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庶民特待生となった僕は、名門学園に通う美少女達から愛されまくる!  作者: 寝坊助
第1章 ようこそ庶民様! 聖ジュリアンヌ女学院へ!
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《エピローグ》光と影の二面性! 怪しく微笑む夢子の正体!

 庶民同好会がパーティを楽しんでいる頃、月雨ノエルはとある場所へと向かっていた。

 神薙夢子のいる理事長室。

 一日の報告を入れるためだった。


「――と、いうことです。一時期は精神的に不安定になっていたようですが、桜さんのご助力もあり、今はもう立ち直っておられるようです」


 ノエルは、機械のようにスラスラと丁寧に話し終えると、チラリと前を見た。

 テーブルに着き話を聞いていた夢子が、ゆっくりと口を開く。


「そう。それはよかったわね! ただ……あまりご飯を食べていないのが少し気になるけど。育ち盛りなんだから、沢山食べないとね」


 苦笑しながら、夢子はそう言った。

 就業時間が終わっていることもあり、テーブルの上には高級ワインと、ワイングラスが二つ、そして、古い新聞のスクラップ記事が置かれていた。


「報告は聞き届けました。引き続き、拓夢君をお願いね」


「はい理事長。あの方は面倒ばかりかけますけど」


 ノエルが不満そうに言うと、夢子はくすくす笑った。

 ノエルと夢子は長い付き合いではあるが、大勢と仕事をしている時と、こうして二人で話している時とでは、全く違う。出来るキャリアウーマンといった風情から、優しいお母さんといった感じになるのだ。拓夢について話している時は、とくに。


 拓夢がこの学園に来てからは、夢子はイキイキとして、いつも嬉しそうで、時折ゾッとするくらい美しく見える。そして、絶え間ない母性を感じるのだ。


 母性……自分に、そんなものを感じる気持ちが残っていたのか。ノエルが自分の感情の機微に苦笑していると、夢子は笑顔を作る。


「それじゃあ、拓夢君の方は、もう問題なさそうね?」


「ええ……。この学園を辞めようかというほど悩んでいたそうですけど。もうすっかり元気ですので」


 ノエルがそう言うと、夢子は辛そうにうつむき、ため息をつく。


「やっぱり……少し強引すぎたかしら」


「そうですね、強引すぎましたね」


 ノエルが冷たくそう言うと、反対に夢子は暖かな笑みを浮かべ、


「仕方がなかったのよ。城岡家との契約だったんだから。それに、雙葉(ふたば)の本家との兼ね合いもあるしね」


「雙葉に知られないよう情報を秘匿(ひとく)にすることは、並大抵のことではありませんよ。いえ……おそらく、もう気づかれているかと」


「それでもかまわないわ。もうじき、拓夢君が17歳の誕生日を迎えてしまうもの。そうしたら、『あの力』に覚醒してしまう……。だから、その前に……」


「そうですよね……」


「ええ。だから、事は慎重に運ばないといけないの」


 夢子にそう言われ、ノエルは口をつぐんだ。夢子の目は鋭く、冷気を放っている。先ほどの慈愛を感じる瞳はなくなっていた。


「ノエル。拓夢君からは、しばらく目を離さないようにね」


 その瞳に見つめられては、ノエルも「かしこまりました」と答えるしかない。理事長を敬愛するノエルだったが、同時に何よりも恐れているのだ。


「ありがとう。今日はもういいわ。パーティに戻っていいわよ? 拓夢君のこと、気になるんでしょ?」


「私は……別に。そのようなことは……」


 ノエルは、言葉尻を濁しながら答えた。その隙を、雌豹が狙う。


「いいのよ。無理しなくったって。『あの時の約束』をまだ覚えているんでしょう? もういっそ、あなたの方から打ち明けたら?」


「なな、なにを言ってるんですか」


「またまた誤魔化しちゃって~え☆ 何だったら、私から拓夢君に教えてあげましょうかしら? あのね~、ノエルちゃんは昔ぃ~、拓夢君と出会ってて~♪」


「も、もう止めてください! 理事長!!」


 な~んちゃってね♪ とイタズラっぽく舌を出す夢子に、ため息をつくノエルだった。

 冷静沈着なノエルではあるが、幼少の頃からお世話になってる夢子には、どうにも頭が上がらない。こうして拓夢への気持ちをからかわれることも多くあり、そのたびにノエルは、胸をかきむしられる思いがするのだ。


「冗談はさておき。私のことはいいから、本当にいってらっしゃい。ノエル」


「そうですね……片付けとかもありますし。給仕役は必要でしょう」


 ノエルは、白い頬を赤く染めて、鋭い目をもっと細めて、まくし立てるように言った。考えてみれば、拓夢と四天使を同じ部屋に残すのは危険だ。拓夢は気分が高揚しているし、ノンアルコールとはいえお酒を飲んでいる。いつ間違いが起こるとも限らないので、自分が監視しておく必要がある。


「それはそうと、理事長もお酒、飲み過ぎないようにしてくださいよ」


「あ、バレてた?」


 冷静にツッコむノエルに、夢子は肩をすくめながら答えた。


「どれだけ長い付き合いだと思ってるんですか。そのボトルだって、二本目でしょう?」


「いいのよ。嬉しいことがあった日は、沢山飲まないとね~♪」


「はぁ……。分かりましたから。明日の仕事に差し支えが出ますので、くれぐれも程々にしてくださいね」


「はぁ~~い♪」


 ……これは、飲み明かすパターンだな。そう心の中でため息をつきつつ、ノエルは退室するのだった。


 ノエルの想像通り、夢子は一人きりになった理事長室で、空になったワイングラスを傾けていた。

 拓夢がこの学園を辞めたいということを聞いた時には、正直焦った……いや、絶望したといってもいい。お嬢様学園の中で、たった一人いる男子生徒。しかも女性アレルギーを持っている身というのは、夢子の想像以上に彼にストレスを与えていたようだ。


 だからこそ、彼が在学を決めてくれたことには安堵している。これでしばらくは大丈夫そうだ。空のグラスにワインを注いでいた、その時。


「あら……?」


 夢子はグラスの横に置いてある、新聞のスクラップ記事に目をやった。

 大分古いもので、日付は今から13年前となっている。


「忘れていたわ。あなたにも、注いであげないとね」


 うっかりしていた、とばかりに夢子は、もう一対のグラスにも少々の酒を注ぎ、その新聞記事の前に置く。


「――今日は、あなたも飲みましょう? 乾杯」


 チン、と夢子は、ワイングラスの飲み口を合わせた。そして、ゆっくりと鼻孔の下に当て、濃厚なブーケの香りを味わう。


「拓夢君は、良い子に育ってるわよ? だから、安心して眠ってね。志拓(ゆきひろ)さん」


 高揚しながらも、どこか思いつめたような真剣な表情で、夢子は新聞の切り抜きを眺めた。その見出しには、こう書かれている。


 ――稀代の資産家にて、聖ジュリアンヌ女学院創設者。雙葉志拓(ふたばゆきひろ)怪死事件!


「……うふふ。これからが楽しみね。拓夢君?」


 怪しく微笑むと、夢子は一気に酒を煽るのであった。

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