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庶民特待生となった僕は、名門学園に通う美少女達から愛されまくる!  作者: 寝坊助
第2章 築かれるハーレム! 拓夢様はわたくしのモノですわ!
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㊶このクズめ

 聖薇が目を覚ました時、目に映ったのは高い天井だった。

 白い壁の周りで消毒液の匂いがすることから、ここはどうやら病院らしい。


(そうか。あたしドジっちゃって。あの女に捕まっちゃったんだ……)


 早く起き上がろう。起き上がって、お兄ちゃんを助けに行こう。

 そう思って、寝返りを打った時だった。

 自分の顔を覗き込む人物がいた。


「あら、目が覚めたのね、聖薇ちゃん!」


 そこにいたのは、優雅な深紅の髪を垂らした、大人の女性だった。


「えっ?」


「二人ともーっ、聖薇ちゃん、気がついたわよー?」


 と、女性の呼びかけに反応して、拓夢とノエルが室内に入ってきた。

 

「お兄ちゃん……」


「聖薇さん……」


「感動の再会のところゴメンね。まずは私の自己紹介をさせてもらえるかしら?」


 夢子はそう言うと、聖薇の隣のサイドチェアに腰を下ろした。


「聖ジュリアンヌ女学院理事長の、神薙夢子よ。拓夢君を庶民特待生として、城岡家から引き取ったのも、私」


「……!」


 夢子がそう発言すると、聖薇は目を見開きながら、彼女のことを睨みつけた。


「大体の話はノエルから聞かせてもらったわ。聖薇ちゃん、どうしても拓夢君を連れ戻したいみたいね?」


 対して夢子は、穏やかな表情のまま、冷静に話しかけた。非常事態だというのに全く動じていないのは、大人としての余裕を感じさせる。


「だってお兄ちゃんは……あたしのお兄ちゃんだから。だから、勝手に取られても困るし」


 その言葉に、拓夢とノエルは顔を見合わせた。

 聖薇は今日、中学校を休んでいる。学校をサボッてノエルの後を尾行してまで、拓夢を連れ戻そうとしたのだ。


「その気持ちは分かるけどね。でも、拓夢君は今後一切城岡家とは関わらせない。そういう条件で、拓夢君を引き取ることにしたのよ?」

 

 穏当(おんとう)に、夢子は事実を端的(たんてき)に告げた。


「お兄ちゃんを返して」


 対して聖薇は、射すくめるような鋭い視線を送りながら答えた。

 しかし、聡明な美女は、その怒気を軽く受け流す。


「だから、それは無理だって言ってるじゃない。虐待するような親には、特にね。ご両親はお金で納得してくれたし、聖薇ちゃんも諦めてくれない?」


「……もう、お兄ちゃんとは会えないって言うの?」


「拓夢君と元親との交流を断つ権利は、私にはないわ。でも、ここは名家のお嬢様が通う学園で、部外者の立ち入りは固く禁止しているの。そして、その敷地権を持っているのは私。言いたいことは分かるわね?」


「……わかんないわよ」


 聖薇は、憎悪の炎を燃えたぎらせた視線を送った。


「もう、お兄ちゃんの顔を見れないっていうの? 一緒にご飯食べたり、たわいのない話したりすることも出来ないってこと? 家族なのに? そんなのおかしいじゃん!!」


「だから、それが拓夢君の為になるって思ったのよ。あなた達の所にこれ以上住まわせたら、拓夢君は衰弱死してしまうわ」


 涼しい顔で言い放つ夢子に、聖薇も堪忍袋の緒が切れたようだ。


「も、問題にしてやる! あんた達のやったこと、SNSで呟いて拡散してやるんだから!」


 その言葉に、拓夢は目を見開いた。

 確かに、今日びのSNSの影響力は尋常ではない。名門学園の理事長が男の子を引き取り、女の子しかいない学園の特待生に任命する……これは大きなスキャンダルになりかねない。


 しかし夢子は眉一つ動かさず、聖薇の言葉に正論で返した。


「どうぞ。好きにしていいわよ?」


「は?」


「だって」


 夢子は流麗な所作で髪をかきわけながら言い放った。


「私にはメディアサービス会社や、政府にも関係者がいるわ。検索エンジンサイトやSNSはもちろん、ウェブ検索全てを操作することが可能なのよ。あなたが使ってるソーシャルメディアのアカウントを、全て永久凍結することも出来るわ」


「な、な……」


 聖薇の顔が、みるみるうちに赤くなっていく。


「ふ、ふざけんじゃないわよ、この誘拐犯!」


 夢子の言葉は、どうやら聖薇の逆鱗(げきりん)に触れたらしい。


「やっぱり、アンタのこと信用できない! 何だかんだ言って、結局金の力で思い通りにすることしか考えてないんじゃない! 庶民特待生っていうのだって、断り切れないお兄ちゃんの性格を利用して、無理やりやらせたんでしょ! いいからお兄ちゃんを返せっ!!」


 もはや理論も理屈もあったものではない、癇癪(かんしゃく)に近い遠吠えだったが、聖薇は叫び続けた。


「あんたには分かんないんでしょうね! お兄ちゃんは、本当の両親がなくなってから、ずっと独りぼっちでウチに来たの! 明るくて、優しくて、ちょっぴり不器用で……でも凄く頑張り屋さんで、お兄ちゃんがいなくなってから、あたしん家はすっかり暗くなっちゃったのよ! ぜんぶ、ぜんぶあんたのせいだ!」


 瞳に涙を溜めながら、一気に聖薇はまくし立てた。

 拓夢は、一歩も動けずにその光景を見ていた。

 聖薇の隠していた気持ちが、ようやく分かった気がする。

 聖薇は自分のことを、ずっと思っていてくれたのだ。

 それなのに自分は……。


 そう、自分のことしか考えていなかった。


 家族の食事の用意や掃除の世話をするのが嫌だ。

 妹から「キモい」と悪口を言われるのが嫌だ。

 お金のこと、朝のゴミ出しのこと、数え上げたらきりがない。

 名門校に特待生として入学できることに目がくらんでる間に、あの子は自分のことを懸命に探し続けていたのだ。


 忘れていた。大人びているし生意気ではあるが、聖薇は普通の中学生なのだ。そんな普通の女の子が家族の失踪を経験したら、どんな気持ちになるのか。もっと、自分がよく考えてあげていればよかった。


 拓夢が絶句している間にも、聖薇は声を荒げていた。


「あんたが、あんた達が全部悪いんだ! いいから、お兄ちゃんを早く返せ!」


 その叫び声は、拓夢の胸に突き刺さった。

 聖薇の元に……駆け寄らなければと。

 しかし拓夢が一歩踏み出そうとする前に、ノエルが割り込んできた。

 彼女は拓夢の視線を背中で遮ると、聖薇の元に歩み寄った。

 そして、言った。


「この……クズめ」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です! [一言] >「あんたには分かんないんでしょうね! お兄ちゃんは、本当の両親がなくなってから、ずっと独りぼっちでウチに来たの! 明るくて、優しくて、ちょっぴり不器用で………
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