㉗拓夢大改造計画
そして、あっという間に翌日となり――
時刻は、お昼の3時過ぎ。
拓夢は私服に着替えると、校門の前で待っていた。
事前に連絡があった通り、白塗りの高級車に迎えられる。
のめり込むようなフカフカのシートに座ると、「え? 今揺れたの?」というぐらいに揺れが少なく、快適な乗り心地だった。
「ミスター城岡。シャンパンでも飲みますか?」
後ろの座席に座る接待係のメイドが、脚の細いグラスとミニボトルを持ちながら尋ねてきた。
「い、いえ……僕は未成年なので。お茶とかあったらお願いします」
「それでしたら、色々と種類がございます。ほうじ茶、くき茶、玄米茶……それとも、お紅茶になさいますか? 北欧から取り寄せたティーセットがございますのよ」
「……じゃあ、ウーロン茶で」
車に乗っているだけなのに、まるで小さなホテルの一室にいるような錯覚を覚える。
もしかして、「シャワーが浴びたい」といえば、リクライニングが動いてシャワールームに変形するのではないだろうか。
そんな非現実的な妄想をしてしまうほど、凄い車だ。
なんてことを考えている間にも、車はどんどん先に進み。
見えてくるのは、高級な住宅街だ。
木彫りの表札が掲げられたバカでかい屋敷だの、ビルと見まがうほどの超高層タワーマンションだのと。眩暈がせんばかりだ。
とはいえ、これから訪ねる加々美邸も、負けず劣らずの大邸宅だと聞いている。
拓夢のような貧乏庶民がお邪魔して、失礼があったらどうしようか……。そんなことばかり考えていると。
「到着しました。ミスター城岡」
「おおう……ここですか」
「はい」
そう言って運転手のメイドがハンドルを切り、白い輝石のレンガで出来た堀の高い門を通る。拓夢の家ほどありそうな広い門扉をくぐると、プールやゴルフ場やテニスコートなどが見えた。白を基調とする屋敷の中を、さらに車で移動する。天然石で作られた、白光りのする石畳が敷かれたアプローチを、車で移動するというのは、拓夢の人生ではない経験だった。
そして、大理石で出来たホールに案内される。
そこは要約すると、「もの凄く豪華な部屋」だ。
光り輝くシャンデリア、高級そうなペルシャ絨毯、王宮で使われていそうなエレガントなソファーに、重厚感を感じさせる木製のテーブルなどの調度品。
全てが桁違いだったが、そんなことよりも。
どんな調度品よりも綺麗で、高貴なものが。部屋の中央にある螺旋階段から降りてくるのだった。
「拓夢っくううううぅぅぅうううん! いらっしゃああああああああああいッ!」
桜が、元気よく手を振る。
「……」
拓夢がしばらく呆然としていると、
「……んん? どうしたの? 拓夢くん~」
「いや、別になんでも……」
拓夢は顔を赤くし口ごもりながら、
「そ、そのドレス。似合ってますね……」
否、正確には「似合いすぎていた」のだ。
スリットから覗く艶めかしい脚がセクシーな、ファッションドレス。ノースリーブから露出した首元から肩までのラインは優雅な曲線を描き、桜の無垢さも相まって、まるで天使のような愛らしさだった。
「ありがと~~~~ッ、拓夢くん!!」
稚拙な誉め言葉だったが、桜は大変喜んでくれたようだった。
「でも、今日は一体……?」
拓夢が尋ねると、桜はパアッと顔を輝かせた。
「あぁ、そうだね! 待たせても悪いし、早速いこっか!」
桜は自身が下りてきた階段まで向かう。
「拓夢くん、ついてきて!」
「あ、はい。でも、何するんですか……?」
拓夢の問いかけに、桜はクルッとターンし、後ろを向いた。
その瞬間、スリットの深い切れ目から白磁のような足があらわになり、サラサラな栗色の髪が、花吹雪のように舞った。
綺麗だ……。思わず、拓夢は見とれてしまった。
桜は、オモチャで遊ぶ子供のように純粋な目をしながら、
「今日はねぇ、『拓夢くん大改造計画』を実行するんだよぉおおぉ~~ッ!!」
「へ……?」
「ふん、ふん、ふ~~~~ん♪」
拓夢のまぬけ声に答えることなく、桜は鼻歌を歌いながらホールを抜け出し、ステップを踏みながら階段を上がるのであった。




