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庶民特待生となった僕は、名門学園に通う美少女達から愛されまくる!  作者: 寝坊助
第2章 築かれるハーレム! 拓夢様はわたくしのモノですわ!
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《エピローグ》鮮血! 遠き日の思い出!

 そして、場面は変わり理事長室。

 城岡家に連絡を入れた後、デスクで一息つく夢子がいた。

 その顔は暗く深刻そうだった。

 今日だけで不法侵入者の対応と庶民特待生の脱走未遂という慌ただしい一日を処理したのだから、当然といえば当然だが。


 チラリと夢子は、テーブルの上に置かれた写真立てに目をやった。


「志拓さん……今日はちょっとだけ疲れたわ……」


 役員用のリフティングテーブルの真ん中を独占する写真立てに映っていたのは、一人の男性であった。

 年齢は三十代ほど。逆立てた黒髪を短く刈り上げ、その大きな瞳からは、強い意志と暖かな優しさを感じさせた。


 写真の人物を見る夢子の顔は、いつもの表情とはまた違って見えた。

 強く凛々しい『女性』というより、温和で心優しい『母親』といった感じだ。


「拓夢君ね、大分成長していたわよ。女性アレルギーがあるにもかかわらず聖薇ちゃんを抱きしめて、そばにいてあげるからって……」


 墓前に報告する親族のように、夢子は目を細めながら、今日あった出来事を回想していく。


「そしたら、ノエルってばヤキモチ妬いちゃってね。もう、大変だったわ。あの子もいい加減素直になればいいのに」


 昔を懐かしむように、夢子は静かに微笑みながら写真をそっと撫でた。

 そこに映っている男性がいる部屋は、会社のオフィスのようなところであり、サインプレートには『社長室』と書かれていた。

 テーブル横にサイドボードには『雙葉物産株式会社』と書かれている。


「――理事長。いらっしゃいますでしょうか?」


 ノックの音が三回聞こえる。当直で残っているメイドだろう。今日は庶民特待生☆スペシャルトークショーの跡片付けや、聖薇の処遇に関してなどで、人手が足りず残業してもらっていたのだった。


 そのことを思い出した夢子が「どうぞ」と返事しようとした時だった。


「……ごほっ!? げほっ! げほがほ!!」


「り、理事長!? どうなさったんですか、理事長!」


 突然の激しい咳に、心配になりながらドンドンとドアを叩くメイド。

 その音を聞きながら、夢子は机の上から崩れ落ちた。

 その瞬間、写真立ても一緒に地面へと落ちた。フレームが割れ、奥に隠しておいたもう一枚の写真が現れる。


 幼い赤ん坊を抱いた、若い女性の姿が映っていた。


「あ……」


 赤ん坊は、生まれて間もない頃だろう。

 モチモチの肌、艶々した黒髪、大きく優しげな目元。何もかもが、先ほどの男性の写真とよく似ていた。


「う……うう……!」


 瞬間、夢子は汚れた口元を手の甲で拭うと、写真立てを机の引き出しに隠し、代わりにワイングラスと適当な付け合わせをテーブルの上に置き、最後に倒れた椅子を元に戻した。


 その時だった。


「理事長、失礼いたします! ……って、あれ? 何してらっしゃるんですか?」


 入ってきたのは、先月入ってきたばかりの新人メイドだった。咳の音を聞いて飛んできたのに、当の夢子は優雅に椅子に座っているではないか。


 夢子は、イタズラっぽく舌をペロッと出しながら言った。


「いやあ~ごめんなさいね☆ お酒の(さかな)に食べてたピーナッツが喉に引っかかっちゃって。それで咳してたの。あ~苦しかったわ~」


「は……? そ、そんなことだったんですか……」


 新米メイドは安堵すると、心配して損したばかりに肩を落とした。夢子はそんな様子をニコニコと眺める。


「そ。そんなこと。遅いからあなたはもう休みなさい。私は何も問題ない……か……ら」


 夢子の言葉尻には、不自然な間があった。表情も、優雅な微笑みから苦痛の表情へと変わっている。


「り、理事長……?」


 新人メイドの呼びかけられた夢子は、慌てて両手をヒラヒラと振る。


「……なーんか、さっきのピーナッツがまだ口の中に残ってたみたい。やぁ~ね~。もう歳かしら? 固いものが噛めなくなって困るのよね~♪」


「色々お疲れでしょうから、お酒でも飲みたくなるのは分かりますけど。程々にしてくださいね? 理事長が倒れられたら、私達はどうすればいいのか……」


「はぁ~い♪ じゃあ、お休みなさいね~」


 夢子は半ば強引に、両手を振ったままメイドを部屋の外へと追い出した。

 

「ふぅ……」


 一人になった室内で、夢子はおどけて振っていた手を下ろした。


 その手の甲には、血がベットリと(・・・・・・・)付着していた。

 おびただしいまでの自身の血液を見つめながら、夢子は真剣な表情で呟くのであった。


「まだよ……。まだ、私は死ぬわけにはいかないの……。『あの子』の成長を見届けるまでは……」

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