からない。しかし、ニエルは、僅かながら、成仏していく魂が多くなったような気がした。
彼等はこの後、洞窟を見つけ、そこを寝床にする事が出来た。そこに何かの導きがあったのかは、魂の見えるニエルとて、知る由もなかった。




