④宴だァーーーー!!
「それでは、校外部員である城岡聖薇さんの所属を祝って……かんぱーい!」
放課後。庶民同好会の部室として使っているサロンの中にて、拓夢はグラスを掲げ乾杯の音頭を取った。
庶民同好会とは、由緒正しき財閥の令嬢、大企業の社長の娘、大物政治家の息女といった、経済的に優れていて、かつ学園の人気の大半を集める通称〝四天使〟が所属するサークルである。
その庶民同好会のメンバーが一堂に会し、卓の上に豪華な料理を用意し、グラスを傾け合っているのには、テーブルの中央にいる少女に原因がある。
城岡聖薇。絹糸のようにきめ細かい金色のロングヘアーをツインテールに結んだ少女は、年端もいかない少女のわりには大人びた容姿をしている。引き締まった小顔と、切れ長の鋭い瞳も、その要因かもしれない。
そんなアイドルにいてもおかしくない聖薇であったが、以前拓夢が住んでいて、そして追い出された家「城岡家」の長女なのである。血の繋がっていない妹である聖薇は、反抗期から拓夢に対し冷たい態度ばかり取ってはいたが、今では反省し、性格は軟化し素直になっている。
もっとも、素直になり過ぎて困っている部分もあるのだが……。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん」
そんなことを考えていると、聖薇に脇腹をつんつん、と突かれる。
「え、な、なに……?」
地味に女性アレルギーが発動しているが、我慢できないほどではないので、何とか質問を返す。
「聖薇のことは、もっとちゃんと紹介しないとダメだよお兄ちゃん!」
「え……? 他に紹介すること、あったっけ……?」
拓夢は、義理の妹を驚愕の目で見ながら言った。
なぜ驚愕したのかというと、以前聖薇は、拓夢のことを「キモいキモい」と言って常にバカにしていたのだ。それが例の一件以来、拓夢のことを「お兄ちゃんお兄ちゃん」と言ってすり寄り、甘えるようになっているのだ。
もちろん、義理とはいえ妹なので可愛くはあるのだが、拓夢としてはちょっと気になるところでもあって……。
「そうだよ! 聖薇はただの妹じゃなくて、『最愛の』妹なんだからね! あと、『未来のお嫁さん』もつけなきゃダメだよ!」
「そ、そんな恥ずかしいこと出来ないよ。それに、僕は庶民特待生なんだから。在学中は、異性との恋愛は禁止されてるんだけど」
「いーのいーのそんなこと! どうせ卒業したら、聖薇と結婚するんだから!」
ぐいぐいと顔を近づけて、ラブラブビームを発射する聖薇。
あまりの近さに、拓夢は顔を背けながら、
「……その。聖薇、近いよ。顔が……」
「何よ。いいじゃない。兄妹なんだから!」
ニコッと満面の笑顔で笑う。しかめっ面しか見たことのない拓夢にとっては、新鮮な顔だった。
そして、思う。無表情でも可愛いが、笑った方がもっともっと美少女なのだ。
長い間の溝を埋めるように。そして自らの想いを伝えるために。
「「「「「…………」」」」」
必然的に、庶民同好会のメンバーとの対決は避けられない。
メンバーの大半が拓夢に好意を伝えているのだ。全面戦争は必至。
妹に懐かれるのは嬉しくても、それで争いが起こることには複雑な気分の拓夢であった。




