㉝騒動で始まる、学園の一日。拓夢くんに近づく者は、このわたしが許しません!
「城岡様ですわー! 城岡様がいらっしゃいましたわー!」
「キャー! 庶民様ー!」
「こちらを向いてください、庶民様ー!」
学園の廊下。
講堂の横にあるラウンジを抜けて、教室に続くアトリウムを歩いていた時だった。そう、ただ廊下を歩いているだけなのに、女子生徒達は歓声を浴びせているのだ。
『拓夢大改造計画』を実施されて、朝からずっとこんな感じだった。男子に免疫のない女子高で、これだけ顔のいいイケメンが歩いているのだから、それも無理はないが。
「ダメだよ! みんな! 拓夢くんは、わたしのものなんだからね!」
「さ、桜さん……」
狼狽する拓夢を背に、桜が女生徒たちの前に立ちはだかっていた。
「握手はダメ! 触るのもダメ! 写真は一人一枚まで! 食事のお誘いは、わたしを通してからにしてねぇ!」
まるで敏腕マネージャーのごとき手腕を発揮する桜。
「そ……そんな! 横暴ですわ……」
「お待ちなさい。ここはお写真だけでもよしといたしましょう。城岡様のご尊顔を、記録できるのですから」
なのに飽きもせず拓夢を追いかけまわすとは、どれだけ女生徒達はヒマなのか。
「桜さん。そんなに邪険にしなくてもいいんじゃないでしょうか?」
自分を慕ってくれる女生徒達を見すげるのも可哀相なので、拓夢は桜に声をかけた。
「うーん……拓夢くんがそう言うならぁ……」
顎の下に指を当て、首を傾げながら桜は呟いた。
「別にいいじゃないですか。過剰なスキンシップは流石に無理ですけど。食事したり放課後に遊びに行くくらいなら、僕は大丈夫ですよ?」
「「「「本当ですか!? 城岡様!!」」」」
ピッタリと重なるお嬢様たちのユニゾン。
「で、ではわたくしの屋敷にてアフタヌーンティーなど……」
「いえいえ。ここはわたくしの邸宅で。なにせ、600坪はありますのよ?」
「わたくしの家が誇る自然庭園を、是非お見せしとうございますわあああ!」
我こそはと群がるお嬢様たち。
しかし、桜は……。
「だぁぁぁああああああ~~~~めっ! じゃ、行くよ拓夢くん!」
「だぁぁっ!? ちょっと待ってくださいよっ! 少しは僕の話も聞いてください!」
桜があまりにもバッサリと切り捨てるので、拓夢は桜の前に躍り出た。
「桜さん。せっかく学園の皆さんが仲良くしてくれるっていうのに、どうして断るんですか? もしかしたら、友達が出来るかもしれないじゃないですか」
「そんなの必要ないもん!」
「ちょ!? そんなこと言わないでくださいよ。とりあえずお話をするくらい、別にいいじゃないですか~」
今までぼっちだった拓夢は、必死に桜を説得した。しかし桜は、冷静にポケットから布製の手帳を取り出すと、
「それにねッ! 今日は拓夢くんは、大事な予定が入ってるの! だから、他の子の相手なんか、してちゃダメなのッ!」
「大事な予定……?」
拓夢は聞き返した。大事な予定など、何も聞いていない。
「そんな! あんまりですわ桜様!」
「いくら四天使だからといって、少々理不尽なのではなくて!?」
「いやぁ~! 城岡様~! 拓夢様~~~~!!」
思わず耳をふさぎたくなるような、悲痛な叫び声がお嬢様達から聞こえてきた、その時。
「うるさああぁぁぁああああぁぁぁぁあああいッ!!」
突然、桜がそれらを遥かに凌駕する大声を出した。
「拓夢くんは女性が苦手なんだから、みんなは拓夢くんに近づいちゃダメッ! お友だちはわたしがいるから、これ以上はいらないの~~ッ!」
「わたくしも、お友だちになりたいですわー!」
「い、一体いくらお支払いすれば! 城岡様とお友だちになれるんですの!?」
「何でもいたしますから、わたくしとお友だちになってくださいませえええええっ!!」
拓夢は頭を抱えた。
こうなってくるともう、子供の喧嘩だ。
「と、いうわけだからね! 拓夢くん、放課後は絶対帰っちゃダメだからねッ!」
「どうして……?」
「庶民同好会の活動があるからに決まってるじゃないッ!」
庶民同好会。あの変な名前のサークルが、ようやく始動するということか。
「真莉亜ちゃんも百合江ちゃんも、くるみちゃんも集まるからね! みんなで一緒に活動するんだよぉ!」
「あ……はい。分かりました……」
「うん! いいお返事♪ じゃあ、拓夢くんの教室まで、わたしが送るから! 放っておくと、このコ達に何されるか分からないし!」
「あ、ありがとうございます……」
圧倒されながらも、拓夢は答えた。
同好会といっても、一昨日立ち上げたばかりの、謎のサークルだ。
そんな名ばかりのサークルで、大事な予定とは一体何なのだろうか。非常に気になる拓夢であった。




