㉟失敗しないデートの服選び
「くるみちゃん、お待たせ」
そう言って拓夢は試着室から出てきた。黒のショートジャケットにグレーのチノパン、下は白のスニーカーというカジュアルな出で立ちだ。くるみは無言で拓夢を上から下まで見回すと、ゆっくりと顔を上げた。
「……似合ってるです……!」
「ど、どうもっ」
気まずそうに拓夢は礼を言った。といっても、悔しそうに眉を潜めながら礼を言われても、微妙な気持ちになるが。
そんなことを考えていると、くるみは肩をいからせながら、
「ほら、次のコーデも見るですから、早く着替えてくるです!」
「あ、うん……」
と急かされ、拓夢はまた試着室へと消えていった。
そのまま着替えること数分……
「こ、今度はどうかな?」
続けて着て来たのは、七分丈のテーラージャケットに黒のパンツ、下は革靴という、大人めなファッションであった。
「むぅ……拓夢先輩、何来ても似合うです」
またもや悔しそうに、くるみは口をすぼめながら言った。
「あの、だったらそんな怒った顔しなくてもいいんじゃ……」
「なにを言ってるんですか! くるみだけ大人コーデが似合わないのに拓夢先輩だけ何着ても似合うだなんて、悔しいに決まってるじゃないですかぁ!」
くるみはぷくーっと頬を膨らませた。
そもそも、駅前のショッピングモールまでわざわざ来たのは、くるみをお嬢様っぽく見せるためだ。エレガントファッションが似合わないことに苦しむその気持ちは、理解できないでもないが。
拓夢としては、何か間違えてる気がしてならない。
それでもこうして付き合ってあげているのは、お願いされて断れなかったというのもあるが、くるみにとって大事なことだと分かったからだ。趣味嗜好はそれぞれだし、どうしても似合わなかったとしても、くるみが満足するならそれでいいと思ったのだ。
……といっても、くるみは到底満足しそうにないが。
拓夢が危惧した通り、くるみはつまらなそうに休憩用のソファに腰を下ろした。
「もう、いいです。拓夢先輩がイケメンなのは重々分かったですから。何か気に入った服を一着選んでください。買ってあげるです」
「え、いいよ。そんなの悪いし」
「ダメですぅ!」
くるみはガバッと立ち上がると、甲高い声で叫んだ。
そのボリュームの大きさに、拓夢は思わず面食らう。
「べ、別に大声出さなくても……」
「拓夢先輩は、女心を何も分かってないですねぇ。女の子が男の子にプレゼントしたいって言ってるですよ? そこに、お礼以上の気持ちが込められてるって思わないですか? まったく、いくらイケメンでも、そんなに鈍感だったら女の子にモテないですよう」
「は、はあ……」
なぜか説教をされ、拓夢は肩を落とすのであった。
別に不要だからいらないと言ったのではなく、金銭的な意味で遠慮しただけなのだが……。
「とにかく、何か好きなものを選んできてください! くるみはここで待ってるですから!」
最後にそう念を押すと、くるみはソファに座り直した。
取り残されてしまった拓夢は、せっかくなのでフロアの中を見学することにする。
「お客様ー? 何かお探しでしょうかー?」
「え……」
「よろしければ、コーディネートをお手伝いいたしましょうか?」
「い、いえいいです! お構いなく!」
綺麗な女性スタッフからの接客を必死にかわす中で。
「あれ……? これは」
ある一着の服が、拓夢の目に留まったのだった。




