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第六十九話 仲間たちの邂逅

   ◆◇◆


 ――王都べオルド 東地区 盗賊ギルド第七拠点――


 拠点に戻ってきたリスティたちは、居間のテーブルを囲んで座っていた。


 メイベルは吸血鬼の襲撃事件について冒険者ギルドで説明しており、実際に事件解決に参加したモニカが同席している。


「……マイト、ちょっと外に出てくるって。これから夕方になっちゃうのに」

「何か用事があるのなら仕方がないですね……なんて、空気を読む私たちじゃないんですけどね」

「あのように真剣な顔をされてはな。こちらからしつこく食い下がっては、パラディンとして潔くないではないか……むぅ、それを狙っていたのか」


 三人もそれぞれに自覚していた――自分たちの会話が不自然であるということに。


 冒険者ギルドを訪れたエルフの神官を目にしてから、マイトの様子が変わった。それに気づいていながら、三人はその理由を尋ねられずじまいだった。


「……あの女の人が、もしかして……マイトの、昔の仲間なのかな」

「ああっ……そ、それ、全然ありそうですね……でも女の人の方は、マイトさんの名前を呼んでましたっけ?」

「意識が朦朧としているようだったから、何とも言えないが。少なくとも、マイトが全く知らない相手ではない……そのようには感じた」


 プラチナの隣に座ったナナセは、しばらく言いにくそうにしてから、胸を押さえて深呼吸をして――そして、言う。


「その……月並みですけど、恋人……っていうことだったりは……」

「「…………」」


 リスティとプラチナは何も答えられず、互いに目を合わせてから、ついと逸らす。


「ボクはそうじゃないと思うよ。というより、主様の考えていることはだいたい分かっているからね。あえてそれを踏まえてここに残っているんだけれど、本当はそれではいけないのかもしれない」

「ウルちゃん……マイトは、魔族がいるっていう塔に行ったの?」


 リスティも気づいていた。ナナセだけはそこに考えが至っておらず、動じていないプラチナを見て慌てている。


「ゾラスとラクシャも、私たちが対峙するにはあまりにも強大だった。それでも戦いに加わることができたのは、マイトがいたからだ」

「そのマイトさんが、私たちを置いていったんだとしたら……」

「塔にいる魔族は、もっと強くて……私たちはその場にいることもできないっていうことよね」


 諦観を込めた言葉でリスティは言う――しかし、彼女はテーブルの上に置いた手をぎゅっと握り、対面に座っている仲間たちを見た。


「でも、私たちはパーティだから。『月光の団』は、マイト一人だけじゃないんだから……やっぱり、置いていくっていうのは違うと思うの」

「……リスティ」

「……そうですよね。私たちを心配してくれるお気持ちは嬉しいですけど、それで大人しくしてるような私たちじゃないんです。それをまだ、あの人は分かってないんです」


 勢いづくナナセだが、その身体は少し震えている――プラチナは微笑み、ナナセの肩に手を置いた。


「この『白銀の閃光』を戦力外扱いとは、見くびってくれたものだ。たとえ自分の十倍のレベルの敵であろうとも、マイトを助けるために何もできないわけではない」

「そう……協力したら、私たちは何倍にも強くなるんだから。マイトが私たちの力を上手く使ってくれたら……あっ……でもマイトって、私たちの技を解放したら、自分でも使えるっていう感じだったわよね……」

「緊張する場面だと思うんだけど結構ふわふわしてるね……でも、君たちらしい。そういう君たちのことを、ボクは誇らしいと思うよ」

「ウルちゃん、そんなに褒められても……こんなに意気込んでいたって、どうやってマイトに追いつくのかっていう問題もあるしね」

「マイトさん、足が速すぎますからね……えっ、もしかしてもう色々手遅れですか?」

「何をいう、根性さえあれば今からでも追いつける。待っていろマイト、いかにも格好いい感じで孤高を気取ってみたところで、私たちとパーティを組んでしまったのが運のつきだ……!」


 三人の意見は一致し、拠点から飛び出して行こうとする――そのとき、外から扉が開けられた。


「――話は聞かせてもらったわ」


 現れたのはシェスカ――治療所で介抱されているはずの彼女は、ぼろぼろの服はそのままながらも、その目には穏やかな光が戻っていた。


「あなた……もう大丈夫なの? あんなに消耗してたのに……」

「ええ、あなたがすごい技を使ってくれたから……減衰させずに魔力を人に与えるって、本当に難しいことなのよ」

「そ、そうか……私の技はそんなに凄かったのだな。人に魔力を与えるだけというのは、少し地味かもしれないと思っていたのだが」

「知る人が知ったらすっごく欲しがられちゃうから、あまり人には言わないようにね。まず私が欲しくなっちゃってるくらいだし……マイト君ったら、こんな逸材を見つけちゃうなんてやっぱり隅に置けないわね」

「君は……主様の知り合いなのかな? 何か、複雑な術式を自分にかけて力を抑えてるみたいだね」

「あら……あらあら……っ、あなたもマイト君の友達? マイト君の子供っていうのは違うわよね、内側から存在の大きさを感じるし」


 地霊として崇められていたウルスラの秘めた力に、シェスカは一目で気づいている――その事実に、三人は薄々と気づき始める。


「力を抑えてるって……あなたもマイトみたいに、物凄く強いっていうこと?」

「ふふっ……それはどうかしら。今の力でも、あなたたちを望むところに送ってあげたりはできるわよ」

「望むところっ……そ、それはあの、あの世的なところだったりは……」

「落ち着けナナセ、そんな物騒な人物ではあるまい。この『白銀の閃光』を持ってしても、相対して震えがくるほどの力は感じるが……」

「あら……今のマイト君からすると、ちょっとあなたは年上の魅力が過剰というか……なんて、そんなことを言ってる場合じゃないわね」

「君もすごく強いけれど、レベル帯に合わせているからレベル10ほどの力しか出せないみたいだね」

「ええ。抑制しても限られた魔法だけ使えるように残したら、戦う力は無くなってしまって……今のマイト君と組んでいるあなたたちの方が、助けにはなれると思うわ」


 シェスカはそこまで言って、リスティたちの顔を順に見る。


「ボクは魔族の影響力が強い場所では力を発揮できない……信仰を得られている土地じゃないと力が発揮できないんだ。力になれなくてごめん」

「ううん、ウルちゃんは前にも言ってくれてたじゃない、無事に帰ってくるのを待ってるって」

「その言葉、きっとウルさんが思うよりも私たちみなぎってしまってますよ」

「マイトを必ず連れて帰る……と、私達が言うのは違うのかもしれないが。連れて帰らなければ『月光の団』に明日はないのだから、やるといったらやらねばならぬ」

「……ふふっ。さっきは気を失いそうで、マイト君の前では言ってあげられなかったけど。いい仲間を見つけたのね、彼は」


 シェスカが口元に手を当てて笑う――それを見てリスティたちは頬を赤らめ、三人で恥ずかしそうに笑い合う。


「でもね……マイト君もそう言うと思うけれど。これから彼が止めようとしている人は、あなたたちの想像が及ばないほどの力を持っている。でも、あなたたちだけを狙って倒そうとはしない……根はとても優しい子だから。あの子を助けようとしてくれるなら、きっとチャンスはあるはず。マイト君はひとりで成し遂げようとしているけど、誰かが支えてくれるからこそのパーティなのよ。一人一人、力の違いがあったとしてもね」

「ご忠告、ありがとうございます……あの、一つ聞いておいていいですか?」

「私の名前はシェスカ。マイト君とは、昔一緒に旅をしていたの……彼が今止めようとしているのは、聖騎士(アークナイト)のファリナ。魔族の呪いを受けてしまって、今は完全に乗っ取られないように耐えているの……私の力では、あの子を助けてあげられなかった」

「聖騎士……何ということだ。本物ではないか……っ

「プラチナさん、パラディンだけじゃなくてかっこいい騎士の職業に憧れてるんですね……大丈夫ですか、そんな人とこれから戦うというか、マイトさんのサポートをするわけですけど」

「いや……望むところだ。憧れの相手をこの目で見ることで、私はきっと脱皮できる」

「強くなれるとか、そういう言い方をしてほしいんだけど……ほら、シェスカさんも笑って……」


 シェスカの頬に涙が一筋伝う。彼女はそれを拭って、三人に微笑みかける。


「……マイト君のことをお願いね。あなたたちに、優しき神の加護があらんことを」


 女神が目の前でファリナを連れ去ったことで、シェスカの信仰は揺らいでいた。


 しかしどのような形であれ、マイトは生きていて、倒れかけたシェスカを受け止めた。


 本当はあの場で泣きたかった。抱えた感情をすべてぶつけてしまいたかった。


 そうできなかった今、シェスカは自分は舞台から降りているのだと思っていた。ファリナを止めに向かうマイトの傍にいるべきは、この三人なのだと。


 ――『シェスカ』が『空間転移I』を発動――


 リスティたちの足元に淡く輝く魔法陣が現れ、その姿が消える。再び魔力を消耗したシェスカは、駆け寄ったウルスラに支えられた。


「主様……ここが正念場だね」


 ウルスラは祈る。シェスカもそれは同じだった――祈りを捧げる相手は神でも、他の誰でも構わない。二人は言葉を交わさないまま、奇しくも同じ想いを胸に抱いていた。



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