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庶民特待生となった僕は、名門学園に通う美少女達から愛されまくる!  作者: 寝坊助
第1章 ようこそ庶民様! 聖ジュリアンヌ女学院へ!
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⑳覚醒する拓夢

 結局、2セット目も真莉亜の圧勝で終わってしまった。

 これで真莉亜は4ポイント獲得。このセットで2ポイントを獲得すれば、それで勝利だ。一方の拓夢は、ここから3セット続けてポイントを取らなければ勝ちの芽はないという、絶望的な状況。


「城岡さま。本当に大丈夫なのですか?」


 前のセットの終わり際、「アーチェリーのコツをつかんだ」と豪語した拓夢に対し、真莉亜が心配そうに声をかける。


「大丈夫です。まあ見ててください。僕、これでも勝負強い方なんで」


 強がってはみたものの、そこまで自信があるわけでもなかった。

 なんといっても、ここでポイントを取らなければお話にならないのだから。

 しかし、そんなことを考えていても仕方がない……拓夢は気を静めると、スタンスを取り、胴を構えた。先ほどまでと違って、的が近く、ハッキリと見える。


 息を呑むギャラリーのざわつきも、真莉亜からの視線も。今は気にならない。

 しっかりと弓をつかんでセットアップの体勢を取り、バランスを取る。

 そして、すかさずドロー。


 当たったのは、ギリギリで7点の場所だった。


「やったじゃない城岡君! そうよ、君はやればできるのよ!」


 喜びの声を上げたのは、拓夢に射形を教えてくれた体育教師だった。


「まぐれではありませんこと? 7点だけ取っても、真莉亜様には遠く及びませんわ」


 取り巻きからの評価は依然として厳しかったが。


「いいえ、まぐれではありませんわ。城岡さまは、この短時間でここまで成長なされたのですわ」


 酷評するギャラリーの中にいて、にこやかに拓夢を絶賛する真莉亜。敵に対して賛辞の言葉を贈る真莉亜に、取り巻き達も手のひらを反す。


「し、城岡様おめでとうございますぅぅぅ! うううっ、さ、さすが庶民様ですわ! 真莉亜お嬢様に褒めていただけるなんてえええええっ!」


 ……拓夢としてはどちらでもよかったのだが。どういう形でも褒められて悪い気はしない。

 

「有栖川お嬢様、どうですか? これで、少しは楽しめそうですか?」


「もちろんですわ。わたくしも負けませんけど」


 プライドを刺激されたのか、真莉亜は優雅な微笑みながら、自信をもって返事をした。

 それもそのはず。真莉亜は7歳からアーチェリーを始めているのだ。そして、今では全国大会の上位常連――オリンピックに出ないかと勧誘を受けたこともある。自信をもって当然というものだ。


「これで、わたくしは10点獲得ですわ……うふふ、少しリードしましたわね」


 1射目を終えた真莉亜が、戻ってくるなり言った。

 真莉亜はこれまで、全て的の中心に当てている。ならば、拓夢もまた10点を取り続けなければ。最低でもイーブンにすらならない。


「さあ、次は城岡さまの番ですわ」


 真莉亜に促され、拓夢はラインの前に立った。そして、目を閉じる。動かない。まるで時が止まってしまったかのように、じっとしている。


「城岡様は、どうなされたのでしょう……?」


「しっ!」


 真莉亜に黙るよう促されて、取り巻き達は慌てて口をつぐむ。真莉亜には分かる。拓夢は、制限時間いっぱいを使って、集中しているのだ。真莉亜は驚愕していた。


 なぜなら拓夢の集中力は、トップアスリートのそれを連想させたからだ。

 拓夢は一見地味な動作で、ゆっくりと、かつ頭のてっぺんからつまさきまで、少しの淀みもない自然な、美しささえ感じる姿勢を取った。


 そして、焦点を合わせる。アンカーを引く際、肩に力が入ったり顎を出したりする初心者がよくいるが、拓夢は顔向きも顎の高さも一定している。


 アンカーとは、英語で「しっかり固定する」の意、アーチェリーでは転じて、顔の横に弓を引く手を固定する技術だ。つまり、矢を放つ前に命中率を上げるテクニックである。


 ローアンカーの場合、引手の人差し指のポイントをアゴの下あたりに固定して打つようにするのが一般的なのだが、このとき、弦は鼻・唇・アゴの3点に触れるように固定しなければならない。


 いうなれば、アンカリングとは自分の顔を利用して、正しい引き分け位置を見極める物差しにする技術なのだ。これによって、ポイントがブレるということが大幅に減少する。

 アンカリングは正しい位置で固定しなければ、かえってリリースポイントがブレてしまうため、上級者向けのテクニックと呼ばれている。


 それを初心者がマスターしたとあれば……天才といってもいい。


(そう。城岡さまは……天性の才能を持っていらっしゃる) 


 大げさかもしれない。いや、大げさだ。しかし、真莉亜はそう思わずにはいられなかった。

 真莉亜は、自分の視線の先を一筋の矢が走り、それが的の中心近くに当たるところまでを、ボンヤリと見ていた。


「……真莉亜様? 真莉亜様!」


「……はっ!」


 返事をするまでに6秒。声も大きくなってしまった。

 真莉亜の推察どおり、拓夢は10点の的に当てていた。

 真莉亜は、おそるおそる拓夢の姿を目で追った。美少女の熱い視線にも動じず、拓夢はゆっくりと残身を取っている。


(まさか……城岡さま!? 何なのでしょう、この……胸からこみ上げてくる気持ちは)


 真莉亜は動揺していた。底知れない拓夢の才能に対して。

 否、拓夢という人間に対して、だ。


 おそらく、拓夢は真莉亜の射形を観察しながら、その動作を真似したのだろう。アーチェリーの上達のコツは、上級者の動きを真似することだ。しかし、初心者が下手に猿真似をしたところで、逆に下手になってしまう可能性がある。


(このわたくしが、殿方に対してここまで心揺さぶられるだなんて……)


 自信満々に「コツをつかんだ」と言ったくらいだし、偶然ではないのだろう。

 そもそも、あれだけの超人的な動きを見せつけられた後では……。

 真莉亜は、シーンとする一同に対し、


「皆さま! わたくしに遠慮することはありませんわ。城岡さまに、どうか盛大な拍手を!」


 と笑いかけると、


 ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちっ!!


 予想外に大きな拍手が鳴り響いた。

 どうやら、ギャラリーも拓夢の放つ矢に感じ入るものがあったらしい。

 面食らったのは拓夢だ。


「お嬢様!? なんで僕なんかのために……?」


「敵に塩を送る、というやつですわ」


 真莉亜は、悠然と微笑んだ。


「それに、わたくしは負けませんもの」


 そう言って、真莉亜は弓と矢を持ってラインの前に立つ。

 拓夢は感じていた。にこやかではあるが、真莉亜から発せられる、勝負に対する執念のオーラが。


「そう……わたくしは、負けるわけにはいかないのです」


 誰にも聞き取れないような、小声でつぶやく真莉亜。有栖川家の本家に生まれ、幼いころから両親に英才教育を施されてきた真莉亜だ。アーチェリーを始めたばかりの初心者に、意地でも負けるわけにはいかない。


 とはいえ、拓夢の才能を軽視するわけではない。拓夢の才能は認めている。畏怖してるといってもいい。


 拓夢は、一体どのような出自なのか。前の学校では、何かスポーツでもやっていたのだろうか。一気に拓夢に対して、興味がわく真莉亜なのであった。


 色々な思考が巡る中、真莉亜が弓を引くと……。


「は、外れましたわ……」


 なんと、的を大きく外し、0点。

 驚愕する真莉亜よりも絶望的な表情をしたのは、ギャラリーの方だった。


「ま、真莉亜様が的を外されるなんて……」


 あまりの事態に、立ちくらみを起こす女子生徒。

 とある女子生徒は、その生徒を抱き支え自らもすすり泣く。

 そんな様子が、真莉亜のすぐ後ろで繰り広げられているのであった。


「そ、そんなに深刻なことなんですか?」


 拓夢がつっこむと、真莉亜は悲しげに眉をひそめる。


「わたくし、ここまで大きく的を外したの、生まれて初めてですの」


「そうなんですか。僕なんて、もう何十回も的を外してますよ。有栖川お嬢様も、そんな気にすることありませんよ」


「ありがとう存じますわ、城岡さま」


 勇気づけられた真莉亜は、にっこりと笑みを見せた。それがきっかけとなったのか、取り巻き達も少し元気を取り戻したらしい。気絶した女子生徒も意識が戻っている。


 真莉亜は、そんな取り巻き達をチラリと一瞥(いちべつ)すると、


「……そうですわ。わたくしには、負けられない理由がありますの」


 真莉亜の独り言を、拓夢は尋ね返す。


「? 何か言いました?」


「いいえ。大したことではありませんわ」


 フルフルと首を振る真莉亜。

 しかしその顔には、明らかに疲弊の色が見えた。


「疲れてるみたいですし。もう、この辺にしておきましょうか?」


「いえ。最後まで続けたく存じますわ」


 強気にそう言われては、拓夢に返す言葉はない。


「それでは、勝負を再開いたしましょうか」


「いいですけど……本当に大丈夫ですか?」


「大丈夫ですわ。わたくし、この勝負だけは絶対に決着をつけたいですもの」


 凛とした表情で答える真莉亜。

 この後、決着は意外な形でつくのであった。

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