表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
庶民特待生となった僕は、名門学園に通う美少女達から愛されまくる!  作者: 寝坊助
第2章 築かれるハーレム! 拓夢様はわたくしのモノですわ!
52/136

⑫アヴェ・マリア

 翌朝。輝くブロンドヘアーを揺らした少女が、ベッドから起き上がった。

 そこはヴェルサイユ宮殿と見まがうほど、豪華な一室だった。

 家具や調度品は全て超一流の高級品。しかし、大手ブランドメーカーから購入したクラシックカーテンから差す木漏れ日は、少女――有栖川真莉亜の心を反映したかのように、曇っていた。


 ――どうして、わたくしは朝からこんな気分になっているのでしょう? まぁ、原因はあのお方しかおりませんけれども――。


 もうすぐメイドがやってきて、着替えを手伝いに来る時間だろう。そうしたら、リビングで両親と共に朝食だ。美しい母や優しい父の顔が見れる。美味しい朝食が食べられる。


 なのに、真莉亜は寝たきりの病にかかっているかのように、ベッドから離れられずにいた。シーツの上に正座したまま、かれこれ二十分が経つ。


 考えているのは、たったひとつのことだ。


 真莉亜の環境は、この数か月であっという間に変わってしまった。庶民同好会として転入してきた、ひとりの男子生徒。そして、立ち上がった新しいサークルに加入する自分。そして、その庶民特待生と勝負をして……。


 財閥の令嬢、有栖川の娘として、今まで数多くの困難を乗り越えてきた真莉亜だったが、今回のそれは、今までにないほど深刻な悩みだった。


「まいりましたわね」


 もう何十回呟いたかも分からないセリフを、今一度真莉亜は口にした。その声は華奢かつ優雅であった。自身の内面を声に出してはならぬという、有栖川の教育によるものだ。


「わたくしとて思春期の女の子ですから、いずれはこういう時がくるとは思っておりましたけれど……。もう少し、心の準備というものがほしかったですわ」


 そう言って純金の髪をかき上げる仕草は、あの人には届かない。


「いっそわたくしの方から……。いいえ。そんなことは、許されませんわ……」


 大切な両親。学校の友人たち。四天使の面々。庶民特待生の男の子。そして、婚約者。数多くの複雑な環境に自分はいるのだ。勝手な言動など、認められるものではない。


 ――でも『あの人』は、わたくしを婚約者として見てはいない。だから、わたくしと一緒になれなくても、悲しむことはありませんわ……きっと。


 だから、婚約破棄しようかとも思う。

 しかしそんなことを言ったら、両親はきっと悲しむ。


「そうですわ……。もう決まったことなのですから……。今さら婚約を解消するだなんて、そんなことは無理ですわよ」


 鏡に映った自分に話しかける。いや、正確には、鏡の向こう側にいるあの人に。

 脳裏に浮かぶのは、いつだってあの人だ。

 優しくて、頼りになって、明るくて、でも少しドジで……鈍感で……。


 でも……。


「あなたは……わたくしのことを、どう思ってらっしゃるのでしょうか?」


 真莉亜は、鏡台に向かって話しかけた。

 映った自分を、じっと見つめること数分間。


「わたくし……あなたのことを、愛しておりますわ♡」


 真莉亜は小首を傾け、誰もが見惚れる最高級の笑顔で告白をした。それはまるで、女優が演じる映画のワンシーンのようだった。


「こんなことであの方が落ちてくださるなら、最初から悩みなどしませんわ」


 真莉亜はため息をついた。そして笑顔を仕舞い、凛々しい表情を作る。


「悩む? わたくしは……有栖川真莉亜ですわ。何を悩むことがあるのでしょうか?」


 真莉亜は涙目の自分にそう話しかけると、立ち上がりカーテンを開けた。

 いつの間にか曇っていた空からは、抜けるような陽射しが差し込んでいた。


「……様。どうかわたくしを、お救いください……」


 窓際に膝をつき、両手を組み、とても小さな声で、ここにいない人に祈りながら呼びかけた。

 今にも折れそうな声がその人に届くことは、残念ながらなかったのだが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です! [一言] アリサとマリア、響き似てなくね? でも婚約者に対する主人公とヒロインの見方が、 透「不本意な結婚なんて間違ってます!」 拓夢「いいんじゃないでしょうか? …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ