㉜一夜明けて、ダイナミックな起こし方。
まるでスイッチのON・OFを入れ変えたかのように、その日はパッチリと目覚めることが出来た。
「ふわぁ……凄い寝たなあ。今何時だろ」
目覚まし時計を見ると、時刻は朝の7時ちょうどだった。
ノエルは朝早く起こしにくるのに、珍しい。
「でも、久しぶりに沢山寝れたな」
うーんと伸びをしながら呟く。前の家にいた頃は、朝の3時には叩き起こされ、朝食の準備や掃除をやらされ、少しでも不満を言えば叩かれ、その繰り返しだった。
「そうだよな。あの頃と比べると、今は天国みたいだ…」
しみじみ言うと、あと五分間だけ寝たい……という欲望がこみ上げてきた。
「はぁ……いいよね。あと五分くらいなら」
ざっざっざ……
「拓夢様! 起きてください! 拓夢様!」
どかっ!
「ぐえ!?」
腹の上に何かがめり込んできた。
一気に目が覚めた。見ると、みぞおちにノエルのひじが思い切り突き刺さっていた。冷たい顔で立ち上がるノエルに文句の一つも言いたいが、こみ上げてくる吐き気と鈍痛に言葉も出なかった。
「やっと起きましたね。ダメじゃないですか。ちゃんと時間通りに起きて、食堂に行かないと」
「す……少しくらい……寝かせてくれても……」
「二度寝は厳禁です。それと、ここで吐くのは18禁規制がかかってしまうので、キチンとトイレに行ってから吐いてくださいね。あと、いい加減に服を着替えてください。私は今日忙しいので、あいにくお手伝いは出来ません」
「はぁぁぁあ~い」
まだズキズキと痛む腹をさすりながら、拓夢はベッドから起き上がった。そんな拓夢を尻目に、無表情なノエルは丁寧に折りたたまれた制服を拓夢の前に用意する。
そんなノエルに対し、拓夢は、
「あ、そういえば、どうですか? 桜さんのアイディアでイメチェンしてみたんですけど、似合ってますか?」
なんとはなしに、そう聞いてみる。
「……そうですか? 興味がないので、気づきませんでした」
ガクッとうなだれる拓夢。まあ、予想通りのリアクションだが。
各界のアーティストがこぞって褒め称えてくれたし、桜もカッコいいと言ってくれたのだが……ノエルには何の感情も呼び起こさなかったようだ。
「髪切ったんですね。まあ、あの鬱陶しい前髪は正直うざかったので、私としては助かりますが」
拓夢の髪を見ながら、冷たい言葉を浴びせるノエル。
「それに、メガネじゃなくてコンタクトにしたんですね。50歩100歩ではありますけど」
ノエルの言葉が、拓夢に突き刺さる。肌寒いのは、パジャマを脱いでるからではないだろう。
「まあ、でも……似合ってると、思いますよ……」
「え……?」
似合う……?
ノエルがそう言ってくれたような気がするのだが、気のせいだろうか。
いっそ、聞き返してみようか。拓夢が考えていた、その時。
「と、とにかく。また寝ようとしないでくださいね。私は本当に忙しいので、今日はあなたの面倒をあまり見れませんので」
失礼いたします。そうぶっきらぼうに言い残して、ノエルはドアまで向かった。
「もう……どうして急にイメチェンなんか。せっかく、私だけのご主人様でいてくださると思っていたのにっ」
その声は本当に聞こえなかった。荒々しく扉を開け、ドカドカと不機嫌そうに立ち去っていく音にかき消されて。
「あっ、いけない。もたもたしてると、本当に遅刻しちゃう」
なので拓夢は、いそいそと着替えを終わらせることにした。




