第五十三話 王都到着
――歓楽都市フォーチュンより北 王都街道沿いの村
メイベル姉さんとウルスラを一行に加え、俺たちは王都に向かった。
王都べオルドに行く途中で、再びガゼルのいた村を通る。メイベル姉さんは診療所にガゼルの顔を見に行き、それほど経たずに戻ってきた。
「どうだった?」
「マイトのくれた薬で元気になったって言うんだけど、もう少し休むように言っといたよ。ガゼルは甘いからね、エルクが出てきたら冷静じゃいられないでしょ」
「ガゼルさんはマイトの昔の知り合いなのよね。パーティを組んでた人たちとは違うの?」
リスティが尋ねると、俺の代わりにメイベル姉さん――一応素性を隠すためらしく、目元を隠す仮面をつけている――が答えた。
「ガゼルたちとマイトは組んでたというより、幼馴染みってほうが近いかしらね」
盗賊ギルドで組んで腕を磨いた――というのは伏せている。盗賊といっても悪事を働いていないので、素性を明かしてもいいと思うのだが。
「幼馴染みというと、友達というか、そういう距離感ってことで良いです?」
「ああ、まあそうだな……でも今は、エルクは魔族に操られてる。なるべく怪我はさせずに助けないといけないが、それは俺に任せてくれ」
「マイトの強さがあってこそできることだな。私も何かできることがあれば協力したいのだが……」
プラチナが言うと、メイベル姉さんが何か言いたげに俺を見ている――仮面をつけていると何を考えているのか分からない。
「ところでマイト、この三人の中では誰が好みなの?」
「ぶっ……」
いきなり聞かれるとさすがに驚く――そういえば、昔からそういう話題が好きな人だった。
「マイトさんは私のことをまだ子供だと思っているみたいですが、それは照れ隠しという説がありますね」
「いつ出てきたの、その説は……マイトは真面目な人なので、好みとか、私たちをそういう目で見たりはしてないと思います」
「うむ……しかし、この年頃の少年は多少なりと女性に興味を示すものだと思うので、それが全く無いというのは、逆にマイトに対して失礼なのではないだろうか」
「本人を前にして何を言ってるんだ……というか、そんなことを考えてたのか」
つまりこの三人は、俺をほぼ無害と思っているわけだ――パーティを組む上ではむしろ良いことなのだが。
「ふふっ……やっぱりいいわね、若いって。お姉さんにはちょっと眩しいけど」
「姉さんも十分若いだろ」
「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃない」
「大人の女性としての振る舞いには、参考にするべきところがあるな。パラディンの私に必要があるのかというところだが……」
「凄いじゃない、パラディンってものすごく防御が硬い職でしょう」
「ええと……プラチナはものすごく守りは硬いですけど、パラディンっていうのは気持ちのお話で……」
プラチナの代わりに説明するリスティは大変そうだが、俺としては話題が逸れたことに安心していた。
「……ん? どうした、ウルスラ」
ウルスラが俺の袖を引く。少し身を低くすると、ウルスラは肩に手をかけて耳元で囁いてきた。
「メイベルは主様の昔の恋人かと思ったけど、そうじゃなくて良かった」
「っ……」
「マイト、そんなに子供に好かれる方だったっけ?」
ウルスラが何を言ったかなど知らずに、メイベル姉さんはやけに楽しそうだ――盗賊の技である『聞き耳』は、常に発動しているわけではないようだ。
そういえば、メイベル姉さんのように勝手に錠前が開いてしまった場合でも『封印解除』はできるのだろうか。まず俺の魔法について説明しないといけないが、機会があれば試させてもらいたい。
◆◇◆
――王都べオルド 東側城郭外――
王都べオルドにある王宮は城郭で囲われており、その外側に市街が広がり、2つ目の城郭によってさらに囲われている。
中に入るには、市民や商人が使うものと同じ門を通らなくてはならない。そうすると、一つ懸念が生じてくる。
「検問を素直に受けたら王都に入ったことがばれるからね。ガゼルとエルクが使った伝手があるから、別の入口から入ろうか」
「そんなことができるんですか?」
「まあ、あたしは王都でもある程度顔が利くからね」
メイベル姉さんに案内されて、俺達は王都の東側までやってきた。人の行き来が多い東正門から少し離れた場所に、目立たない小さな扉が設けられている――そして、見張っていた男がこちらにやってくる。
「フォーチュンから来た。ここを通してもらえるかい?」
「っ……」
メイベル姉さんが見張りの男に何かを見せる――それだけで、メイベル姉さんが何者なのかは通じたようだった。
「驚いた……まさか直々に来られるとは。負傷者が出て、このまま引き上げになると思っていましたからね」
「仕事を半端のままにしてはおけないからね。あの子を捨て置くつもりもないし」
「心強い限りですが、こっちも後手に回っています。ひとまず本部にお連れしますので、現状の情報を共有させてください……そちらの四人は?」
どうやら彼は王都の盗賊ギルドの一員らしい。俺はあとでメイベル姉さんから話を聞くか――できれば姉さんを護衛したほうが良さそうだが。
「ここで聞くのもなんだけど、今あたしたちが使えそうな拠点の空きはある?」
「いくつかありますが……正直なところ、今は王都の中で滞在することも勧められない状況です。ちょっと変な事件が続いてまして」
「変な事件?」
「若い娘が何者かの襲撃を受けて……事件が起きるのは決まって夜で、襲われた娘は軽い怪我で済んでいますが、どうも後遺症のようなものが出ているみたいで」
「後遺症……?」
「日が昇ってるうちはずっと眠ってるようになって、目覚めても何か様子がおかしいとか……食べ物の好みが変わったとも聞きましたが、それは関係あるのかどうか。とにかく、襲われた人には異変が起きてます」
吸血鬼は日の光を恐れる。つまり被害者たちはすでに眷属にされているか、時間が経てば眷属になってしまうということだ――もはや猶予はない。
「何か急に怖い話になってるんですが……異変って、お薬で治るやつです?」
「心配することはない。私がナナセを護ってやる」
「犯人を捕まえれば治せるのかしら……どちらにせよ、放ってはおけないわね」
王都にはリスティの家族もいるはずだが、まだ会いに行くのかどうかは聞いていない。まず目の前で起きている事件を解決したいというのが彼女の考えなら、俺もやぶさかでない。
「外に出るにも必ず衛兵や我々の目がありますし、犯人は王都の中に潜伏してるんでしょう。うちのギルドで行方が把握できないというのは歯がゆい話ですが……」
俺の場合、それくらいであれば掻い潜れなくもないのだが――とは話がややこしくなるので、言わないでおく。
そしてリスティとプラチナも、知られないままに王都を離れることができている。彼女たちの使った魔道具『隠者の指輪』は、それほどに優れたものだということか。
「犯人を探し出す方法を考えないとね。その犯人がガゼルたちを襲ったのなら、一日も放ってはおけない」
「何か犯人の手がかりになるようなことはありますか?」
「え……い、いや、手がかりと言っても大した情報は……」
「何でもいいんです、教えてください! 街の人がひどい目に遭っているなら、それを助けるのが私のっ……」
「ま、まあまあ……落ち着きな、リスティ。この子はあたしの知り合いの冒険者だから、話は聞かせてもらっても問題ないよ」
メイベル姉さんが取りなしてくれて良かったが、いきなり詰め寄ると警戒されてしまう――いや、それもちょっと違うか。
「そちらの三人はどこかのお嬢さんってふうに見えますから、メイベルさんとどういった繋がりなのかと気にはしていたんですが……」
「あたしみたいなのと一緒にいるのは変だって? 言ってくれるじゃないか……と、冗談はさておいて。もうちょっと詳しく聞かせてもらえる?」
「事件が起きてるのはこの街区のあたりですね。狙われた人物の共通点はさっきも言ったとおりですが、若い女性であること。それと、武術の心得があるってことですね」
男よりも女性の血の方が好みだということか――そういう例は前にも見たので、吸血鬼という種族自体がそういう嗜好なのかもしれない。




