第七十三話 パーティの帰途
王都に戻ったあと、俺は拠点でシェスカさんに会い、ファリナのことを伝えた。
「そう……それなら、私は早速ファリナを探しに行かなきゃ」
「シェスカさん、俺の話を信じてくれるのか?」
「私たちの前に現れたのは、確かに女神様だったけど……でもね、ファリナを保護してくれてるっていう女神様は、マイト君の話を聞く限りではやっぱり信じていいと思うのよ」
「そう……ですか。すみません、俺はすぐに行けなくて」
「……マイト、本当にいいの?」
部屋の外から、リスティとプラチナ、ナナセが覗いている――なんて仲間たちだと俺は苦笑いするしかなく、シェスカさんは楽しそうにしている。
「いい仲間ができちゃったわね、マイト君。お姉さん、正直ちょっと妬けちゃうくらい」
「ええっ……そ、そんな、シェスカさんみたいな綺麗なエルフさんに妬いてもらっちゃうようなことなんてなんにもないですよ?」
「それは、マイトがいると私たちは助けられているが……マイトも、シェスカ殿のような頼れる相手の方が、パーティを組む上では好ましいのではないかと……」
珍しくナナセもプラチナも畏まっている――シェスカさんは二人に向かって歩いていき、何を思ったか、頭をぽふぽふと撫でた。
「ふぁぁっ……わ、私が小柄だから撫でてます……?」
「私も撫でられているのだが……な、何か懐かしい気持ちになってしまうな……」
「はい、リスティちゃんも。滑らかでさらさらの髪……いいわね、ずっと触っていたくなっちゃう」
「だ、駄目ですよ、そんな……シェスカさんも凄く綺麗な髪じゃないですか」
ひとしきりじゃれたあと、シェスカさんは顔をツヤツヤとさせてこちらを見る――俺は恐れ多くも、彼女の『撫で撫で』は辞退した。
「さて……こうしてゆっくりしてると、決心が鈍っちゃうから。マイト君、私はもう行くわね」
「っ……シェスカさん……」
「そんな顔しないの。私はファリナのことも妹みたいなものだと思ってるから、放っておけないのよね。もちろんマイト君も大事だけど……本当に、可愛くなっちゃって」
「あ、あの。俺もいい歳なので、頭を撫でるのは……」
「いくつになっても、私はマイト君のお姉さんだから。次に会うのは結構先になるかもしれないけど、私のこと忘れちゃ駄目よ」
「忘れるわけないじゃないですか」
何の衒いもなく、心からそう思う。シェスカさんは微笑んで頷くと、杖を持って外に出ていった。
いつかもう一度会えるときは、ファリナと、そしてエンジュも一緒に――そうできたらいいが、願うだけではなく、実際に動くことが大切だ。
「さて……そろそろあたしたちも行こうか?」
「うぅ……メイベルさん、私もついていっていいですか? もうメイベルさんやウルちゃんと一緒にいるのに慣れちゃって……」
「あんたは王都の冒険者なんだから、しばらく経ってもフォーチュンに来ようと思ってるようならいつでも来な。あたしが面倒見てあげる」
「本当ですか? マイト君、メイベルさんがそう言ってるので、今後ともよろしくね」
「ああ……まあ、好きなようにやるのが一番じゃないか」
『ごめんくださーい』
話しているうちに、エルクが訪ねてくる。彼女はすっかり回復して、元の彼女に戻っていた――だが彼女にとって気がかりなのは、吸血鬼化しているときにガゼルに怪我を負わせたことだった。
「……マイト。ごめん、急にいなくなったとか変なこと言って……」
「それはエルクの言う通りだから仕方ない。あの時はごめん、これからもよろしくな」
「そんなあっさり……なんて、私が言うでもないよね。ありがとう、マイト」
エルクが右手を差し出してくる。その手を握り返すと、メイベル姉さんはこっそり俺達に分からないように目元を押さえていた――それを見てエルクも涙ぐむので、俺までつられそうになってしまった。
――歓楽都市フォーチュンより北 街道沿いの村――
王都で馬車を二台借り、分乗して歓楽都市への帰路につく。
途中、街道沿いの村にガゼルが迎えにきてくれていた――エルクが無事だったことに彼は心底安堵して、そして俺と無言で拳をぶつけ、心から嬉しそうに笑った。
また三人でつるむのもいいとガゼルは言っていて、エルクも満更ではなさそうだったので、大人になった二人と飲むのもいいかもしれない。
しかし、再び歓楽都市に向かう途中で、俺は御者をしながら、客車に乗っているリスティに聞かずにはいられなかった。
「……なあ、本当にいいのか?」
「え? 一体なんのこと? ……なんてね。私が王女としての務めを果たさなくていいのか、って思ってるんでしょ」
「いや、そこまでは……」
「そうよね、私って王女らしいとかそういうのは特にないしね」
リスティは本当にそう思っているようだが、全く反対だ。
舞踏館でリスティの舞いを見てから、王女としての姿がリスティの本来の姿なんじゃないのか――そんなことを考えてしまっている。
「……ファリナ殿は、信じ難いほどに強かった。私たちはまだ弱い、それは分かっているが、みんなで戦ったことであの結果になったのだと思いたいのだ」
「それは勿論そうだな。俺一人じゃどうにもならなかった」
「マイトさんはすごい人で、それに私たちは少しだけお手伝いしてるだけですけど……でも、パーティで一緒にいる意味はあると思ってますっ。身分不相応なことを言ってるのは分かってますけど、それでもっ……」
「それに……借りてるとはいえ、私たちの家もあるんだから。すぐに出ていくのは良くないと思うの」
三人とも言葉は違えど、同じ意味のことを言ってくれている。
「……じゃあ、俺たちのパーティ……『月光の団』は活動継続ということで。本当にいいのか?」
「マイト、また同じこと言ってる」
「謙虚というか、何というか……奥ゆかしいのだな、我がパーティの賢者殿は」
「駄目ですよそんな、マイトさんが拗ねちゃったら困りますから。もちろん活動継続ですし、レベルが上がった私の新たな実験にも付き合ってもらいますよ?」
「はは……まあ、お手柔らかに頼む」
ファリナはどこに姿を消したのか。シェスカさん一人に任せておいていいのか――それも考えなくてはならないことだが。
二人には、必ずまた会える。そして、レベルが離れている相手に会う方法は何かあるのではないかと思えてきている。魔族だけがレベルを無視できるというのは、やはり不公平な話だからだ。
「私たちも頑張っていれば、そのうちマイトが仲間として誇れるような人になれると思うわ。だから、ちゃんと見ててね」
今思ったことは、この場でそのまま彼女たちに言うことはできない。彼女たちも恥ずかしがるような、俺らしくない内容だからだ。
いつか言えるとしたら――その時俺たちは、どんなパーティになっているのだろう。
未来のことを考えるのは、今は保留にする。俺は少し先を行くメイベル姉さんたちの乗った馬車に追いつこうと、芦毛の馬たちに威勢よく声をかけた。
※お読み頂きありがとうございます!
ブックマーク、評価、ご感想、いいねなどありがとうございます、大変励みになっております。
皆様のご支援が更新の原動力となっておりますので、何卒よろしくお願いいたします!




