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庶民特待生となった僕は、名門学園に通う美少女達から愛されまくる!  作者: 寝坊助
第1章 ようこそ庶民様! 聖ジュリアンヌ女学院へ!
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⑤初日のスピーチ

 聖ジュリアンヌ女学院のルールや理念を説明され、契約書等にサインを交わし、制服、教科書、カバンなどを渡され、部屋で三時間ほどの睡眠を経て。いよいよ拓夢の転入式が行われることとなった。


 ちなみに拓夢は早朝、客室から講堂に直接向かったので、幸い生徒と顔を合わせることはなかった。

 もし登校時間とかち合ったりなどしていたら、卒倒間違いなしだっただろう。

 

 たかが庶民一人転入するぐらいで歓迎式典を開くなど大げさではある。まあ、形式的なものだから仕方ないと言えばそれまでだが。女生徒たちも、多分それほどまで庶民に期待しているとは思えない。


 しかし実際の転入式は、そんな拓夢の浅い考えを打ち砕くほどに豪華だった。


「――皆さん、本日は天候にも恵まれ、全校生徒一同、庶民特待生をお迎えすることが出来、まことに喜ばしいことと存じます」


 今挨拶を舞台の上で行っているのは、理事長の神薙夢子。ホール上でそれを聞く生徒たちも、全員がお金持ちのお嬢様で、見目麗しい乙女ばかり。


 沢山の花が置かれた壇上の後ろ上には、大きな横断幕が吊るされ、達筆な字で「庶民特待生歓迎式」と書かれている。前を見ると、一階から二階までバルーンや花紙で綺麗にコーディネートされている。これだけの手間を、自分のために……と思うと、緊張で押しつぶされそうだった。


 そんな観衆の元この後挨拶をさせられるのが、一般庶民の拓夢というわけだ。


「――庶民特待生の城岡拓夢君は、優しく思いやりのある大変な勤勉家で、真面目で実直でありながら、強い熱意を持った素晴らしい方で、必ずや皆さんによい影響を与えてくれるものと、確信しております」


 いやいや。あまりハードルを上げないでくださいよ、と控室で拓夢はツッコんだ。

 お嬢様方が純粋無垢なのをいいことに、自分のような一般庶民をさぞ優れているかのように紹介するのは、もはや詐欺だと思っている。


「――これから短い付き合いになるかとは思いますが、問題は時間ではありません。どのように時を過ごしたのか、何を感じ取ったのか、ということです。学生時代の素晴らしい思い出は、100年の歴史にも勝る輝きであると、私は信じています」


 それは拓夢もそう思う。馴れないお嬢様学校でも、それなりに楽しくやっていくつもりだ。部活動に入ってもいいし、生徒会なんかに入ってもいい。


 恋人を作ったり……は無理そうだが、友達を作るくらいならば問題ないだろう。これだけの学生がいるのだ。一人くらいは、気の合う女子もいるはず。


「拓夢様。そろそろスタンバイをお願いいたします」


 白いエプロンを着たメイド服のノエルの問いかけに、振り返って拓夢は答える。


「……ひゃ、ひゃい」


 拓夢はというと、体はガチガチ、汗はダラダラ、声はカミカミという、親任式の大臣並みの緊張ぶりだ。

 庶民歓迎式は、国歌斉唱の後に開会式の宣言、理事長の式辞を経て、拓夢からの挨拶。そして生徒会から歓迎の言葉を贈られ終了、という流れである。


 すなわち、夢子の式辞が終われば、次は拓夢の番ということになる。


 ノエルから聞いたところによると、夢子はわざと祝いの言葉を長くしているらしい。それは、拓夢の緊張を少しでも解すためだそうだ。夢子は昨夜も夜が更けるまで、ずっと拓夢についてセリフの打ち合わせもしてくれた。


 さすがは、お嬢様学校をとり仕切る敏腕経営者といったところだろうか。性格もよければ人望も厚い。

 しかし、そんなことでほぐれるほど、拓夢のメンタルは強くはなかったのである。

 今こうして夢子が巧みに優雅に演説をすればするほど、この後続く拓夢の挨拶に期待が高まってしまう。夢子のスピーチと比べられるのは、どうにも歯がゆい。


「……終わったようですね。さあ、拓夢様。次はあなたの番ですよ」


 ノエルに言われモニターを見てみると、深々と会釈をする夢子の姿が映されていた。拍手喝さいの音も聞こえる。この音を聞くと、嫌でも緊張が高まってしまう。


「時間も押してますし。ちゃっちゃと終わらせてきてくれません?」


 ノエルは時計をチラッと見ると、ダルそうに言った。


「や……やっぱり、行かないとまずいですか?」


「んー、そういうわけでもないんですけどね。後が面倒くさいんで」


 ノエルは事も無げに言い切った。

 しかしこのノエルとて、昨夜は遅くまで拓夢のために残ってくれて、色々と面倒を見てくれたのだ。

 ツンツンはしているが、拓夢のことを考えてくれる女の子なのだ。


「というわけで、ヘタレさん、早く行ってください」


「あっ! ちょ、ちょっと!?」


 ノエルにぐいぐい押し出されるようにして、拓夢はステージ上にあがる。


 ざわざわ、という声が広がる。拓夢は壇上から生徒たちを見下した。


 聖ジュリアンヌ女学院の制服は、白を基調としたホワイトカラーのジャケットで、黒の縁取りがされている。下は、太ももまでのプリーツスカートというシンプルな制服である。しかしながら胸元を結ぶ紐リボンや純金の校章に至るまで、全てが高級素材で作られている。


「……」


 拓夢は、ごくりと唾を飲んだ。


 昨夜必死で覚えた台本のことなど、一瞬で頭から抜け落ちた。

 六百人ほどの生徒がいるはずだが、実に静かだ。さすがお嬢様学校だけあって、みんなお上品にホールチェアーに座っていて、話し声一つない。教育が徹底されているのだろう。


 それに、匂いだ。何とも言えない良い匂いがする。

 それだけでも、気を失ってしまいそうだった。

 穢れを知らぬ純粋無垢な瞳、よく手入れされた髪、艶々の肌……全てが、前の学校では考えられないレベルだった。


 嫌でも胸の鼓動が高まってしまう。


 しかし挨拶を終えない限りは、いつまで経ってもここにいないといけない。

 拓夢は意を決して、口を開いた。


「あ、あの……」


 ――ゴクリ!!!!


 一斉に息を呑む音が聞こえた。


「――っ!?」


 それだけで、拓夢の心拍数は増加していった。すらりとした長い足、華奢な体、豊かな胸、なだらかなカーブを描く腰、そして千二百もの瞳が、ジーッと拓夢のことを見つめているのだ。


 それは、期待の眼差し。庶民の男子が何を発言するのかを、今か今かと待っている。

 急に身震いがし、息苦しくなった拓夢は思わず顔をしかめる。


「う、うぐ……!」


 締め付けられるような痛みを感じ、拓夢は頭を押さえた。

 目は煙が入ったかのようにかゆく、鼻は花粉を押し付けられたようにむずがゆい。

 頭がクラクラしてきた。もはや目の前はかすみ、女生徒たちの姿もまともに見えない。


「あ、う……」


 最後に感じたのは、浮遊感だった。しっかりと足が地面についているにもかかわらず、ふわふわと宙に浮いてるような気がしたのだ。そして、そこから足を一歩踏み出したところで、拓夢は気を失い、思い切り講演台に頭をぶつけた。


「城岡君!」


「拓夢様!」


 同時に、夢子とノエルの叫ぶ声が聞こえる。

 続いて、会場内からどよめきの声。


『城岡拓夢君の体調悪化に伴い、庶民歓迎式は中止となります。来場された生徒一同は、教職員の指示に従い、退場いただくようお願い申し上げます』


 そんなアナウンスが流れる中、一端、壇上には緞帳が下りる。

 幕が完全に下がった後、夢子とノエルが拓夢に駆け寄った。

 

 彼女らに抱き起こされながら拓夢は、夢を見ていた。

 夢の中の拓夢は、ピンと背筋を伸ばしたまま講演台に立ち、全校生徒を前に挨拶を行っていた。

 

 そして結びの言葉を終えると、万雷の拍手で迎え入られる。

 そんな都合のいい夢を見ていたものだから、拓夢はタンカで運ばれながら、こう寝言を漏らした。


「むふふ、これで予習復習はバッチリだ……」


 医療スタッフに会場から運び出されているとはとても思えないほど、その寝言はのんきだったという。

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