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庶民特待生となった僕は、名門学園に通う美少女達から愛されまくる!  作者: 寝坊助
第2章 築かれるハーレム! 拓夢様はわたくしのモノですわ!
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㊽ごめんね素直じゃなくて

「私の家は、とある名家に代々仕える家柄だったんです」


 しばらくして落ち着いたノエルが、床に座り直しながら言った。


「昔でいう、貴族に仕える御家人のようなものです。とある一族の当主に奉仕する為、幼少の頃より私は炊事、家事、勉強、戦闘訓練……。ありとあらゆる教育を施されました」


 ノエルはゆっくりと、拓夢が理解しやすいように話しかけた。


「だから私はあの時、家出して公園にいたんです。同学年の子たちは、みんなで楽しく遊んだり自由に過ごしたりしている。それなのに、どうして私だけが会ったこともない人のために、毎日苦しい思いをしなければならないのか? そう思ったんです」


 もちろん、幼い子供が公園にやってきたとて、何が出来ると言われればそれまでの話だが。ノエルは求めたのだ。自分の知らない風景、知らない暖かさを。


 そして、知らない感情を。


「そこで僕に出会ったんだね?」


 ノエルは頬を赤く染めながら「はい」と頷いた。


「…………………………は、初恋だったんです」


 聞こえるか聞こえないか、ギリギリの声でノエルは言った。


「でもノエルはさ、僕に対してイジワルだったじゃない? 朝の起こし方とか乱暴だったし。どうしてあんな態度を取ってたの?」


 当然の疑問を拓夢は尋ねる。

 すると、


「――だって! 拓夢様は、私のこと全然覚えてなかったんですもの!」


 ポケットからハンカチを取り出しながら、涙が煌めく目元を拭うと、ノエルは答えた。

 その答えは、拓夢にとって意外なものだった。


「えっと……じゃあ言えばよかったんじゃない? 『昔公園で出会ってました!』って」


 もちろん、ノエルのことを忘れていた自分が悪いと分かった上で。しかしノエルがわずかでもヒントを与えてくれれば、こちらだってすぐに思い出せた。そう思っての発言だったのだが。


 しかしノエルは、悲しそうに首を振った。


「――それは、できません」


「ど……どうして?」


「今だから言いますけど……私、拓夢様に仕えるために、幼少より厳しい訓練を積んできたんです。それこそ、血のにじむような努力を重ねてきたんです。同学年の子達との青春や、恋愛も犠牲にして。それなのに拓夢様は、私のことなんて忘れてしまっていた」


 ――と。

 ノエルは体を震わせながら独白した。


「私は、あなたとの思い出だけを頼りにここまでやってきたのに、あなたは私のことを思い出せずにいるなんて……そう考えると、とても腹が立ちました。こうなったら、意地でも私から言い出さない。あなたが思い出してくれるまで、イジワルしちゃえと……それが、ついエスカレートしてしまって……」


 とうとうと話すノエルを、拓夢は唖然(あぜん)としながら眺めていた。

 ノエルのいう「物心つく前」というのが何年前なのかはわからないが、相当過酷な幼少期を過ごしてきたことだけは間違いない。


 難解な問題に励み、料理の上達のために指を切ったり、手に豆が出来るまで木刀を素振りしたり……ノエルが自分のために頑張る姿が、目に浮かんだ。


「あ、あの……どうして黙ってるんです? もしかして、私のこと嫌いになりました? もしそうだとしたら、本当に心中するんですけ……ど」


 ノエルは驚愕の表情で拓夢を見上げていた。

 なぜならば……

 拓夢が勢いよく、ノエルに抱きついたからだ。

 ――ノエルからすれば、予想もしなかった行動。飛びつかれた拓夢に、息苦しいほど強く抱きしめられる。


「はにゃわああああああああああああ~~!?」


 あまりの意外さに、ノエルは情けない悲鳴を上げてしまう。


「ゴメン! ノエル!!」


 しかし拓夢は、対照的に涙をボロボロと落としながらノエルに謝罪した。


「えぇ!? な、なにがですか!!」


 驚きながら聞き返すノエル。

 ふと見ると、拓夢は汗をにじませているし、体はブルブルと震えている。女性アレルギーが発症しているのに、無理して自分を抱きしめているのだ。


「た、拓夢様!? あ、あの……む、無理しないで……ああ、いや! 私は未来永劫このままでもいいんですけど……女性アレルギーが……」


 ノエルが支離滅裂(しりめつれつ)なことをのたまっていると。


「ぼ、僕……自分のことしか考えてなかった。ノエルと出会ったあの時、ちょうどあの辺りから、虐待にあうようになったんだ。聖薇からはキモいと言われて……。僕のことなんて、誰も必要としていないんだって、そう思ってた。でも、ちがったんだ……」


 拓夢は泣いてるような笑っているような、曖昧(あいまい)に表情をゆがめていた。

 再会したノエルは確かにキツい性格ではあったが、同時に優しくもあった。

 ノエルは気づいてほしかったのだ。自分に……なのに、自分はそのシグナルに気づきもしないで。


 ……いや、そんなことよりもまず。


「ノエル―――――――っ!!」


 鳥肌が立つのにも構わず、拓夢はノエルを抱きしめた。

 体を襲うアレルギーよりも、十三年前の少女と再会できた喜び。気づいてあげられなかった謝罪。とにかく、両方の意味を込めて。


「きゃ! た、拓夢様!」


「ノエル、ごめんね! でもまた会えて、本当によかった!!」


「拓夢様……」


 ノエルはぎゅうぎゅうと自分を抱きしめてくる拓夢に驚いていたが、


「……もう。ほんとにおバカさんなんだから……」


 ――と、涙ながらに優しい笑みを浮かべた。

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