㊱隠し事の正体 四天使たちと賑やかなパーティ!
そして、放課後。
約束通り、拓夢は一人で教室に残っていた。
正直なところ、もう家に帰りたかったが。
四天使が何か隠し事をしていて、拓夢を驚かせようとしている……それだけは分かっている。
自分をイメチェンさせてくれた桜を信じるのみである。あれだけ親身になってくれた桜が、自分を追い出そうとしてるだなんて、考えられない。しかし……こうして一人ポツンと教室に残っていると、マイナス思考に陥りやすくなる。
「あ、いたいた! 拓夢くんだ!!」
ガラガラと扉が開くと、桜が顔をのぞかせた。
いつもより数段弾んだ声だ。
拓夢は反対に、元気がなく小さな声で話しかける。
「……桜さん。今日は一体、何があるんですか?」
「えへへー♪」
意味深に笑う桜が、拓夢の服の袖を引っ張る。
「それはすぐ分かるから、早く部室にいこっ?」
桜の言葉に従って、拓夢は桜と共にサロンへと向かった。
「お、お邪魔します……」
遠慮がちに、重厚なサロンのドアを開けると。
真莉亜、百合江、くるみ。そしてノエルが集まっていた。
「城岡先輩、ようこそですう!」
「お待ちしておりましたわ」
くるみと真莉亜が手招きする。
「……やはり作戦通り、相当驚いているようですね」
「でなければ、急ピッチで準備した甲斐がありません。驚き過ぎてショック死されるくらいでないと」
続いて、百合江とノエルが満足そうに相好を崩している。
「こ、これは……?」
そして拓夢は、百合江の言葉通り、本当に驚いていた。
部屋の中央に設置されたセンターテーブルには、ノンアルコールのシャンパンやカクテル、スパークリングワインとグラスなどが置かれている。
それに合わせて、ローストビーフやチーズ、生ハムの盛り合わせ、オリーブのサラダなどが、華麗に盛り付けられていた。
そして一際目を引くのが、テーブルのど真ん中にデカデカと置かれた、生クリームにイチゴが美味しそうな、デコレーションホールケーキだった。チョコペンで、「拓夢くん歓迎パーティ!」と書かれている。
それ以外にも、天井から吊るされた色とりどりの風船。部屋の隅々に飾られた、可愛らしいマスキングテープなど、随所に飾り付けがされていた。
「どう? 拓夢くん、ビックリしたッ!?」
「は……はい。ていうか、これは一体何です……?」
「何って、拓夢くんの歓迎パーティだよッ! 初日にみんな忙しくて出来なかったでしょお? だから、今日急いで準備したのッッ!!」
桜がはしゃぎながらそう言うが、拓夢はまた状況が飲み込めていなかった。
すると、助け舟を出すかのように、真莉亜が口を挟んだ。
「拓夢さま。黙っていて申し訳ありません。ですが、わたくし達は『サプライズパーティ』がしたかったのです」
「サプライズ、パーティ?」
「庶民の文化には、あえてパーティの日取りを教えず、当人を驚かせる風習があるとお聞きしました。準備もまだ間に合ってなかったので、なおさら拓夢さまに知らせるわけにはいかなかったのですわ」
「そういう、ことですか……」
拓夢が納得していると、くるみが元気よく手を上げた。
「はいはーい! 飾り付けは、くるみと真莉亜お姉さまとで頑張ったですぅ!」
「姫乃咲さん……」
「くるみ達、お昼もまともに食べずに頑張ったですから、ちゃんと見てくれないとめーっ! ですよお!」
「…………」
言葉もなかった。自分が昼間、真莉亜とくるみのやり取りを訝しんでる時、この二人はそんな努力をしていたのだ。
「その様子だと、気づいていなかったようですね」
「う……は、はい」
百合江に図星を突かれたので、慌てて拓夢は返事をする。
「私の方も大変でしたよ。キチンとしたサークル活動にしたいとのことなので、理事長に掛け合って、何とか部費を支給してもらいましたから」
と、ジト目で言う百合江。
生徒会の仕事で忙しい中、拓夢の為に学校側と交渉までしれくれたのだ。
「プランを考えたのは、わたしだよぉ~! サプライズパーティのことを調べて、街まで買い出しに出かけたのッ! 拓夢くんが喜んでくれそうなもの、い~~~っぱい選んだんだぁッ!」
と、明るく叫ぶ桜。
他の四人はともかく、桜とは昨日はずっと一緒にいた。とすると、落馬して大変な目に合った後に、大変な作業をしてくれたことになる。
「さ、桜さん……」
「もしもし、拓夢様? 拓夢様?」
「は、はい。何ですかノエルさん」
拓夢が1人感激していると、ノエルが服の端をつかんでくる。
そして、不満げな表情でこう言った。
「私も貴方の為に重労働したのですが、何の労いの言葉もなしですか?」
「ノ、ノエルさんまで……?」
「当り前です。このお料理は、全て私が作ったんですから。仕込みや準備もあるので、昨日はほとんと寝ずに頑張ったんですよ?」
「そ、それは……すみません、ありがとうございます」
「もっと大きな声で! 感謝をこめて!」
「あ、ありがとうございます! 大変感謝しています!!」
ノエルに注意されてしまったので、拓夢は背筋を伸ばして答えた。
というか、もしかしたら五人の中で一番頑張ってくれたかもしれないのだ。どれだけ感謝してもしたりない。
「まあ、ネタバラシはここまでにして。そろそろ食べない!?」
桜の呼びかけに、皆は反応した。
「そうですわね……頂くといたしましょう」
「くるみ、もうお腹ペコペコですう!」
「ノエルさん。調理の方、お疲れ様でした」
「いえいえ。それでは皆さん。冷めないうちに食べちゃってください」
真莉亜、くるみ、百合江、ノエルと。
さらに拓夢と桜を加えて、六人はグラスを傾け合った。
そして、叫ぶ。
「「「「「「カンパ――イ!!」」」」」」




