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庶民特待生となった僕は、名門学園に通う美少女達から愛されまくる!  作者: 寝坊助
第3章 うずまく陰謀! 拓夢出生の秘密!
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⑥逆白雪姫

 午前六時。

 拓夢はベッドの上で寝返りを打った。ちなみにベッドは有名ブランドにオーダーした、超フカフカな高級レザー・ベッドである。


「うう~ん」


 揺りかごに揺られるような安心感のある眠りにつく拓夢は、心地のいい呻き声を上げる。

 ――拓夢がこれほど熟睡しているのには、理由がある。

 それは、昨日夜遅くまで庶民同会による、聖薇の歓迎パーティが続いていたからだ。騒ぎ疲れたことと、聖薇と完璧に仲直り出来たことの安堵感から、どうしても気が緩んでしまうのだ。


「今日は……学校行かないでずっと寝ていたい……」


 庶民特待生として、あるまじき寝言をつぶやく拓夢。

 しかし、そんなことはお構いなしとばかりに、天然羽毛の掛け布団を頭からかぶる。

 意識は半覚醒といったところだが、起きる気は皆無だ。今はただ、この甘美な睡眠を(むさぼ)っていたかった。


 しかしそんな拓夢の願いも空しく、コンコン、とドアをノックする音がして、


「……拓夢様? 朝ですよー。起きてくださーい」


 返事もしていないのにドアを開けて入ってきたのは、メイドのノエルであった。


「あと……五分、から三時間……」


「何くだらないボケかましてるんですか。朝眠たいのはみんな一緒です。ですが、そんな中でも厳しく己を律する精神力こそが、社会人として一番必要なスキルなんですよ?」


「むにゃむにゃ……。もう、食べられないよ……」


 なおも寝ぼける拓夢に対し、ノエルは「まったく、もうっ!」と頬を膨らませたあと、「……しょうがないんだから……」と、頬を赤らめながら微笑んだ。


「起きないってことは、何されても文句言えないってことですからね? つまり、襲われても仕方ないんですよ?」


 そう言いつつ、ノエルは拓夢が眠るベッドの、すぐ真横に立った。


「つまり……この艶っぽい唇にキスされても、文句は言えないってことですからね~?」


 ノエルは布団をはぎ取ると、自身の唇を拓夢の唇に近づけて、


「ああ……もう、我慢できない! まるで、毒リンゴによって眠らされた王子様……。今私の口づけによって、起こしてあげますからね~!」


「うわぁ!? やめて、ノエル! ――あと、毒リンゴで眠らされたのは白雪姫の方だよ!!」


 危険を感じた拓夢は、(まぶた)をパッチリ開けて、勢いよくベッドから飛び起きた。

〝女性アレルギー〟を持つ拓夢にとっては、完全に意識を失ってる時ならともかく、半覚醒の時に女生徒の接触は苦痛なのである。


「いやん。ノエルがキスしようとしたら飛び起きるだなんて、ひどいです~」


 拓夢のツッコミを無視したノエルは、首をフリフリと振りながら抗議した。


「目覚めのキスだけではありません! 朝の送り迎え、学校終わり、お風呂上り、そして、お休みのキスと! 私達は夫婦なんですから、いついかなる時も体を触れ合わせ、心を通わせなければならないのです!」


 左手を腰に置き、右手の人差し指でビシッと指差すノエルに対して、拓夢は深くため息をついた。


(ほんと、キャラクター変わったよなぁ……。ていうか、夫婦じゃないし)


 本人いわく、幼い頃から特殊訓練を受けさせられ、本来は冷静な性格なのだが、拓夢が関係すると途端に暴走してしまうらしいが。


「……と、まあ。朝の夫婦漫才はこれくらいにしておいて」


 コホン、と咳払いするノエルにつられて、拓夢も何となく佇まいを直す。すると、ノエルは今までの悪ノリが嘘だったかのように、クールな表情に戻って、


「私は今から、理事長室内に潜入して、夢子様の秘密を暴きにいきます」


 と、発言した。拓夢の生い立ち、テンプテーション・スメルについて。全ての秘密を握っているのは夢子であり、その夢子の身辺を秘密裏に調査すること。これは拓夢から依頼したことなのだが。


「……もう、やるんだね」


 拓夢は、複雑な表情を浮かべた。


 夢子は、自分を息子のようだと言ってくれた。

 正直、嬉しくてたまらなかった。

 拓夢は自分が義両親に捨てられたと知った時、絶望していた。しかし、そんな自分を夢子は好待遇で、この学園に迎えてくれたのだ。同時に、夢子には強い疑いも持ってはいるが。


「急な話ですみません。ですが、拓夢様と私の繋がりを、夢子様は知っておられます。あとは、和解したことに気づかれる前に、なるべく早く事を起こさないといけないのです。用心深い夢子様のことですから、私が拓夢様についたと知ったら、もはや秘密を暴くチャンスはなくなるでしょう」


 深々と、ノエルは頭を下げる。


「どうしてノエルが謝るの? 無茶なことを頼んでるのはこっちなのに」


「そうやって『無茶なことを頼まないといけない』状態にまで追い込んだこと。それは、全てこちらの責任だと思っております」


 ノエルは胸元に手を置きながら、唇の端をギュッと結んだ。


「聖薇さんにも言われましたが……。私が拓夢様を拉致(らち)して、無理やりこの学園に連れてきたことが、全ての始まりです」


「ああ、まあ。でも、あれは……その、仕方ないというか、何と言うか」


 拓夢は曖昧(あいまい)にノエルを庇おうとした。


 幼い頃に両親を亡くした拓夢は、義理の親に引き取られ、さらにはその親から酷い虐待を受けていたのだった。


 それにくわえて、本当は拓夢のことが大好きなくせに、思春期特有の反抗期を爆発させる義妹の聖薇も、悩みの種の一つだった。結局拓夢は、城岡家にいる時は気が休まるひと時はまるでなかったと言っていい。


 そんな折、拓夢を誘拐してこの学園まで連れてきたのがノエルであった。呆然とする拓夢に対して事実・証拠を見せつけ、義両親からの絶縁を伝えたのだ。


 あのときほど、今の自分に絶望感を感じたことはなかった。さらには理事長である夢子と出会い、学費や生活費などを工面してもらえることも分かった。確かにあまり褒められたやり方とは言えないが、虐待されていた拓夢にとっては、城岡家から救い出されたし、四天使や学園の生徒達と知り合いになれたのだ。そのことについては感謝している。


「まあ、そんなわけで。それとなく責任を感じている私は理事長の身辺調査に行ってきますから。早く拓夢様は私に『行ってらっしゃいのチュー』をしてください」


 ノエルが真剣な表情で言う。


「う、うん」と返事をしかけて、拓夢は首を傾げた。


「い、今何て言った? 行ってらっしゃいのチュー?」


 目を閉じて唇を突き出していたノエルは、不満そうに目を開ける。


「もう、みなまで言わせないでくださいよ。メイドを送り出す前にキスをすることは、主人としてのたしなみでしょ?」


「どこのたしなみだよ!!」


 新婚ほやほやのバカップルがやるようなことを、思春期の男子高校生にやれというのは、流石に無理がある。


「いいからいいから。据え膳食わねば、って言うじゃないですか」


「よくないよ! 女性アレルギーがあるって言ってんでしょうが! 据え膳どころか毒皿だよ!」


 頬を赤らめながらおねだりしてくるノエルを、懸命に跳ねのける拓夢。そんな押し問答を三十分ほど続けた挙句、ようやくノエルは部屋の外へと移動していったのだった……。

 

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