㉞試着室のエキサイト
そんなこんなで、くるみの最初のコーデを見せてもらうことにした。
マーメイドラインスカートと、上はカジュアルなスウェットとという、まさにくるみの希望どおりの大人なコーデだ。しかし、小柄なくるみに丈の長いスカートは合っていないし、ゆるめのスウェットはだぶついててお下がりのような印象を受ける。
「うーん……正直言うけど、あんまり似合ってないね」
大人の女性というより、小学生が背伸びして大人を演じてるようにしか見えない。ちょっとした七五三みたいだ。
「な、な、なんですってえ!」
異性から似合ってない、と切り捨てられた乙女は、悲鳴に近い叫び声を上げた。
「く、くるみのどこが似合ってないっていうんですか!」
「いや、どこが問題というか……」
「分かりました! じゃあ次のコーデ、いくです!」
問題点を指摘しようとした拓夢を遮って、くるみはフィッティングルームへと姿を消した。シュルシュルという大きな衣擦れの音が乱雑に聞こえてくるので、相当怒っていることがうかがえる。
「お待たせしました!」
カーテンがシャーッと開けられると、黒い物体が顔を出した。
次のコーデは、フリルのついたワンピースだった。シンプルなデザインではあるが、高級な素材を使っているからか、上品な雰囲気を醸し出している。
しかし綺麗目のファッションはくるみには合わない気がするし、全身ブラックという色合いも微妙だ。
「うーん……これもちょっと……「なんでですか!」」
今度は最後まで言い切ることすら許されず、くるみに割って入られた。
「ていうか拓夢先輩、さっきから似合わない似合わないって、レディーに向かって失礼ですよ? それなら、どんなコーデなら似合うっていうんですか!」
「それは……」
正直、拓夢もオシャレ通なわけではないので、どんなコーデなら似合うかと聞かれても、答えに窮してしまう。
なので、素直に思ったことを口にしてみることに、
「そうだね。プリーツのついたスカートとか、フリルのついたジャケットとか、花柄のホットパンツとか。そういうのが似合うと思うよ」
「くるみは小学生ですか!!」
くるみはぷくーっと可愛らしい形相でにらみつけてくる。
正直に思ったことを言っただけなのに……拓夢の頭は混乱していた。
「拓夢先輩、拓夢先輩!」
「あ、うん。なに……?」
混乱してボーッとしている拓夢に痺れを切らしたように、くるみが詰め寄る。
「そんなに言うなら、拓夢先輩も試着してみてくださいよ! くるみだけ笑われるのは、腹が立つですう!」
「う、うん……別にいいけど。ていうか、笑ってないんだけどね?」
真剣にジャッジしたつもりではあるのだが、どうやらくるみには分かってもらえなかったようだ。それどころか、拓夢が小馬鹿にしたと思ったのだろう。
拓夢がそんなことを考えていると、くるみはニッコリ笑って、
「何着でも持ってきていいですよ。記念に一着買ってあげるです♪」
「……あ、ありがとう。ていうか、コーデは僕が選ぶの?」
「もちろんですよう。くるみを笑った罰ですう♪」
ニッコリと、アイドル顔負けの笑顔を振りまくくるみ。
これは逃げられなさそうだ……。
計画に協力しているのは自分なのに、どうしてこうも主導権を握られているのか? 釈然としない思いを抱えつつも、拓夢は数点の洋服を抱えたまま試着室へと入るのであった。




