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庶民特待生となった僕は、名門学園に通う美少女達から愛されまくる!  作者: 寝坊助
第1章 ようこそ庶民様! 聖ジュリアンヌ女学院へ!
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㉖本音で語り合いましょう?

 それから放課後になり、夕方の五時。

 拓夢は、一人屋上にいた。


 庶民同好会に顔を出す気にも、ノエルの下で勉強をする気にもなれなかった。

 なにより、四天使と顔を合わせるのが怖かった。


 自分は、四天使とはうまくやっていけてない。むしろ、怒らせるようなことばかりしている。

 百合江からは危険人物だと警告され。

 真莉亜からはライバル視されている。

 くるみなどは、励まそうとして逆に激昂される始末だ。

 一応うまくいってるように見えるのは桜だが、彼女も何を考えているのかよく分からない。


 だから、屋上へきた。何も考えず、吹き荒れる風にさらされていていたかったのだ。

 夕日は、不気味なくらいに真っ赤だった。

 冬の名残を感じさせる南風が若干肌に痛いが、拓夢はそれでもフェンスの前から離れなかった。

 ずっと、自分の生まれ育った町を眺めているのだった。

 

 ――あちらのご両親だって、今頃あなたのことを心配しているはずです。ですから、戻ってさしあげたらいかがですか?


 百合江の言った言葉が、思い出される。

 今家に戻ったところで、義両親にぶっ飛ばされるだけだ。

 しかし、それでもいいと思えるほど、拓夢はホームシックに陥っていた。


「帰りたいな……」


 思わず、そんな言葉が口から出た。

 もはや、実感が沸かない。自分が庶民特待生なのだって、お嬢様学園にいるのだって、全部が夢のように思えてきた。


 拓夢の目に涙が浮かんで、それが零れ落ちないようにと、手すりを掴む指にぐっと力を込めたその時――


「拓夢くん」


「あ……桜さん……」


 声をかけてきたのは、四天使の加々美桜。ショコラブラウンの前髪をセパレートにした、ロングヘア―の美少女。拓夢が初日にピンチに陥っていた時、唯一助けてくれた人だ。拓夢が向き直ると、桜は無言でフェンスの前まできた。


 同好会をサボった拓夢としては、居心地の悪い相手だ。

 桜はすごく優しい人だから、引くほどキツいことを言われる心配はないが。

 それでも、こうして無言でいる時間が長く続くと、やはり気まずい雰囲気になる。

 しばらく手すりの下から街を見下ろしていた桜は、ゆっくりと口を開いた。


「ここの眺めって、気持ちいいよね」


「……僕も、そう思います」


 当たり障りのない会話で、緊張をほぐそうとしている。つまり、桜なりに気を遣ってくれているのだろう。


「わたしね。この眺めを見るたびに思うんだ。こんな幸せそうな景色にいる人たちが、不幸なはずないって。でも、違ってたんだね……」


 桜は、意味深なことを言うと言葉を切った。

 そのまま、拓夢の方に向き直る。


「拓夢くん。どうして庶民同好会に、こなかったのかな」


 優しげで、それでいて困ったような声。

 清流のように透き通った声が少し震えているのは、彼女の中に不安があるからだろう。


「みんな、心配してるよ。真莉亜ちゃんも、百合江ちゃんも、くるみちゃんも。拓夢くんがいないから、みんな寂しがってるよ?」


「……すみません。明日からは、ちゃんと行きます」


 ……拓夢は、それだけ答えるのが精いっぱいだった。


「もしかして、お腹でも痛いの? いいお医者さん、紹介しようか?」


「……ありがとうございます。大丈夫です」


 拓夢の声も、震えていた。先ほど泣くのを我慢していたせいだ。

 桜の前で惨めに泣くわけにはいかないと、うつむきながら懸命に唇を噛んでこらえていると。


 優しい声が聞こえてきた。


「拓夢くん」


 拓夢は顔を上げた。


「何かあったの? わたしでよかったら、相談に乗るよ?」


 その顔は、今まで拓夢が出会ったどの人物よりも、優しげに見えた。

 しかし、対照的に拓夢は、顔を引きつらせていた。

 そして、表情を曇らせながら答える。


「僕は……自信がないんです。四天使の方たちと上手くやっていける自信が。それに……庶民特待生なんて。僕には……到底無理だったんです」


 そう、それが拓夢の結論だった。TVや新聞で紹介されるような大物の娘ばかり通う学園で、自分のような庶民が過ごすのは、大変なことだ。まして、自分は女性アレルギーを抱えている。


「ちがうよ。拓夢くん。みんな、そんなこと思ってないから」


 優しい声が、撫でるように言う。

 しかし、拓夢は答えない。

 代わりに、桜の顔をじっと見つめた。


 白い制服に包まれた、悪意とは無縁の環境で育った、純粋培養のお嬢様。

 彼女は、きっと知らないのだ。吐き気すら覚えるほどの、人間の壮絶な害意というものを。


「だから拓夢くん。みんなで仲良くしようよ。百合江ちゃん達には、わたしの方からちゃんと言っておくから」


 桜は、心配そうに拓夢に話しかけた。

 しかし桜は、拓夢と他の四天使とのいざこざを知らないから、そんなことが言えるのだ。


「とにかく……拓夢くん、落ち着いて? せっかくこうして出会えたんだから。拓夢くんのことがもっと知りたいし、わたし達のことも、拓夢くんにもっと知ってほしいの」


 それは……どっちの? 拓夢は、そう聞き返そうとして口を閉じた。

 結局彼女も、「庶民」というものを好奇の目で見ているだけではないのか?

 唇を噛みしめる拓夢を、心配そうに見つめる桜。

 二人の間に渦巻く大気が、一段と強くなった時。

 拓夢の(せき)が切れた。


「もう、いいんです」


 自分の口から出た言葉に、拓夢は驚いていた。

 桜は大きな瞳を見開いて、拓夢を凝視した。


「……拓夢……く……」


 透き通った瞳が、涙で潤んでいる。

 拓夢は、罪悪感にかられながらも、


「もう、いいんです! もうこの学園は辞めます! 僕はただの貧乏な庶民なんです! 皆さんとは違うんです! 住む世界が!」


 拓夢がそう癇癪(かんしゃく)を起こした時だった。

 猛烈に激しい強風が、二人の間に吹き荒れたのは。


「きゃあっ!」


 突然の小さな台風に、桜は悲鳴を上げながら頭を抱える。拓夢としても同様だった。あまりの強風に前髪がかき上げられ、メガネがずれ落ちる。


「……大丈夫? 拓夢く……ん?」


 拓夢を見て、桜がきょとんと声を上げる。

 まるで、何かに気づいたかのように。


「だ、大丈夫です……ちょっとメガネが落ちそうですけど……」


「ま、待って!」


 メガネを直そうとする拓夢を、桜は制止した。


「な、なんですか……?」


 拓夢の疑問の声に答えず、桜は拓夢の顔をじっと見つめる。


「あぁ~」


 なんて、よく分からない呻き声など発している。

 しばらくそんな状態のまま、無言でお互い向かい合っていると。

 

「あぁぁぁあぁぁぁぁぁあああああああ~~ッッ!!」


「ひいっ!? す、すみませんすみません!」


 突然大きな声を出す桜に、ビックリして頭を下げる拓夢。

 しかし、ドキドキしながら顔を上げると、


「あははっ、ビックリした?」


 ニコニコした桜が、そこに立っていた。


「ビックリしましたよ……心臓に悪いから、やめてください」


 拓夢は呆れながらも、メガネをかけ直し、乱れた髪型を直した。それから制服によったシワや付着したホコリなどを払っていると。


 桜は、満面の笑顔で話しかけてきた。


「ねえ! 拓夢くん、明日ヒマぁ?」


「あ……明日、ですか?」


「うん! 明日は学校休みでしょ? だから、ヒマかなーって」


 突然の話題変換に、拓夢の脳はついていかなかったが。

 

「ええと……とりあえず、予定はないですけど……」


 すると、桜の無垢な瞳がキラキラと輝いた。


「じゃあ、わたしの家に来て!」


「なんでですか?」


「なんでも! まだ説明はできないけど、拓夢くんの為になることだから!」


「はあ……」


 拓夢は考えた。桜が何を考えているのかは分からないが、どうせもう辞める学校だ。桜もそれが分かって、最後に思い出を作ろうとしてくれているのかもしれない。それならば、わざわざ好意を無下にすることもないだろう。


「まあ、いいですよ。よく分からないですけど」


「やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」


 桜は、ぴょんぴょん飛び跳ねながら全身で歓喜を表す。

 そして、


「それじゃあ、絶対だからね! 明日、車で迎えを用意するから!」


「は……はい」


「拓夢くんは、お昼頃に校門の前で待ってるんだよぉ!」


「はい」


 拓夢が答えると、桜はせわしなく、


「わたしは準備があるから、これで帰るね! 拓夢くん、また明日ね~ッ!」


「準備……?」


 拓夢の疑問に答えることなく、桜は元気よく走り去ってしまう。

 後に残されたのは、冷たい風に吹きさらされる、孤独な空間だけだった。

 

 やはり、桜が一番何を考えているのかよく分からない。


「一体何があるんだ……? 明日に」


 拓夢は、呆気に取られながら呟いた。

 しかし、真に驚かされるのは、明日になってからのことであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 女性アレルギーでしかもいくら最後は本人に選ばせたとはいえそれまでの過程が断る事をさせないばかりのほぼ強制的に学園にいれたようなもんだからそりゃ辛いよねぇ ほんと主人公が可哀想やわ
[良い点] ランキング眺めてたら結構上位だったんで重畳。 [一言] 「え、今までの経緯って、鬱転するとこ?」とちょっと戸惑いました;; ・・・・・「才能チートでイケメンのくせにゼータク抜かし…
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