第9話:襲撃
『……来たか……』
ニエルは逸早く認知した。彼等が望まぬ集団、人間達がこの森にやってきたのだ。
「ど……どうすればいいの?」
『とにかく、落ち着くんだエルホープ。手出しはせず、隠れていればいい。もし見つかったとしても、その時は私に任せておけ』
エルホープはコクリと頷いた。
ニエルは、もし戦闘になれば自分が憑依して人間を撃退するか、逃走するつもりで居る。
(戦わずに済むなら……その方がいい)
彼とて、恨みは当然ある。しかし、もう生き残っている獣人はエルホープしか居ない。
勝つ意味もないのに、私怨で戦わせるつもりは毛頭なかった。
しかし、その瞬間爆発音が響いた。
遠い場所ではない。精々100メートル程の距離からの音だった。
『まずい……ッ! エルホープ!』
「な……なに……? 何が起こったの!?」
『急いでここから離れなければならんッ! 奴等は……この森ごと爆破させるつもりだ!』
彼はビクッと体が震え、その場に動けなくなってしまった。如何に強く、優しい子であってもまだ生まれて間もない子供。爆撃の恐怖に耐えられなかったのだ。
『すまない……体を借りるぞ!』
ニエルは強く念じ、エルホープの体を動かした。そして、森の外へと一気に走った。
しかし……逃げ切る事は出来なかった。走る途中で、上空からの爆発に直撃してしまった。
「あぐ……ッ!」
如何に強い獣人といえど、まだ子供である。
爆発に耐える事が出来ず、体中火傷だらけになった。
『エルホープ……無事かエルホープッ!?』
ニエルの必死の問いかけに、この子は応えず、気を失っていた。
そして、その間にも、無慈悲に爆撃は放たれていた。
『ぐぬぅぅぅッ!』
彼は必死に考えた。このままでは息子が死んでしまう。そして、最早森の外へ出ることもリスクが高すぎる。
例え爆撃を凌げたとしても、こんな傷だらけな状態で人間に出会えば、殺されてしまう。
『潜るしか……ないッ!』
彼はエルホープの体を動かし、獣人が1人入れるサイズの穴を掘った。
その中に入り込んで蓋を閉め、爆撃が過ぎ去るのを待った。
「いたい……」
『エル……ホープ……』
息子の綺麗だった毛並みも全て焼かれ、体中の皮が爛れている。穴の中の小石などがその傷口を刺激し、彼の体が震えていた。
『すまない……』
どんな時でもエルホープは笑顔だった。しかし、そんな彼も今では痛みに苦しみ、顔を歪ませている。
その様子を見て、ニエルは察した。この子が平穏に暮らすためには、人間を倒すしかない。
『私が……地獄に送ってやる……』
ニエルの迷いは消え去った。獣人の無念を晴らすため、そして、我が子の安寧のため、軍隊を打ち倒すと決意した。




