㉙イケメンとなった拓夢は、桜からとあるお願いをされる
「城岡君すごいよ! やっぱり君は逸材だったね!」
「ほんと、サイコー。うちの事務所でデビュー出来たら、スター間違いなしなんだけどなあ」
「メイクのノリもよくって、腕が鳴りましたよー。こんな感覚久しぶりっ♪」
拓夢大改造計画を担当したスタッフ、鈴木聖示、南家れもん、藤原美里は、最後にそう言い残してスタジオを去っていった。途中で何度も「うちの事務所にこない?」と誘いを受けながら。これはプロの目から見て拓夢は、相当の美男子だったということだろう。
「うわぁぁぁああ~っ。拓夢くんやったね。超イケメンじゃない!」
「こ……これが……僕……?」
大型のスタンドミラーに映し出された自分を目にしても、拓夢はまだ信じられなかった。しかし、桜は子供のようにはしゃいでいる。
「メイクの必要はなかったくらいだね。わー、どうしよ。なんかドキドキしてきた」
桜は拓夢の全身を、上から下まで舐めるように見回しながら言った。拓夢も、自分の姿を再確認してみる。
前髪がスダレのように下がっていたロングヘア―はバッサリと切られていた。
ボサボサとした髪は、前髪を少し長めにして、サイドと襟足を刈り上げたショートヘアになっていた。トップにはワックスでボリュームを持たせ、遊ばせながらもスッキリとした仕上がりだ。眉毛も生えっぱなしだったのが、細くて長めで、少しアイブロウを引いた濃い男らしい眉毛になっている。服装は黒のチノパンに、カジュアルなローファー。トップスは白のバンドカラーシャツの上にグレーのカーディガンにチェスターコートという、大人っぽいコーディネートだ。メイクはアイラインを引いてリップを塗り、コンシーラーを引いただけの簡易メイキャップなのだが、それでも十分過ぎるくらいの変貌を遂げている。
そしてスタイリスト達が帰った今、残された拓夢と桜は二人で賑わっているということだった。
「最高だよっ! 素晴らしいよ! ホントにカッコいいよ!」
拓夢の隣では桜が大興奮している。拓夢も異論はなく自画自賛になるが、とにかくカッコよかった。単純に垢抜けただけではなく、男としても一皮剥けた気がする。
「あの時、屋上で拓夢くんの素顔を見た時から思ったんだぁ~。素材が凄くいいって! 沢山芸能人を見てきたけど、拓夢くんは全然見劣りしないよぉ!」
「そ、そうですかね……」
「そうだよ、カッコいい! カッコいいよ!!」
そうまで断言されると、恥ずかしさを通り越してむずがゆくなってくる。と、うつむいていると、桜がにこやかに話しかけてきた。
「拓夢くん。これで、みんなとも打ち解けられるね!」
上目遣いに覗き込むその姿は、汚れのない美少女そのものだった。よく見ると、桜もうっすらと化粧をしている。今さらながら、桜の可愛さにドキドキする拓夢だった。
「はい……多分」
「多分、じゃなくてぇ、絶対だよ!」
左手を腰に当て、右手の人差し指を顔の前で揺らすポーズは、まるでアイドルのように決まっていた。
「元気が出たようでよかった。これでもう、学園を辞めるとか言わないよね。えへへっ」
優しさに満ちた表情で笑いかけられ、拓夢はさらにドキッとしてしまう。
桜は……自分が学園を辞めると言ったのを気にして、それで拓夢を元気づけようとして、ここまでの用意をしてくれたのだ。
「……本当に、ありがとうございます。何とお礼をしたらいいか……」
「お礼?」
何を言ってるの? というように目を丸くする桜。
「いいんだよ拓夢くん! お礼なんてッ!!」
「うわっ!?」
急に顔を前に突き出されて、拓夢は悲鳴を上げる。こんな美少女にまじまじと見つめられたら、流石に汗をかく。桜はびしっ、と拓夢を指さした。
「でも~。学園を辞めるだなんて、言わないでね!」
「あ、は、はい。桜さんには、これだけのことをして頂いたんですから! それに、ちゃんとお礼はしないと……」
「お礼はいいんだけどね~。わたし、別に欲しいものは……ぁっ」
笑って振っていた手が、ふと止まる。
「あっ、あったかも!」
その固まった右手を、左手のひらの上にポンと乗せながら、桜は叫んだ。
「な、なんでしょうか?」
拓夢がドキドキしながら尋ねると。
「わたしね。子供の頃からの夢があったの!」
桜は口を大きく開けて叫んだ。
「あのねーっ。わたし、拓夢くんに、『白馬に乗った王子様』になってほしいなッ!!」




