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庶民特待生となった僕は、名門学園に通う美少女達から愛されまくる!  作者: 寝坊助
第1章 ようこそ庶民様! 聖ジュリアンヌ女学院へ!
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㉔くるみの勘違い

 そんなわけで、重い足取りでくるみは中庭に来たのだった。

 もう食堂へは行けないし、もちろん教室にも戻れない。

 今頃杏奈は深く悲しんでいるだろうか。

 なぜあんなことを言ってしまったのか。杏奈はあれだけ大人だというのに。周りの連中と自分を比べると、胃がキリキリと痛みそうになる。


 だからこそ、気が向いた時はこうして中庭に来てしまうのだ。

 自然が多く、人がいないというのは、素直にありがたい。理想は自分以外に誰もいないことなのだが。


「はぁ……ちょっと休憩するです……」


 とぼとぼと歩いていたくるみが、足を止めた。

 森林が深くなり、小高い丘にさしかかったところだ。

 ベンチに、誰かが座っている。


「なんだ……? ゴミが落ちてるじゃないか」


 それは、庶民特待生の城岡拓夢だった。


「しょうがないな……よっこらしょっと」


 拓夢は立ち上がると、落ちていたゴミを持っていたビニール袋の中に入れる。


「公園は綺麗にしないとね」


 拓夢はその外にも枯れ葉や木の枝などを拾うと、近くにあるゴミ箱の中に捨てた。


「うん。これでよしっと」


「城岡先輩……何て、優しい人なんですかぁ」


 くるみは、その一部始終を木の幹に隠れて見ていた。拓夢のことは正直冴えない男の子だなと思っていたが、こういうさりげない優しさを見せられると……なんだか、ときめく。


 そんなことを考えていた時だった。


「……あれ? なんだ、お前?」


「にゃあ!」


 甲高い声にくるみが我に返ると、ベンチに座る拓夢の横に、学園の飼育動物である、ペルシャ猫のタルトがすり寄ってきていた。


「……にゃあ、にゃあ、にゃあ」


「わ、分かった分かった……分かったらそんなにくっつくな。ほら、ミルクあるけど、飲むか?」


 タルトに頬ずりされたり顔中を舐められた拓夢は、自分の飲み物であろう牛乳を紙皿に入れると、タルトに向かって差し出した。


「にゃあん!」


「おいしいかー。いい飲みっぷりだね」


 拓夢は白色の貴婦人に優しい視線を向けながら、ゆっくりと背中を撫でる。


「まさか……あのタルトが懐くだなんて」


 猫の王様とも呼ばれるペルシャ猫は、物静かな性格の反面、滅多に人には懐かない。くるみもその愛くるしい仕草に何度か触ろうとしたが、そのたびに避けられている。

 それが拓夢に対しては、尻尾をフリフリしながら、喉をゴロゴロと鳴らせ、潤んだ目で彼を見つめている。


 つまり、拓夢は動物に好かれる、優しい人間!


 くるみの中で、拓夢の好感度が急上昇していくのを感じていた。まあ、考えようによってはミルクで猫を手なずけているだけなのだが……。しかし、あのタルトを撫でる時の優しい視線、暖かい声。もしも、自分も同じようにしてもらえたら……。


(って! くるみは何を考えているですか!?)


 よだれを垂らしながら妄想を膨らませていたくるみは、邪を払うように頭を思い切り振った。


(落ち着くです。城岡先輩は、真莉亜お姉さまをたぶらかそうとする、危険人物なんですから……)


 ぶつぶつと独り言をつぶやく、くるみの耳に、拓夢の声が聞こえてきた。


「う、ううっ……」


 くるみが顔を上げると、拓夢が目頭を押さえながら、嗚咽しているのが見えた。


「……あぁっ」


 くるみは、悲鳴が出そうな口を、咄嗟に抑えた。

 ……拓夢が、泣いている。

 よく考えてみれば、確かにそうだ。


 いくら年頃の男の子とはいえ、女性アレルギーを持つ身で女子校に入学するなど、おかしな話だ。ならば、よほどの理由があるに違いない。

 

「こら、舐めるなよ。くすぐったいじゃないか」


 涙の跡をタルトに舐められる拓夢を見ながら、くるみは考えていた。

 おそらく、拓夢は出稼ぎにきているに違いない。ウルトラ貧乏な家にお金を入れるために、自分の身を売ったのだ。親の言うまま、流されるようにこの学園にきたくるみにとっては、考えられない博愛精神だった。


 しかし、拓夢は寂しがっているのだ! だから誰もいない自然広場までやってきては、人知れず泣いていたに違いない!


 でも、もしそうなら、自分たちを頼ってくれればいいのに、とくるみは思った。

 桜も真莉亜も百合江も、みんな優しくて頭のいい人たちばかりだ。無理せずに、相談するなりすれば……。


(はっ、そうか! 城岡先輩はきっと、みんなに遠慮してるです! だから、自分だけで悩みを抱えこもうとしてるです!)


 くるみは、愕然としていた。

 他の四天使には、拓夢も相談しづらいだろう。なにせ、皆特殊な環境で育っているお嬢様達だ。だからこそ、誰にも悩みを打ち明けられない拓夢は追い詰められている。


(くるみが……くるみが何とかしてあげないと)


 思い立った時には、くるみは既に行動に移していた。


「城岡先輩♪ こんにちはですう☆」


「あ……姫乃咲さん」


 タルトと戯れる拓夢に向かって、声をかける。積極的に自ら男子に話しかけるなどということは、くるみにとって初めての出来事だった。

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