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庶民特待生となった僕は、名門学園に通う美少女達から愛されまくる!  作者: 寝坊助
第2章 築かれるハーレム! 拓夢様はわたくしのモノですわ!
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⑯厩舎の中で「ひひーん」と叫んだ獣

 そんなこんなで、始まった真莉亜と拓夢の乗馬対決。

 決戦に備えて、拓夢は自分が乗る馬を見に、厩舎(きゅうしゃ)までやってきていた。


「すごいな……」


 思わず拓夢は呟いた。


 小屋というよりは、巨大な一軒家といった方が正しいその施設では、柵の中にいる沢山の馬たちが、牧草を食べたり、または調教師に体を洗われたりしている。


「とりあえず、一頭選ばなきゃ。真莉亜さんに勝たないと……」


 拓夢は呟きながら、厩舎内を歩いた。

 どう考えても真莉亜にあんな婚約者はふさわしくない。真莉亜は被害者だ。何としても助けなければ。


 しかしお家が決めたことだし、お互いの両親まで納得し合っているのだとすれば、自分が介入する余地はないようにも思う。しかし、真莉亜のあの助けを求めるような顔は……。


 うまく考えがまとまらず、馬房の前をただ無意味に通り過ぎる拓夢。

 真莉亜の考えていることが分からない。元々浮世離れした性格だとは思っていたが。それともただ単純に、自分に勝つことが目的なのだろうか? 拓夢はため息をつきながら足を止めた。


「どうしたの?」


 隣を歩いていた桜が、足を止め拓夢の顔を覗き込みながら尋ねた。

 拓夢はすぐに首を振る。


「どうかした、とかじゃないです。僕に何か至らない点があったんじゃないかって。反省していたんです」


「気持ちは分かるけど、今は勝負に集中した方がいいと思うよ?」


「それは分かってるんですけど……」


 一度気になったことは、とことん気にしてしまうのが拓夢の欠点でもあった。特に、真莉亜は聖ジュリに来てから知り合った、数少ない友達なのだ。だからこそ、自分に何かできることはないかと模索してしまう。


「はぁ……」


 再び拓夢がため息をついた、その時だった。


「拓夢くん、拓夢くん」


 つんつん、と桜に脇腹を突かれた。


「なんですか?」


「あれ、見てッ!」


 桜の大声の指す方向に、拓夢は視線を向けた。


「これは……」


 忘れもしない。その馬はかつて桜の家にお邪魔した時に乗せてもらった、フローレンスであった。サラブレッドの元競走馬。三歳の牝馬にして、純白な毛並みが特徴的な、美しい軽馬だ。小柄ながらパワーはすさまじく、拓夢はその圧倒的なスピードをその身で経験している。


「ひひいいいいいいいいいいいいいいいいっん!!」


 フローレンスも拓夢のことを覚えていたようで、荒々しい咆哮(ほうこう)の中にも、喜びの色がうかがえた。


「こ、これは……どういうことですか?」


 拓夢が尋ねると、桜はイタズラっぽく舌をぺろっと出して、


「わたしからのサプライズだよっ♪ フローレンスなら、真莉亜ちゃんの馬とも、互角に戦えるよねっ☆」


 まさか、またフローレンスと再会するとは思ってもみなかった拓夢にしては、極上のサプライズだった。


 しかもフローレンスとなら、相性も抜群だ。馬は主人と決めた者とそうでない者とでは、土を蹴るスピードが断然に違う。


「うわあああああ……会いたかったよ……フローレンス!」


 拓夢がフローレンスに笑顔を見せた、その時だった。


「わたし、ファインプレーでしょ? 拓夢くん。お父さんにも、相当無理を言ったんだからねっ? 今回のことは貸しにしておくから。今度デートすることッッ」


 桜はそう言うと、馬房の前にある、スライド式の引き戸を開けた。


「きゅいんっ♪」


 開け放たれたフローレンスは、待ってましたと言わんばかりに拓夢に駆け寄り、上目遣いに自らの鼻を拓夢の顔にすり寄らせた。


「ひひっ、ひひっ、ひひーーん」


「ちょ、痛いんだけど!?」


 拓夢がビックリして体をのけぞらせると、桜は「あははっ」と笑った。


「相変わらず、フローレンスに好かれてるね拓夢くん。もう、わたしより飼い主っぽい」


「そんなことないですよ。うう、何かベタベタする……」


「まあ、動物だからね~♪」


 桜は腰の辺りで両手を組みながら、フローレンスと戯れる拓夢をクスクス笑った。同年代の少女と比べて子供っぽい仕草に、拓夢は思わず頬を緩めてしまう。大金をはたいて自分をイメチェンさせてくれたり、いつも困った時に助けてくれる桜は、拓夢にとってかけがえのない存在だ。


「でも、フローレンスほどの名馬を、僕がちゃんと乗りこなせるかな? ちょっとだけでも、練習させてもらおうかな……」


「コンビネーションはバッチリなんだから。変に練習して余計な癖つけたら、かえって苦戦するよ?」


 そうは言うが、真莉亜は全国馬術大会において、毎年総合優勝するほどの名手なのだ。ちなみに桜もかなりいい腕をした騎手なのだが、真莉亜に比べれば平均より上といったところだ。


「いいですね、桜さんは。才能あるから」


「乗馬に才能なんてないよ。わたしは毎日馬と遊んでるだけ。拓夢くんも勝負じゃなくて軽いドライブだと思えば?」


 桜はしれっと言うが、拓夢にとってそれは難しかった。何せ、真莉亜の人生がかかってるのだ。


「フローレンスはね。元々は競走馬だったんだ。だから、レースには強いと思うよ?」


「そ、そうなんですか?」


「うん。よくわかんないけど、有馬記念? 天皇賞? G1グランプリとかで、大勝ちしたこともあるみたいだよ」


 そんな馬を個人が所有できるのは凄いなあ、と、拓夢は絶句してしまった。そして、フローレンスに視線を移す。


「そっか……お前、凄かったんだな」


 そう言ってフローレンスの艶々した白い(たてがみ)を撫でると、フローレンスは気持ちよさそうに「きゃるるっ♪」と鳴いて目を細めた。十分に自分に懐いてくれている。これなら真莉亜の馬とも対等に立ち向かえるかも。拓夢は、不安を自信に変え始めていた。


「うん、これなら何とかなりそうだぞ……」


「そうだねッ。でも……」


「……なんですか?」


「そうなっちゃうと、真莉亜ちゃんと婚約するんだよ? 拓夢くんは、真莉亜ちゃんと結婚したいの?」


「えっ、えええっ!? べ、べつに僕は、そ、そんなつもりじゃ……」


 拓夢は顔を真っ赤にして否定した。

 反対に桜は、真剣な顔で問いただしてきた。


「じゃあ、どういうつもり?」


「……真莉亜さんを、助けられたらいいなって」


 拓夢がそう言うと、


「うん♪ わかったっ!」


 桜はニッコリと満面の笑みを見せた。


「だいじょーぶ。拓夢くんなら勝てるよっ。そして、真莉亜ちゃんを助けてあげてッ!!」


「はい。とりあえず、まずは勝負に勝たないとですね……」


 頷きながら、拓夢は気持ちを切り替えた。桜もフローレンスも、自分のために力を貸してくれるのだ。そして、真莉亜のためにも。この勝負、絶対に負けるわけにはいかない。


 拓夢は拳を握りしめながら、決意を新たにするのであった。

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