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庶民特待生となった僕は、名門学園に通う美少女達から愛されまくる!  作者: 寝坊助
第1章 ようこそ庶民様! 聖ジュリアンヌ女学院へ!
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㉒拓夢の涙

 ――昼休み。拓夢は、聖ジュリアンヌ女学院の中庭にいた。といっても、ガーデンカフェやテラスなどといったオシャレな場所ではない。木々が生い茂る広場の端っこにある、木陰に設置されたベンチだ。


 パラソルもテーブルもないので、ランチを楽しみたい学生達はもっぱらテラス席に行く。拓夢のいる広場は緑の清涼感を感じる一方、虫や天候に悩まされるため、人は少ない。


 だからこそ拓夢は、ここへ食事に来たのだ。食堂は高級ホテルのレストラン並みで、大勢の生徒で賑わう。となれば、拓夢に注目が集まる。


 人の少ないこの森林公園が、拓夢にとって唯一の癒しだった。あれだけのお嬢様、それも美少女揃いから注目されるのは、別に悪い気はしない。特に、真莉亜を倒してからは羨望(せんぼう)の的だった。この女性アレルギーさえなければ……。


「ふわあ……ねむい」


 拓夢は大きくあくびをした。

 昨日は夜遅くまで起きて、今日は朝の4時起き。早朝から百合江と一緒に廊下の掃除をした上、体育の授業では真莉亜とアーチェリー対決までしたのだ。


 加えて、木々や植物が生い茂り、森林浴にピッタリな森林広場。太陽がポカポカと降り注ぎ、食後ということもあってか、拓夢の眠気は既に限界を迎えようとしていた。


「ん……? なんだ、ゴミが落ちてるじゃないか」


 風に流されて飛ばされてくる菓子パンの包装袋を、拓夢はあくびをかみ殺しながら見ていた。


「しょうがないな……」


 拓夢は立ち上がると、ゴミを手にした。近くに落ちているペットボトルなんかも拾って、設置されているゴミ箱に捨てる。ついでに、ぼうぼうになっている草もいくつかむしっておいた。


 百合江と朝一緒に掃除してから、拓夢は常にこんな感じだ。百合江の学園に対する奉仕の心に感動したからだ。きっと今頃も、何かしらの人助けをしているに違いない。


 ここにいない百合江に力をもらった気がして、いいことをした気持ちよさを感じていた、その時だった。


 拓夢の前に、猫が現れたのは。

 おそらく、飼育小屋から逃げてきたのだろう。この学園にはニワトリやウサギ、ハムスターに加え、犬や猫などの動物も飼育されているのだ。おそらく、飼育係の一瞬の隙をついて逃走したと思われる。


「可愛い猫だな……エサあったかな?」


 ふわふわな毛並み、まんまるとした瞳、短い手足から見ると、ペルシャ猫だろうか。拓夢が座り直したベンチの横に座って、じっとこちらを見ている。


「にゃん♪」


 ペルシャ猫はべたべたした接触は好まない性格と聞いていたが、この猫はまるで拓夢のことを恋人かのように、喉をころころと鳴らし、尻尾をフリフリし、そして、拓夢に抱きついてきた。


 尻尾の付け根にふくらみがないところを見ると、おそらく雌だろうが。


(はは……動物なら女の子でも楽にさわれるのにな……)


 拓夢が苦笑いしている間にも、メス猫は拓夢の体をよじ登ったり、すり寄ったり、舐めまわしたりしてくる。


 これだけ懐かれていると、ちょっと不安になる。ひょっとして、お腹でも空かせているのではないかと。


「ひょっとしてお前、お腹空いてるのか?」


 拓夢が声をかけると、メス猫は愛嬌のある顔を動かしてこっちを見た。絹のように柔らかな毛並みに、大きな瞳。猫の王様と呼ばれるのも、納得の愛くるしさだ。


「なんだ。そうなら早く言いなよ……ちょっと、待ってろよ」


 拓夢は紙パックの牛乳の残りを紙皿にそそいで、メス猫の前に置いた。

 するとメス猫は「にゃんっ」と短く鳴いて、ぺろぺろと美味しそうにミルクを舐めまわした。


「……美味しいか?」


 拓夢が声をかけると、メス猫はミルクまみれになった顔を上げて、「にゃん♪」と鳴く。

 しかし、飼いネコとはいえここまで警戒心がないとは……。

 もしかして、自分は動物に好かれるタイプなのか?

 そんなことを思いながら、拓夢はメス猫の背中をさすっていた。


「ふわああああ……。猫ちゃん、眠い。眠いよ」


 もふもふの背中を撫でていると、気持ちよさからますます眠気が襲ってきた。今寝たら間違いなく5時間目の授業に遅刻することは分かっているので、わずかな時間でも目を閉じることは許されない。


「ああ……あくびが……。涙が出る」


「にゃあっ!」


 途端に猫は起き上がり、拓夢の涙をペロペロと舐める。


「こらーっ、くすぐったいだろっ」


 拓夢が注意するも、メス猫は顔を舐めるのを止めない。

 その時だった。


 拓夢たちがいるベンチに、もう一つ影が差したのは……。


「城岡先輩、こんにちわですう♪」


「あ……君は」


 そう、その人物とは、四天使の一人にして、庶民同好会に所属する一年後輩、姫乃咲くるみであった。

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