⑳真莉亜を抱きかかえ、走る拓夢。~真莉亜さんは僕が絶対助けるんだ!!
「真莉亜さ――――――――んっ!」
思慮など持ってのほかで、拓夢は大空に響き渡るほどに叫んだ。
後のことなど、構っている余裕はなかった。
拓夢はいても立ってもいられず、鞍から飛び降りた。
フローレンスも成り行きを分かっていたようで、すでに動きを止めている。
そして自分より後方にいる、真莉亜の元へと駆け寄る。
「真莉亜さん……無事でいてくれ」
必死な思いで呟きながら、ひた走り。
真莉亜の元まで辿りついた時だった。
「あああっ!」
拓夢は倒れた彼女を見て、思わず声を上げた。
真莉亜の額からは、一筋の血が流れていたのだ。
「真莉亜さんっ、大丈夫ですか!?」
女性アレルギーのことなど気にも止めずに、拓夢は少女を抱きかかえた。
必死で叫ぶが、返事はない。
意識を無くしているのか、すでに、死……
「そんなこと、させないっ!」
拓夢は真莉亜の体を、強く抱きしめた。
その瞬間、拓夢は自分の無謀さを思い知った。
「ぐうっ……! 震えが……」
絶世の美少女である真莉亜を抱きしめたことで、女性アレルギーが強く反応してしまったのだ。
クラクラする。全身から汗が滲み出て、意識も朦朧としだす。
拓夢は、自分自身を殴りつけたい気持ちにかられた。
こんなことなら、クロスカントリー対決なんて受けるんじゃなかった。こうなることは、十分に予想できた。それなのに、自分は……。
しかし今は、そんなことを反省してる場合ではなかった。腕の中にいる真莉亜が、か細くではあるが呼吸をしていることが分かったのだ。しかし、このままでは危ない。何が何でも、医者に見せないと!
「僕が……っ、僕がっ! 助けるんだっ!」
真莉亜を抱えて立ち上がろうするが、体中にじんましんが走り、思わず膝をついてしまう。
「……っ!」
拓夢は、唇を強く噛みしめた。切れた口の端から血がボタボタと零れ落ちるが、そんなことはお構いなしだ。意を決して、もう一度真莉亜を抱えて立ちあがったその時、
「拓夢くんっ!」
「えっ?」
後ろから、桜が息を切らして駆け寄ってきた。
「大丈夫ぅぅぅうううううっ!? 真莉亜ちゃんはぁぁああああああ!?」
「真莉亜お姉さまはどうなされたのですか!? もしかして、頭を打たれたのですか!?」
少し遅れて、取り巻きの女子生徒達も追いついてきた。
「……キャー! 真莉亜ちゃん、頭から血を流してる―――――っ!」
「早く救急車を、救急車を呼ばなくてはっ!」
桜も取り巻き達も、取り乱したまま慌てて叫ぶ。
「病院が、近くにあるんですか!?」
拓夢は女子生徒達に向けて怒鳴った。思わず語気が強くなってしまったが、そんなことを気にしている余裕はない。
「えっ……く、車でも、ここからだと一時間以上はかかったような……。えと、三十分だったかしら……?」
「どっちですか! ていうか、場所はどこなんですか!?」
「そ、それは、わたくしには……」
「もういいですっ! 少なくとも、すぐ近くには病院はないんですねっ? それなら、直接行った方が早いっ!」
真莉亜の体の感触や、甘い匂いに触発されて、拓夢はどんどん意識が薄れていた。
しかし、拓夢はもはやそんなことすら忘れていた。考えていることはただ一つ。
真莉亜を助けたい。ただそれだけである。
「はぁ、は……ぁ」
真莉亜の口から漏れる苦しそうな呼吸が、胸を締め付ける。
頼む、死なないでくれ!
拓夢が心から願った、その時だった。
それまで目を白黒させていた桜が、拓夢と女子生徒との間に、割って入った。
「拓夢くんっ! わざわざ病院まで行かなくても、保健室に連れていけばいいじゃないっ! ベッドもあるし、学校医や看護師も常勤しているよっ!」
「保健室までの道はっ!?」
「ここをまっすぐ行って校舎に入って、昇降口まで行ったら、すぐ左に曲がって! 大きな体育館が見えるはずだから、そこを右! 色々教室があるはずだけど、大きく『Nurse's office』って書いてあるからっ!」
「ありがとうございますっ、桜さんっ!」
桜に礼を言うと、拓夢は真莉亜を抱えたまま、校舎に向かって走り出したのだった。




