プロローグ:束の間の幸せ
これは、復讐に生きる魂を綴った。1つの物語である。
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頭に茶色い犬の耳が生えた銀髪の青年、ニエルは、今幸せの絶頂に居た。
幼い頃からこの獣人族の中で武勇を積み続け、人間との戦争の中で1番の立役者となっている。
そして、彼はそんな名誉だけでなく、心優しい妻と娶る事も出来たのだ。この日は、その結婚式であった。
「あなた……。」
傍に居る妻、テファルは、彼が幼い頃から思いを寄せていた女性である。
綺麗な黒い髪に同じ色をした猫耳が生えた女性。今は純白の綺麗なドレスを着け、ニエルの傍に居る。
「あぁ。」
2人は抱き合い、永遠の愛を誓った。
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「フッフッフッ……しかしまさか、あのテファルがニエルと結婚するとはなぁっ! ガッハッハ!」
笑いながら、2人の肩を豪快に叩いている男性はテファルの父親であり、ニエルにとっては義父に至る人物である。名はガーダスと言う。
「何よお父さん! 私じゃ釣り合ってないとでも言うつもり!?」
プクッと頬を膨らませ、テファルが声を荒げる。
それに対し、相変わらずの笑い声を挙げながら、ガーダスが謝罪をした。
「いや〜、すまんすまん、そういうつもりでは無いのだがな。なにせ、あの小僧がうちの娘に惚れていた、などと思わなかった物でな。」
「あはは……テファルとは幼い頃からの付き合いですから……恐縮です。」
「恐縮する必要は無いぞ! ガッハッハ!」
スッと頭を下げたニエルに対し、ガーダスは笑いながら、酒をグイッと飲み干した。
中々癖の強い父親ではあるが、テファルの事をこう言うのにも理由がある。
何せ、彼女は幼い頃から色々そそっかしい部分があるのだ。
家にトカゲを連れ込んだかと思えば、毒を持っている危険な種類だった。他にもその辺に落ちていた緑の石を誤って呑み込んでしまい、まだ腹の中に残ってしまっている。
そんな逸話が山程あるのだ。
片やニエルは堅物である。
死者をあるべき場所へ導いてくれると言う伝承を持つ地母神の祈りも欠かさない。
そして、剣の素振りをしたり、何十歳も上の先生と実戦稽古をしたりなど。これを5歳の頃から毎日欠かさずやっている程の男である。
故に、さぞかしテファルの事を好いているという事は無いだろう。と考えていた矢先のこの結婚。父親が意外に思うのも、無理からぬ事である。
と言っても、ガーダスという男は、そんな細かい事を長々と気にするような男ではなかった。
「まぁ、何にせよめでたい事だ。早く孫を見せてくれよッ!」
この発言には流石にニエルも面食らった。
顔を赤くさせながら、バンと机を叩いた。
「と、義父さん何を言ってるんだ!? まだそういう話は少し早いというか……!」
「早い!? 早いと言ったのか!?」
ガーダスは即座にニエルに聞き返した。
少し困惑気味になりながら、彼はコクリと頷く。
「ガッハッハ! それならば良い、それならば良いのだ! 儂は1ヶ月でも2ヶ月でも待つぞ。こう言うのは夫婦のペースという物があるからな。」
尤もらしい事を言いながら、随分と気が早い男である。そもそも、子供が1ヶ月や2ヶ月で産まれる様な事はない。
「全く、義父さんも困ったもんだ……。」
「えへへ〜、ニエル。実際に子どもはもう出来てるんだよ。」
先程までマイペースを貫き通していたガーダスとニエルは、その言葉を聞いて一気に血相が変わった。
寡黙に酒を飲んでいたニエルの父や、向こうで料理をしていた新郎新婦の母親2人も、血相を変えて、顔を覗かせている。
「実はね、出来てから1ヶ月ぐらいは経ってるんだって。」
「めでたい! めでたい事だなぁっ! オイッ! お前もそう思わんか!」
ガーダスはニエルの父親に、絡み酒を仕掛けた。普段は寡黙で無口な彼でも、今回ばかりはそうはいかない。
喜び勇んで踊りまくっている。
「ほ、本当なのか……。テファル……」
ニエルの絞り出したかのような呟きに、彼女はコクリと頷いた。
彼はそれを見た時、天にも昇る様な心地になった。堅物の彼が腕を振り上げ、バンザイをしているのである。
「テファル……! やったなッ!」
「うんっ!」
この日、夫婦は体を抱き合わせ、喜び合った。
そして、ニエルは決意した。子供の為にも、戦争を早く終わらせなければならないと。




