㉓起きる拓夢とノエルの報告
ズキズキと痛む頭のノイズが取れない。
昨日は真莉亜と乗馬対決をして、馴れない障害物をフローレンスと共にいくつも飛び越えたのだ。足腰もふくらはぎも、腰も。とにかく下半身全てに疲労が溜まっていた。
「いたた……」
自室としてあてがわれてる客室のベッドの上で、寝返りを打つ。今日は体育系の授業はないので、筋肉痛でも授業自体に支障はないはずだ。
後は時間ギリギリまで眠って、体力の回復を待つばかりなのだが。
「真莉亜さん……」
昨日の、真莉亜の情熱的な告白を思い出す。
とにかく色々なことがありすぎてビックリしているのだが、真莉亜に嫌われていたわけではなく、むしろ愛されていたと分かったことは、素直に嬉しい。
そんなことをぼーっと考えていたら、ドアが開く音が聞こえた。
「拓夢様、起きてますか?」
「……えっ?」
涼しげな女の子の声に、拓夢は慌てて身を起こした。
「今日は起きていましたね。感心なことです。まあ、小学生レベルの話ですが」
蔑むような言い方がする方向に首を向ける。ノエルが、銀色のポニーテールをわずかに揺らしながら、拓夢のことをあざ笑っていた。
「それでは、要件をお伝えします。この間理事長が話されていた、トークショーの件。日程が決まりましたので、ご報告に上がりました」
「トーク、ショー?」
寝ぼけ頭で、拓夢は言葉を反芻した。
すると、ノエルは「ハアッ……」とため息をついて、
「マジですか? 昨日の話じゃないですか。どれだけ貴方はトリ頭なんですか?」
「……す、すみません。あの、全生徒を対象にした、大掛かりな自己紹介みたいなヤツですよね! もちろん、覚えてますよ!」
「それはよかったです。よかったついでに、あさってですから。拓夢様の為に講堂を貸し切りにして行うそうです。よかったですね」
「……へ?」
「日程は一週間。放課後一時間程度使って行われます。本番前に、控室で軽いミーティングが行われますので、時間には遅れないように。これ、当日の日程表と進行本です。頭に叩き込んでおくように」
ビッシリと文字が書かれたプリントの束を大量に渡されて、慌てて受け取ってしまう。思わず落としてしまいそうなほどの重量感だった。
「それでは。私はもう行きますね。アディオス」
ノエルは慇懃に頭を下げると、部屋から立ち去ってしまった。
「スペシャルトークショーか……。夢子さん、本気だったんだな……」
夢じゃないことの証明として、拓夢の手には、ずっしりと重たい用紙の山が残っていた。
よく見ると、一番上のプリントだけは、資料ではなくメモ用紙のようだった。
そこには、几帳面な女性の字でこう書かれてあった。
――もしも女子生徒にデレデレしたら、三週間朝食抜き!
「ええええ~~~~っ!?」
拓夢は呆然として、そのメモを見つめていた。
別に手を出すつもりなどさらさらないが、ノエルからこのような忠告をされるのは意外だ。
それに、拓夢には一つ気になることがあった。
ノエルとは一度、どこかで出会ったような気がするのだ。そして、それがいつのことなのか、全く思い出せない。そして、ノエルはそのことを意図的に隠してる。
「ノエルさん……一体何を考えてるんだ?」
一人残された部屋の中で、拓夢はポツリと呟くのだった。




