㊱拓夢、一着選ぶ。くるみ、赤い顔
「着替えてきたよ……くるみちゃん、どうかな?」
三度目の着替えを終えて、拓夢は試着室から出てきた。
拓夢が選んだのは、白のワイシャツとスキニーパンツという、シンプルな服装だ。
似合ってはいるが、上に一枚も羽織っていないし装飾品を何もつけてないので、少し物足りないと感じて。
くるみは口を開いた。
「……えーっと。ほんとにそれでいいんですか? もっと高いのでもいいんですよ? ジャケットとかバッグとか時計とか。今日は沢山頑張ってもらっちゃったですから」
足元に置かれた紙袋の山を見つめながら、申し訳なさそうにくるみは言う。
「……それとも。くるみがワガママばっかり言うから、怒っちゃったですか?」
「はは、ちがうよ。一目見て、僕はこれがいいって思ったんだよ」
拓夢は頬を指でかきながら、照れくさそうに言った。
「どうしてですか? 他にもカッコいい服、沢山あったのに」
くるみは、拓夢の顔を覗き込みながら言った。
「どうして……そんな安物の服を選ぶですか?」
「うーん……安物って言えば安物だけど。こっちの方が動きやすいし。それに、何かあった時にくるみちゃんのことを助けやすいじゃない?」
「ふえ?」
「だって」
拓夢が考えていたことはこういうことだった。今日くるみから「助けて!」とかかってきた電話が、もしも本当のことだとしたら? くるみも一応はお嬢様なので、誘拐される危険性もなくはない。いざという時にブランド物の服で身を固めていては、俊敏な動きが出来ないだろう。それに、デートを楽しむなら動きやすい軽装の方が自分に合っていると思ったのだ。
「つまり……」
「くるみのため……ってことですか?」
頬を赤く染めながらくるみが尋ねてきたので、拓夢は、
「うん、そうだよ。だって、くるみちゃんはこんなに可愛いんだもん。心配にもなるよ」
「ふ、ふえええ…………」
そう言うと、赤い顔がさらに真っ赤になり、ついには酸欠になったのか、口をパクパクとさせ始めた。
「あ、あの……くるみちゃん?」
心配して拓夢が声をかけるとくるみは、
「今日……ほんとのデートだったらよかったのに」
「え?」
拓夢はボソボソと呟くくるみの声が聞き取れず、もう一度尋ね返す。
「くるみちゃん、今なんて言ったの?」
「な、なんでもないです! そろそろ会計して出ましょう!」
照れくささをかき消すように大きな声で叫ぶと、くるみは赤い顔を隠すようにレジへと向かうのであった。




